二人の色


「あいつらをオンボロ寮に招待するんだゾ!」

 グリムがそう宣言して可愛らしい肉球の付いた丸い手のひらで器用に作った招待状を送ったのが数日前。
 いよいよ今日はパーティー当日で、珍しく子分の手は借りないのだと張り切る小さな後ろ姿を見守り続けた芽唯も客人たちが来てくれるか緊張していた。
 少しでも肩の力を抜きたくて鮮やかな飾りを見て気分を変えようした芽唯はやっぱりいいなと独り言ちる。創立記念を祝うために緑と黄色……どこかレオナを連想させる組み合わせで飾られた寮内に別の意味で心が躍ってしまったのは小さな親分には秘密だ。あくまで今日は創立記念のパーティーで彼は主役ではないのだから。

「子分! レオナだ! レオナが来た!」
「っ⁉」

 ずっと窓の外を覗き込んでいたグリムが喜びを表現するかのように跳ねながら玄関へと向かって行き、芽唯は突然のことに飛び跳ねた心臓をぎゅっと抑える。急に彼の名前を呼ばれ、レオナのことを考えていたのがバレたのかと変な汗が噴き出してしまった。
 ドッドッと高鳴る鼓動を鎮めるため、何度か深呼吸をしていればグリムが先ほどのテンションのままレオナを引き連れ談話室へと戻ってきた。後ろを歩くレオナは片手にグリムが送った招待状を持ち、いつもの気怠そうな表情は身を潜めている。

「レオナ先輩が一番乗りなんて珍しいですね。雪でも降るのかな」
「いきなり失礼なやつだな。客人、しかも彼氏に対して随分な言いようじゃねぇか」
「ご、ごめんなさい。だっていつも寮長会議はラギー先輩に引きずられて行ってるし、パーティーだからって浮かれるタイプじゃないし……」
「招待状をもらっちまったからなァ。ただ来いと言われただけならまだしも、招待状を受け取って断りの連絡も入れずに欠席出来る育ちじゃねぇんだよ」

 ひらひらと招待状を見せびらかすように揺らしたレオナの足元でグリムが腰に手を当て踏ん反り返った。ギザギザの歯を見せながらどうだと言わんばかりの笑顔を浮かべるのが微笑ましくて、傍に歩み寄ってひと撫ですればグリムは嬉しそうに特徴的な笑い声をあげ始める。

「にゃはは! レオナが来たってことは他の奴もきっと絶対来るんだゾ!」
「そりゃどういう意味だ? あ?」

 凄むレオナをゆるりとかわし「他の奴が来てねぇか見てくる!」と駆け出したグリムはちゃかちゃかと爪と床がぶつかる音を立てながら玄関へ消えていく。

「あはは……。他の人たちはまだ来てないですし適当にくつろいでくださいね」
「言われなくてもそうさせてもらう」

 いつも使っているソファに身をゆだねたレオナは一息つくと辺りを見渡し口角を上げる。黒い手袋に包まれた手のひらが隣に座れと促すので大人しく従えば、当然のように尻尾が腰に巻き付いた。

「良い色合いだな。悪くない」
「メインカラーはサバナクローっぽいですもんね。先輩のベストの色に似てるのもあるし」

 やはり己の寮を象徴するものは自然と意識するようになるのだろうか。レオナにしては珍しい感性だと思ったが、素直にうなずいた芽唯はもう一方の色に視線を移す。

「み、緑色はその……先輩の瞳の色に似てるな、なんて」

 視線を彷徨わせ、少しもごつきながら思っていたことを素直に口にした芽唯は恥ずかしさから己の髪を彩る同色を弄る。
 赤、青、黄色。他にもリボンは持っているが、無意識に選ぶといつもこのリボンを付けてしまう。サマーグリーンのリボンはいつも彩りと一緒に勇気を与えてくれる。レオナの瞳を思い起こさせるこの色は芽唯にとって一種のお守りのようなものになっていた。

「……お前、俺のこと好きすぎないか?」
「なっ、だ、だって、本当にそう思ったんですもん!」

 きょとんと瞳を丸くして。レオナのサマーグリーンがじっと芽唯を見る。
 こんな恥ずかしいことを素直に芽唯が言うのは彼には想定外だったのだろう。まじまじとこちらを見つめるレオナは手のひらを芽唯の額に押し付けた。

