お前の為なら、悪くない
もう一度呼びかけようとしたとき、首筋にちりっと一瞬痛みが走る。それと同時にレオナ先輩が離れていき満足そうに鼻を鳴らすといつものように口角を上げてニヤリと笑う。
「ばーか、無防備すぎるんだよ」
ニヤニヤと笑う先輩の視線が自分の首筋に向けられていると気づいた私は慌ててそこを手で覆い隠す。
「どうした、草食動物? 何隠してんだよ」
「先輩こそ、何したんですか!」
「聞きたいのか?」
「や、やっぱりいいです! 言わないで!」
怒りからなのか羞恥心からなのか、どんどん顔に熱が集まっていくのがわかる。きっと赤くなっているであろう顔を背けて元の木陰に座りこめば、レオナ先輩は我が物顔で私の膝の上に頭を乗せる。
「せっかく綺麗についたんだから見せろよ」
「嫌です! もう、レオナ先輩意地悪ばっかり!」
私よりも一回りも二回りも大きな手が首筋を隠す私の手を包み込む。先輩が本気を出せば簡単に引きはがせるだろうに、手の甲を指先でなぞるだけでそれ以上は何もしてこない。
意地悪ばかりする癖に、触れる指先や向けられる視線はとても甘くてくらくらと眩暈さえ覚える。それがなんだか悔しくて、きゅっと唇を結べばレオナ先輩の弧を描いた唇が柔らかくて優しい音を紡ぐ。
「お前のことが好きなんだから、仕方ねぇだろ」
「うっ……」
ずるい。ずるい。ずるいひと。
「私も好きですよ。……大好きです」
何度口にしても慣れない言葉を絞り出せば、満足そうに私の唇を撫でてレオナ先輩の指が離れる。レオナ先輩はそのまま放りっぱなしだった本を手に取りじっとそれを見つめると瞼を閉じた。
「お前の為なら、悪くない」
「……どういう意味ですか?」
問いかけに返事が返ってくることはなく、寝息が膝をかすめるのを感じながら私は授業の始まりを知らせる鐘の音が聞こえないふりをして彼の髪を指で梳いた。