眠りの間に
「もうすぐジョシュア様のお目覚めの時間だというに、顔も合わせずに行ってしまうのですね」
「ヨーテ……」
静かに、誰も知られず夜明け前の街道に出た……はずだった。
けれど四つ年下の馴染みの顔が責めるように道を塞いでいるのは今夜立とうと思っていたのがとっくにバレていた証拠のようなもの。
「快方に向かっているとはいえ、ジョシュア様には支えが必要です」
「そうでしょうね。まだ一人じゃ立つことも出来ないし、相変わらずニンジンは食べてくれないし」
「ラリス」
「事実を言ってるだけでしょ」
ヨーテが言いたいことはわかる。
でも目覚めたばかりの頃に比べたら幾分か良くなった。
五年もの間昏睡していた彼は、最初ベッドから起き上がることも出来なかった。
それが今では短時間だけど支えがあれば立ち上がり、教団員たちから送られてくる報告書に目を通している。
きっと直に自由に動き、その手に剣を握るようになるだろう。
「ジョシュアの傍には絶対にヨーテが居てくれる。なら、私は別のことをすべきでしょう」
二人で看病する必要なんてない。
出会った時から幼いながらにヨーテはとても優秀で、教団の大人たちは最も守るべき存在であるジョシュアを彼女一人に任せていた。
私に出来たことは彼女に促されるまま眠り続けるジョシュアに毎日声をかけ続けることだけで、目覚めた今はそれもお役御免というわけだ。
「行かないでほしい、とジョシュア様がおっしゃっていても?」
「直接言われたなら考えるけど、人伝なら辞めるつもりはありません」
「わざとジョシュア様から距離を取っているあなたがそれを言うんですか……」
呆れたようにわずかにヨーテの顔が歪む。
普段はあまり感情を表に出さない彼女はジョシュアが絡むと少しだけそれを滲ませる。
きっとそれはヨーテが心からジョシュアを大事に思っているからで、だからこそ安心して私はヨーテに彼を任せられるんだ。
「……なら、せめてジョシュア様に報告できる方法を選んでください」
「別に人に聞かせられないことはしてない」
「娼館を出入りしているのでしょう。我々が知らないとでもお思いですか」
そう言ってヨーテは背後の誰かに目配せをする。
おそらく、誰かが私の行動を常に監視しているんだろう。
なにせ私は不死鳥教団の……ジョシュアの居場所を知っている。下手に漏らされでもしたら、と考えたら自由を与えられているだけで十分だ。
心配しなくても、まだ十七にも満たない私は手伝い程度しか任されないし、本物の娼婦のように自身を売ることだけはしないと決めている。
そんなことをした日には私はもう二度とジョシュアの前に立てなくなってしまう。
「とにかく大丈夫だから。ジョシュアには無理しないでって伝えておいて」
「待ってくださいラリス! せめてジョシュア様に一目姿を見せてから!」
ヨーテの横を通り抜け、待たせていたチョコボに跨がってしまえば彼女の声はすぐに遠ざかる。
あまり長居すれば、それこそジョシュア本人が追いかけてきて本当に直接言われてしまう。
まだまだ体力も衰えていて、起きていられる時間が短いくせに貴重な時間を私との対話に割かせるのは不本意だ。
「行ってきます」
夜明けの光が、やけに眩しかった。