「熱は……ねぇな?」
「酷い! 私だってたまには素直にちゃんと言う時だってあるんです!」
「わかったわかった、悪かったって」
「もう!」

 ぷいっと子供のように顔を逸らしてレオナの手を外させると飾りが視界に入った。せっかく視線から逃れるようにしたというのに、結局同じ色が飛び込んでくる。

「お前にしてみれば俺の色なんだろうが、俺に言わせりゃあれはお前の色なんだがな」
「私の色……?」

 先ほどの芽唯のように少しもごもごと言いにくそうに、レオナがぽつりと零した言葉に芽唯は釣られるように振り向いた。
 すると、待ってましたと言わんばかりに伸びてきたレオナの手が芽唯の髪を優しく掴む。指先でリボンを揺らし、するすると下まで滑らせたかと思えば毛先にキスが落とされる。

「ひっ……」

 あまりに自然に行われるので目を逸らす隙も無く行われた行為の刺激の強さに芽唯の喉が小さく悲鳴を上げた。
 瞳を伏せ、唇を柔らかく毛先に押し付ける姿は正真正銘の王子様で、真っ赤になっている自覚があるが、逃げ道がなかった芽唯はまるで焼き付けるかのようにレオナを見つめるしかなかった。
 顔を上げたらいつものようにニヤリと笑ってくれればいいのに。そうすればまた意地悪だと声を上げることが出来るのに、レオナはゆっくりとわざとらしく音を立てて離れると芽唯を瞳でとらえて、落としたキスよりももっと柔らかく微笑んだ。

「お前と俺の色だから、良い色合いだなって言ったんだ」
「わ、私の色……?」
「せっかく他の色も贈ってやったってのに、毎日同じ色を付けてるのを見せられたらいやでもお前の色だと認識するだろ」

 まさかレオナがそんな風に思っていたなんて。自分を映し出す瞳を見つめてはぱちくりと瞬きを繰り返す。

「そう……ですか。あの、それは、その……わかったので離れてもらえないでしょうか」
「なんで?」
「恥ずかしくて死んじゃいそう……」

 レオナの尻尾が身体に巻き付いていなければ、ずるずるとソファの背凭れに背中を預けて脱力しきっていただろう。

「そりゃ困ったな。なら死ぬまでくっついてるか」

 くつくつと喉を鳴らして笑うレオナの瞳が窓から入る太陽の光を浴びてキラキラ光る。寮の内外を飾る同じ色もまったく同じ輝きでやはりあれはレオナの色だと改めて思う。
 それでもレオナがその色を自分の色だと言うのなら、二人の色ということでいいのだろうか。
 レオナを意識して選んだリボンがまさかそんなイメージをレオナ自身に与えていたとは思わなかったが、好きな人の瞳と同じカラーがその本人に自分を連想させる色になっているのはすごく嬉しい。

「私と、先輩の色……」

 サバナクローの色。レオナの瞳の色。そして、それはレオナが自分の色だと思う色。
 もう一度、噛みしめるように飾りを見つめた芽唯の耳に窓の外から客人の来訪を喜ぶグリムの声が届く。

「……素敵な創立記念パーティーになりそう!」

 みんなが来てくれただけでも嬉しいのに、飾られた好きな色がもっと好きな色になってしまった。
 口元が緩むのを抑えきれないままレオナを見上げれば同じように笑みを浮かべるレオナと目が合う。

「先輩、そろそろ外に行きましょう! パーティーの始まりです!」

 ぴたりとくっついていたレオナの腕に手を添えて促せば、巻き付いていた尻尾が離れ、黙ってレオナは芽唯を伴い立ち上がる。
 離れた尻尾の代わりに手をぎゅっと絡ませて、二人は自分たちを連想させる色で飾られた廊下を通ってパーティー会場である庭へと向かう。
 大切な人と大好きな人達と共に一緒に居られる学び舎の設立された日を祝して。
 オンボロ寮主催のパーティーがもうすぐ始まる!

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