会えたらいいな
軽薄で、女好きで、誠実とは程遠い。
遠目から見た時に覚えた印象は少し距離が近くなったところで変わらなかった。多少彼のことを知ったところで開いた蓋から覗くのはありきたりな紋章社会の抱える問題。──彼の家は他よりもそれが根深いかもしれないが。そんなことは関係が無かった。
仮初めの婚約者がどこで何をしようと、何を抱えていようと知ったことではない。
イングリットが我が事のように腹を立てようと、ディミトリやフェリクスに手綱を握れと言われようとも。
士官学校というモラトリアムが終わるその日まで、ただ自分だけが静かに暮らせればそれでかまわなかった。
継がれていく血と遺伝子のように、断ち切ることのできない負の連鎖。
愛だの恋だの、幻想染みた言葉を並べても、結局人の最後には死が待っているのに、他人を想って自分を乱すことが理解できない。意味がない。
本当に。……本当に。ほんとうにそう思っていたはずなのに。
幾分か記憶よりも成長した男が、かつて時折見せていた仄暗さでこちらを見るのを嬉しく思ってしまったのだからどうしようもない。
動乱も、喧噪も、それまで背負ってきた何もかもがどうでもよくなるくらい、目の前のちっぽけな一つの命に揺さぶられるのは存外悪くない。
きっと恋焦がれるというのが、この気持ちの名なのだろう。
軽薄で、女好きで、誠実とは程遠い。
そんな男が仄暗い瞳でぽつりと落とす言葉が欲しかった。
「……ま、地獄でまた会おうぜ」
届かなかった戦斧の先に乗せたのは殺意か、はたまた違う思いだったのか。薄れゆく意識の中で、自分では答えの出せない問いだけが残る。
地獄で会えたら、この男が教えてくれるだろうか。
会えるだろうか。会えたら、いいな。