献上品


 寮生達からの貢物を満足気に抱え上げ、レオナは自室の扉を開く。
 バタバタと諦め悪く足掻くその草食動物は顔どころか耳まで真っ赤に染め上げている。

「いい加減諦めろ。あいつらに捕まったお前が悪い」
「だ、だって! 一緒に会場準備しようって言ったのに!」

 張り紙は未だ取ることが許されず芽唯の背中で揺れ続けている。サバナクロー一同と端に書かれたそれには大きく「献上品」の文字が刻まれていた。
 血の気が多く、単純で……。よく言えば素直な自分の寮生達が今月に入ってからずっと頭を悩ませていたのは知っている。何せ彼らは堂々と寮の談話室でその会議を開くのだ。嫌でもその声は耳に入ったし、答えが出た瞬間の彼らの盛り上がりも記憶に新しい。
 可愛い寮生達が無い知恵を絞ってひねり出した『自分が喜ぶ一番の貢物』は確かに正しいのだから否定する理由もない。くれるというのだから貰う。それがレオナの出した答えだ。

「どうせ『一緒に祝おう』だの『寮長が喜ぶ』……なんて簡単な言葉でのこのこ猛獣の住処に入ってきたんだろ。自業自得だ。学ばないお前が悪い」
「うっ……」

 図星だったのか。一瞬ビクリと肩をこわばらせた芽唯はそれ以上何も言わない。
 そんな彼女をゆっくりベッドに降ろし、レオナもその隣に腰を下ろす。
 実家から送られてきた朝より少し数が減ったプレゼントの山も、今目の前で視線を彷徨わせている少女一人と比べたら一切価値が無い。
 灯りを付けていない暗い室内でもレオナには芽唯の顔がよく見える。ふっくらとした柔らかい唇が開かれては閉じられ、また開かれる。何かを言おうと言葉を懸命に探しているのだろう。一体どんな囀りを聞かせてくれるのか。

「みんな良い人だし……。本当にレオナ先輩のお誕生日をお祝いしたいって、気持ちが籠ってたから私も応えたんです……」
「みんな良い人……ねぇ」

 ぺらりと背中の紙をまくり上げる。

「良い人ってのは草食動物にこんなもんを貼るのか?」
「それとこれとは話が別です!」

 芽唯は背中に手を回して張り紙を剥がそうとする。だが、いくら引っ張っても彼女の背からそれは剥がれない。

「え、え、なんで⁉」
「魔法で貼り付けられてるからな」
「魔力の無駄遣い……!」

 もう!と声を荒げて上着を脱げば漸く彼女の背から張り紙が消えた。正しくは制服に貼り付けられていたので、そちらに付いているというだけなのだが。
 ブラウス一枚になった芽唯は制服を丁寧に畳むとベッドサイドの机の上に置く。未だその背面に張り付いている紙を恨めしそうに睨んでいる。

「それで?」

 その視線ごと引き寄せるように彼女の顎を指先で掬えば丸い瞳がレオナだけを映し出す。
 よく磨かれた鏡のような透き通った瞳に映る自分の顔に思わず笑ってしまう。目を細め、口角を上げ。いくら甘い声で囁こうとも、誰がどう見ても無垢な少女をかどわかす悪役(ヴィラン)のそれに違いない。

「お前自身はいったい俺に何を捧げてくれるんだ?」
「え、っと……」
「まさか何も用意してないなんて寂しいことは言わないだろ? お優しい俺の恋人はまさか寮生に捕まってたから何も用意出来ませんでした。なんて言い訳をする女じゃねぇもんなァ?」

 右に、左に、芽唯の視線が逃げ惑う。当然逃げ道なんてないのだから彼女は最終的に目を伏せた。悩ましく真ん中による眉はハノ字を描く。
 腕にしゅるりと尻尾を絡めてやれば、もっと困ったようにスカートの裾を小さな手が握りしめる。睫毛を震わせながら再び顔を覗かせた瞳は先ほどよりもキラキラ瞬く。

「その、いっぱい、考えたんです」
「へえ?」
「お肉はみんなが用意するだろうし。私が買えるようなもの、レオナ先輩なら簡単に手に入っちゃうし。私にしか用意できないものってなんだろうな、って」

 顎に添えたままだった指先ごと包み込むように芽唯の手が動く。そのまま素直に任せれば広げられたレオナの手に彼女の頬がすり寄せられる。

「そしたら、みんなと被っちゃった」

 困ったな、そう言いたげに笑う芽唯はどこか恥ずかしそうだ。

「私があげられるものって言ったら、私……くらいかなぁ。なんて」
「……お前、それどういう意味で言ってるんだ」

 スカートを握りしめていた手のひらがレオナの膝の上に乗る。彼女の方から少しだけ詰められた距離は普段より幾分か近い。
 そのままジャケットまで伸びてきた手が緩めていたタイの端を掴む。

「ちょっとくらいなら、いつもよりは頑張ります」
「そりゃ楽しみだ。何をどう頑張ってくれるのか、もちろん実戦で教えてくれるんだよなァ」
「……先輩の、お誕生日……ですから」

 控えめに、けれど彼女なりに力を込めた手のひらがレオナの胸を押す。
 されるがまま素直にベッドに横になったレオナの視界にはもう芽唯しか映らない。

    TwstMenu/INDEX

ALICE+