幸運の獅子の手


「幸運の獅子の手、ですか」

 購買からの帰り道、遠回りだろうにわざわざオンボロ寮に寄り道したレオナ先輩は私に熊手を押し付けながらそう説明した。

「カリムが誤発注したKUMADEを飾り付けたもんだが、俺のおかげだとか言って押し付けてきやがった」
「それをなんで私に押し付けるんですか」
「俺の部屋に持って帰っても埃を被って邪魔になるのが目に見えてる。けどお前なら大事に大事に飾りそうだろ?」
「まあ……そう、ですね」

 購買部を飾っていた正月飾りが羨ましくなかったと言えば嘘になる。
 デュースやカリム先輩が着ていた和服も、もちろんこの熊手も故郷を思い出させるには十分だ。
 そんな私の気持ちを知ってか知らずか、ぐいぐいと熊手を押し付けるレオナ先輩の手は引きそうにない。
 諦めて熊手を受け止めていた両手に力を込めればようやくレオナ先輩の手が離れていく。熊手を飾るならば玄関か談話室が最適だろうか。
 ちょうど二人で押し問答を繰り広げていたのが玄関だったので飾れそうな場所をそのまま仰ぎ見ればレオナ先輩も同じように壁を見つめる。

「ここに飾んのか?」
「候補の一つです」
「自分の部屋じゃねえんだな」
「確か一応飾る場所が決まってたような気が……うろ覚えなんですけどね」

 朧げな知識なので首を傾げるレオナ先輩にこちらも首を傾げながら答える。
 伝統だとかそういうことは細かい決まりが面倒なものだ。この世界での正月飾りへの決まりが私の知っているものと同じとは限らないし、この学園に間違いを指摘してくる人物がいるとも思えないので緩くなんとなくで許されたい。

「留め具あったかな……」

 出来るだけ高い位置に飾る。そんなイメージだけはある。寮を修繕した時の余った材料で何か作れればいいけれど、丁度いいものがなければ魔法の工具で作らなきゃ。

「私ちょっと奥を見てくるので……」
「待て、んなもん探さなくていい」
「え?」

 いつまでもレオナ先輩を玄関で拘束しているのも失礼だろうとお礼を告げて送り出そうと顔を上げれば熊手を腕の中から取り上げられる。

「あの、先輩?」
「いいから見てろ」

 私には両手で抱えてやっとの物もレオナ先輩は軽々片手で持ってしまう。
 余った方の大きな手で私を静止させるとそのまま胸ポケットからマジカルペンを取り出し軽く振る。
 すると、まさに私が向かおうとしていた部屋から勝手に工具や材料が列を成してやって来る。その姿はまるで統率の取れた兵のようで、足音すら聞こえてきそう。

「この辺りでいいだろ」

 そう言ってレオナ先輩が熊手を高く持ち上げれば、飛んできた金具やネジが追いかけてきたドライバー達によって取り付けられる。
 ぐるぐると踊るように回るドライバーがネジをしめきったのを確認して、レオナ先輩が熊手を引っかければあっという間に完成だ。
 もちろん、後片付けも必要ない。来た時と同じように、けれど帰りは一人で廊下の向こうへ去っていくドライバー。きっとあのまま工具箱の定位置に帰るんだろう。

「すごい……。流石レオナ先輩!」
「魔法士なら普通だろ」
「でもまるで意志があるみたいでした! グリムなんてものを浮かすので精一杯だし」
「俺を青タヌキと一緒にすんな」

 手放しで褒めれば顔を顰めたレオナ先輩は胸ポケットにマジカルペンをしまって、その大きな手で私も頭を撫でる。
 顔を見られたくないのか、照れ隠しなのか、私の視線を遮るように行われるこの行動。髪がボロボロになるからやめてほしいとも思うけど、嬉しいと感じてしまうので本気で止めることは出来ない。

「ふふふ、ごめんなさい」

 笑い混じりに感情のこもっていない謝罪をすればわしゃわしゃと頭を撫でる力が強くなる。
 なんでも出来る大きな手。私を守ってくれる大好きな手。

「幸運の獅子の手……」

 せっかくレオナ先輩に飾ってもらったけれど、私には不要なものだったかもしれない。
 だって私はこんなに素敵な獅子の手にいつも守られているんだもの。

「確かに凄い縁起物かも」

 私がレオナ先輩の手に幸せをもらっているように、この熊手もたくさんの人に幸せを運んでくれますように。

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