君の花
「好き?」
「は?」
不意にかけられた言葉にアルハイゼンが顔を上げればこちらをまっすぐ見つめる女性は小さく首を傾げる。
「だってずっと見てるんだもの。だからアルくんってお花好きなのかなって」
「……植物に対して特別な感情を抱いたことはない」
「なんだ残念。せっかくアルくんのこと知れるかと思ったのに。私は好きよスメールローズ」
そう言って花の前にしゃがみこんだ女性……アウラリアリアは裾が地面に付くのを気にする様子もなく素朴に一輪だけ咲いたどこにでもあるそれを見て微笑んだ。
「お屋敷のスメールローズも綺麗だけど、ここの子も綺麗ね」
潰してしまわないように優しく触れた指先が花びらを揺らす。繰り返される動作をじっと見つめていても何が楽しいのかはアルハイゼンにはわからない。けれど悪い気はしなかった。
「そうだ、よかったらうちのお花今度鉢植えに分けて持ってくるわ」
「なぜ?」
「だってずっと目を逸らさないんですもの。放っておいたらこの子を手折って持ち帰っちゃいそう」
それはダメ。と立ち上がり、指さしてくるアウラリアリアは一瞬頬を膨らませたかと思えばくすくすと笑いだす。
そして背を向け彼女が歩き出せば少しだけ土で汚れたスカートが翻る。その姿がアルハイゼンの頭の中でスメールローズと重なった。
***
自宅に招いたアウラリアリアに以前のような快活さはない。
気まずそうに、居づらそうに、委縮したままアルハイゼンに促されて座った席で身を縮ませている。
それでも興味深そうに棚の本を見つめる様子は少しだけ昔の彼女を思い起こさせた。
「あ……」
小さく零れた音を拾ってそちらを見やれば口を押えたアウラリアリアは窺うようにアルハイゼンをちらりと見る。
「ごめんなさい、あの……お花好き?」
「花?」
「スメールローズがあったから……」
小さな鉢植えに一輪だけ。本を読むのに必要もないそれは今日も堂々と机の上で咲き誇っている。
「植物に対して特別な感情を抱いたことはない」
「……そう、よね」
残念そうにアルハイゼンからすぐに視線を逸らしたアウラリアリアはスメールローズを見つめて眉をひそめた。
相変わらず表情に出やすい所は変わらない。「せっかくが話題が見つかったのに」そう言わんばかりに困った顔が少しおかしくて口角が上がる。
「けれど」
「……けど?」
「スメールローズは嫌いじゃない」
そもそもで花に対して好きや嫌いを考えたことなどないのだが、あれだけは別だった。
「私も、私も好きよスメールローズ!」
──知っている。
そんな返事は呑み込んで、やはりどこか彼女と重なるスメールローズとそれを見つめる彼女自身を視界に収めてアルハイゼンは目を閉じた。