勝確エンドロール!
「ルークに、エペルに……メイだと? なんでテメェらが
S.T.Y.X.の特警班・カローンが襲う管制室に乗り込み、エペルのユニーク魔法で棺の中に閉じ込めればカローンが機能を停止するのと同時に先輩たちが全員目を丸くさせる。
中でもレオナ先輩は私の姿を見て口を開けたまま動かなくなってしまった。
すぐに状況を受け入れられたのは私たちが島に来ているのを知っていたヴィル先輩だけで他の人たちは信じられないとカローンを倒した後も目を瞬かせていた。
「色々あって、どうしても追いかけなきゃって……」
ルーク先輩のユニーク魔法を使って追ってきたのだと説明すればすぐにみんな納得してくれたがレオナ先輩の視線は私に刺さり続ける。
怒られるのは承知の上だ。……これで嫌われても仕方がないとも思う。それくらい私の行動は無茶で無謀で叱られるべきだと自分でも思う。それでも私はどうしても引くことが出来なかった。
「みなさん、グリムを知りませんか?」
誰かが知っているんじゃないか。縋る思いで聞けばリドル先輩が首を傾げる。
「グリム? 彼も嘆きの島へ連れてこられたのかい?」
「はい。ヴィルサンたちが連れ去られた後に、捕まってしまって……。皆さんと一緒に居るものだとばかり思っていたんですが」
「この島に来てから、検査の時も、それ以外でも、一度もグリムさんはお見かけしていませんね」
「そんな……」
最後に見たグリムの姿が脳裏を過る。籠に閉じ込められ、泣きながら私達の名前を、私の名前を呼ぶグリム。
その前に会えたのがVDCのステージの上……。私の腕を引っ掻く明らかに正気じゃないグリムだったのもあって嫌でも心臓が締め付けられる。
あんな別れ方でもう二度と会えなくなってしまったらどうしよう。
こんな怪我大丈夫だよって、お腹空いて機嫌でも悪かったの?って、笑って許してあげたいのに。
長旅の疲れからか、心労によるストレスからか、涙腺が簡単に緩んでしまう。
じわりとあふれ出しそうになった涙を必死に抑えて唇を噛みしめていればレオナ先輩の声が耳を打つ。
「…………待てよ」
何かを思い出すかのように額に手を当てたレオナ先輩の視線だけが私を見る。
「もしかして、俺たちより先にドアをぶち破って脱走した被検体ってのは……あの毛玉か?」
レオナ先輩の言葉に思わず肩が跳ねあがり、グリムにそんなことが出来るはずがないと否定する面々の言葉を遮りヴィル先輩が近くの職員に問う。
「アタシたちの個室の並び、一番奥の部屋には誰が?」
「被検体F……ナイトレイブンカレッジから連行された魔獣だ」
「……やっぱりあの毛玉か」
「でも、魔法に関するテスト結果はどれも並の魔法士以下。被検体Aの言う通り、あのドアを破るほどのパワーは一度も計測されていない」
「チーフ、待ってください。たしか被検体Fには、一点だけ特記事項があったはず……」
そうして語られるグリムにかけられた呪いと彼の行き先。
やはり、どうしても私はこの先に行かなきゃいけない。オンボロ寮の監督生として、グリムの子分として、私はあの子を放って一人安全な所にいるなんて出来ない。
溢れかけた涙を拭って、きっと止めに来るであろうレオナ先輩に行きたいのだと伝えるように強い眼差しを向ければ呆れたようにため息を吐かれた。
職員たちの静止を聞かず、イデア先輩の元……タルタロスを降りようと話を進める先輩達を横目についにレオナ先輩が私の目の前までやってくる。
「言いたいことは色々あるが、どうしてもついてくる気なんだな?」
「はい。怒られるのも、……嫌われてもしょうがないことをやってる自覚はちゃんとあります」
「…………はぁ」
また深く長いため息が今度は頭上で零れ落ちる。
けれど、レオナ先輩だって酷い。ラギー先輩に帰れないかもしれないと告げる彼はただ笑みを浮かべるばかりでそこには後悔も無ければ無念もなさそうだったとラギ―先輩は言っていた。
