辿り着いた朝
柔らかな光と誰かが駆けていく音に刺激され目を開ければ、柔らかな陽射しの中に大切な人の姿が見える。
あまりにもその姿が美しく、絵画のような光景にジョシュアはそっと息を呑む。
何度見ても慣れないけれど、すっかり当たり前になった朝はジョシュアの心臓をかき鳴らすには十分だった。
目を開ければラリスがいる。触れられる距離にいる。
子供たちがいて、誰かが朝食の準備をしている音が聞こえる。
こんな穏やかな朝を迎えることができる日々が自分に訪れるとは思っていなかった。
顔にかかる前髪を払ってあげればラリスはまだ夢の中にいるようで、その腕の中には昨日どうしてもとせがむので一緒に眠った子供の一人もまだいる。
片割れはすでに姿が見えないので、きっと先ほどの足音の正体がそうなのだろう。
子供ごと後ろから包み込むように身を寄せれば、無意識なのかラリスの手がジョシュアの手を握りしめる。
「っ……」
指先を掴まれたジョシュアはしばらく動けなかった。
起こさないよう、息を吐く音さえ静かになる。
「まいったな……」
鼻孔を擽る彼女の匂いは自然な甘さで、覚醒しきっていない脳には優しい刺激だ。
このままではもう一度眠りの中に落ちてしまってもおかしくない。
そっとラリスたちから離れたジョシュアは身を起こすと眠る二人の姿を見下ろす。
隠れ家の中で最も平和の象徴である子供たち。
彼らの面倒を見る時間は楽しくもあり幸せだ。ここには醜い争いも差別もない。
あるとすれば小さな喧嘩ばかりで、ラリスが優しく叱れば自然と溶けていくようなものばかり。
昨日だって朗読会の途中で揉め事が起きたけれど「もう読んであげないわよ」なんてラリスが怒った口調で本を閉じればテトとクロはすぐに仲直りした。
最後は二人とも眠気に抗えなくなり、どうしてもラリスの傍がいいと言い張ったので、そのまま一緒に眠ることになった。
彼女が人気すぎるのは少し困るが、一緒に過ごせるのであればいいかと譲歩している。
「んん……」
思考を巡らせながらそっとラリスの髪を指先で梳いていると彼女が小さく身じろぐ。
「起こしちゃった……?」
小さな声で問いかけてみるけれどラリスからの返事はない。
代わりに指先を握る力がほんの少し強まって「ジョシュア……」と愛しい声が己の名を呼ぶ。
「ニンジン……食べて……」
ぽつりと零された言葉にジョシュアは数度瞬くと肩を竦めてくすくす笑う。
どうやら夢の中で自分はまたあの食材を避けていて、彼女はそれを食べさせようと躍起になっているようだ。
現実でも似たようなやりとりをした覚えがある。
その度に呆れた顔をされるのだけれど、その顔を見るのが好きだと言ったらきっと怒られてしまうだろう。
「随分と平和な夢を見ているんだね」
現実でも、夢の中でも、彼女の傍に自分がいる。それが、当たり前になっている。
何年も願っていたはずなのに、いざ手に入ってしまえば人はこんなにも欲張りになるらしい。
朝が来るたびに嬉しくて、それなのに明日も同じように隣に居てほしいと願ってしまう。
朝起きて、ラリスがいる。子供たちの寝息が聞こえる。
ただそれだけの単純な幸せを噛み締めて胸が疼く。
なんて幸せな毎日なんだろう。
握られた手を解くこともできないまま、ジョシュアはそっと目を細めた。
窓から差し込む朝日は、穏やかな寝息を静かに照らしていた。