慣れを転がす


「小さい時のレオナ先輩」

 キラリと少し離れた場所からこちらを見るメイの瞳が瞬く。パチパチと、何度も瞬きをするそれに気づいてしまえば放っておくことなど出来なくて、舌の上で慣れた味を転がしながら彼女を手招きする。
 物珍しそうに見守るキファジの反応が少々癪だが、大人しく傍に来たメイの肩を抱き寄せればそんなものは視界にもう入らない。

「ん」

 己の口に含んだばかりのそれをもう一つ買って彼女の口元へと近づければ、まるで親鳥から餌を与えられる雛鳥のように自然と口を大きく開く。
 大きく……と言っても随分と小さいが、飴玉を放り込むには十分だ。
 からころと音を立てて俺と同じように飴を転がし始めたメイの視線はどうにも落ち着かない。
 きょろきょろと何を探して……いや、考えているのか。キファジの余計な発言のせいでしょうもないことを考え始めたに違いないことだけは確かだ。

「不思議な味ですね……。レオナ先輩は小さい時からこの味が好きだったんですか?」
「まぁな」

 大人っぽい味、少し遅れて結局周囲に集まった他の奴らが好き勝手に感想を零すのを放って未だに視線を彷徨わせるメイだけをじっと見る。
 時折きゅっと眉間に皺をよせ、少し尖った唇は音も紡がず何を考えているかは読めてこない。

「口に合わねぇなら無理に」
「小さい、レオナ先輩……」

 最後まで舐めなくてもいい。そう言おうとした言葉を遮るように首を横に振るったメイがようやく俺を見る。

「どんな子だったんですか?」
「……どこにでもいるただの第二王子だよ。どんな男に育ったかはお前が一番よく知ってんだろ」
「だからその育つ前が知りたいんですってば」

 もう!と頬を膨らませたメイはやはりきょろきょろと視線を彷徨わせる。物珍しそうに売られている飴玉をじっと見つめて、かと思えばマーケットの入り口に視線を移す。
 ……どうやら最初に否定した何かを探している方が正しかったらしい。何か……ではなく恐らくそれは『小さいレオナ先輩』とやらなのだろう。
 キファジにでも聞けばいいだろうに、それをしないのは俺の機嫌を損ねるとわかっているからなのか。はたまた目先の情報に思考を囚われ、そこまで頭が回らないのかはわからない。
 ただ、当時の俺に興味を持たれるのは居た堪れない。それに面白くない。
 今目の前に俺がいるのに、メイの思考から己が外されるのは例え相手が自分自身だとしても由々しき事態だ。
 飽きもせずにマーケットのあちこちを見つめるメイの足に尻尾をそれとなく絡ませればすぐにきらりと光る瞬きは俺へ向けられる。そうだ、それでいい。お前を知らない、お前を得るための努力をしてない相手……。例えそれが俺自身だとしても、その輝きを向けられるのは許せない。

「先輩……?」
「お前は俺だけ見てりゃいいんだよ」

 一瞬何か言いたげに開かれた唇はすぐに閉じ、返事の代わりにからころと舌の上で飴を転がすメイはポスリと大人しく俺の胸に頭を預ける。
 満足感と共にすっかり溶け切って柔くなった飴を噛み砕いて飲み込む。慣れたはずのカリム達曰く「大人の味」とやらがいつもより少し甘く感じた。

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