唯一私の名前を出した瞬間、少しだけ動きが止まったらしいが歩みを止めるまでには至らなかった。
私ではレオナ先輩がそこまで抗うきっかけになれないということなんだろうか。グリムは連れ去れる直前まで私の名前をあんなにも叫んでくれていたのに。
なんだか気まずくてレオナ先輩の顔が見れない。足元だけをただじっと見つめていれば、もう一度頭上でため息が落とされる。
「…………こんなことで嫌いになれたら俺はとっくにお前のことを手放してやれてるよ」
「え……?」
「ポムフィオーレの寮服を着ていることも、他の男の箒で何時間も飛んできたことも、こんな危険な島に追いかけてきたのも当然許せねぇ。当たり前だろ。魔法も使えないただの草食動物のお前に何ができるって言うんだ」
「うっ……それは本当にごめんなさい……」
覚悟していたお叱りの言葉にはただ謝罪するしか出来ない。
私だって逆の立場だったら絶対に許せない。大切な人には安全な場所で待っていてほしい。
「けど……」
「?」
「お前がそういうやつだっていうのもよく知ってる。俺が居なくなって、毛玉も居なくなって、ただじっとオンボロ寮で泣いてるなんて出来る女じゃないだろ」
レオナ先輩の声が少し優しくなった気がして顔を上げれば、美しいサマーグリーンが少し揺らめきながらも柔らかさを宿して私を見つめていた。
「お前がファントムと戦うのも今に始まったことじゃねぇしな。毎回俺の肝を冷やさせて、さては第二王子を早死にさせるために送られた刺客かなんかなんだろ」
「そ、そんなんじゃないです!」
「なら俺が安心できるようにこっからは大人しく俺らの後ろにいるんだな。エペルからさっき死にかけたって聞いたぞ」
こつん、と軽く拳が落とされてふと見れば話題に上がったエペルがこちらに頭を軽く下げていた。
あの時は本当に危なかった。エペルのユニーク魔法がなければ職員のおじさんと一緒に私はカローンにやられていただろう。
思い出すと恐怖が蘇って思わず目の前のレオナ先輩に抱き着けば、優しい腕はすぐに私を受け止めてくれた。慣れた手つきで髪を梳く手はここまでのダッシュでボロボロになってしまった髪を直してくれる。
最後にきゅっとリボンを締め直し離れていくレオナ先輩の背中を見ても、もう不安は感じない。
私たちが話している間に進行していたチーム決めに混ざって、私とレオナ先輩はそれぞれ違うタワーを降りることが決まった。
「メイ、アンタ本当はレオナと一緒がよかったんじゃないの?」
慣れない円陣のあと、すぐに出発した私たちは冥府に続く階段を下りていく。どこまでも続く階段はいつ敵が現れるともわからない危険な場所だ。
「欲を言っちゃうとそうなんですけど、でも大丈夫です。だってイデア先輩とファントムを倒したら先輩たち、それにグリムもきっと無事に学園に戻ってこれるじゃないですか」
「か、簡単に言うけど今回一番危険な戦いだと思うんだけど……。メイサンは不安じゃないの?」
くすくすと思わず漏れた笑い声と共に言えばエペルの方が逆に不安そうな声を漏らす。
「だってレオナ先輩が一緒に戦ってくれてるんだもん。負けるわけないよ」
「メイくんはレオナくんにとてつもない信頼を寄せているんだね」
「はい! 二度と帰れないかも、なんて言いながら連れてかれた時は不安でいっぱいでしたけど……。事件を解決すればいいならいつもと一緒だもの」
この先の冥府にどれだけ強力なファントムが潜んでいたとしても無事に帰還する条件がただ勝てばいいなら話は簡単だ。
「まったく、呆れた子。再会した時はあんなにべそべそ泣きそうな顔してた癖に、まだエンドロールには早いわよ」
「ハッピーエンドが迎えられるってわかったら、物語の途中だって観客は笑顔を浮かべるものですよ!」
長い長い階段は、まるで本のページをめくるようにいつかは最後にたどり着く。
そこで迎えるのがハッピーエンドなら涙はもういらない!