あの日の私に花束を
朝が来る。
その度に私は隣にジョシュアがいるのが不思議でならない。
寝顔をしばらく見つめていると長い睫毛が静かに震えて、海のように穏やかな青が私を優しく見つめるの。
微笑むあなたが私に「おはよう」と告げる声は柔らかく、まだ少し微睡みの中にいるのが伝わってくる。
そんな穏やかな朝が毎日やってくる。
ねえジョシュア。
私がずっと隠してた最後の秘密。今ならあなたに言える気がするの。
何を告げてもこの日々が壊れることはない。
そう思えるから。
だから秘密を、秘密じゃなくしましょうね。
◆◇◆
子供たちはジョシュアの手を無邪気に引っ張る。
すっかり「ジョシュア先生」として彼らに馴染んでしまった幼馴染は案外のその呼び方を気に入っていた。
私はいまだにしっくりこなくてむず痒いのだけれど、彼にそれを伝えたところ「だってラリスとお揃いだろう」ともっとむずむずすることを言ってきた。
ジョシュアは、きっと私が思っている何倍も私のことを想ってくれている。
それに気が付いたのはつい最近。
……別に、気持ちを疑っていたわけじゃないのよ。
だって、私だってずっとジョシュアのことを想ってた。
自分の意志で遠く離れても、その姿が見えなくても、いつだってジョシュアは私の世界で星のように瞬いている。
眩しすぎて、手で触れてしまえば私なんか燃え尽きてしまいそうなのに、ジョシュアはそれを許してくれない。
むしろ僕に触れて、ちゃんと感じて、ここにいるよと嫌というほど伝えてくる。
それが熱烈すぎてちょっと戸惑うの。なんてヨーテに零してしまったの。
そうしたら彼女は淡々と、抑揚のない声でこれまでの旅の様子を語りだした。
『道中、美しい花が咲いていたのです。それを見てジョシュア様はなんとおっしゃったと思いますか?』
彼らの旅にそんな花を愛でる時間があったのかという疑問を口にする隙はなかった。
というより、言わせてもらえなかった。
ヨーテがあまりにもまっすぐ私を見つめるからだ。
ほら、わかるでしょう?
ちゃんと答えを考えて?
目だけで彼女はそう訴えてくる。
だから私もちゃんと考えた。
『珍しいね、……とか?』
今思えばヨーテとジョシュアの間にそんな会話が生まれるとは到底思えない。
けれど、それでも私なりに必死に絞り出した答えだったの。
だって実際そうでしょう?
黒の一帯が広がって、世界は少しずつ蝕まれていった。
人の手が加わっていても下手をすればエーテルが枯渇して枯れてしまう。
そんな世界で「まだここは大丈夫みたいだね」というやりとりだったんだと思ったの。
けれどヨーテは黙って首を横に振り、私の答えが間違っていると否定する。
顔を上げた時、ヨーテが少し困ったように笑った気がした。でも多分それは気のせいで。
ヨーテの表情が変わるのなんてジョシュアが絡んだ時くらいなんだもの。私に笑いかけるはずがない。
じっと彼女を見つめていれば、少しだけ目を細めたヨーテは「ラリスが」と私の名を呼ぶ。
『ラリスが喜びそうだ、とおっしゃったのです』
そう言って、やっぱりヨーテの頬が少し緩んだ気がした。
それからは、同じようなことが何度もあった。
花が。景色が。料理が。
なんでもない一瞬に、過酷な旅の途中に、ジョシュアが私の名前を呼ぶ。
……私はそこに居ないのに。
これで想われていなかった、なんて思えるほど私も愚かじゃない。
聞かされるたびに言葉に詰まる私をヨーテがどう思っていたかはわからない。
けれど、なんとなく彼女の意図はわかっている。
私に知ってほしかったんだと思う。私の知らないジョシュアの十三年間を。
きっとヨーテのことだから、逆にジョシュアには彼の知らない私の五年間を伝えているのね。
ヨーテは……そういう人だから。
◆◇◆
私とジョシュアの部屋は物が多い。
大半は子供たちが持ち込んだ本。
あれも読んで、これも読んでと自分たちではまだ読めない本を持ってくる。
読み終えたら元の場所に戻すのを条件に出しているけど、それぞれが気に入った本を持ってくるので常に五〜六冊は彼らの本が置いてある。
そして、最近ジョシュアは何かをちまちまと書き始めていた。
何を書いているの?と聞いても『日記……の延長みたいなものかな』と笑うだけで、中身を見せてはくれなかった。
アルテマについて調べていた頃の彼の日記は見せてもらえたけれど、ジョシュアは字も上手ければ絵も上手い。
もし物語でも書いているのならきっと素敵なお話になるのだろう。
あとは……そう。
これを見つけた時には変な汗が噴き出して止まらなかった。
教団員の報告書。しかも、��あの夜�≠ノついての。
それにはご丁寧に事件の全容がすべて記されていた。
私と客である兵士との間に起きたことも、私が助けてくれた教団員に口止めしたことも、全部。
いつからそこに置いてあったのかは……ちょっとわからない。気が付いたらあったんだもの。
でも、ジョシュアがこのことを知ったのはきっとつい最近だわ。
ジョシュアが私を避け始めて、私がまた彼から離れようとして、それで……初めての夜を過ごした。
その後にぽつんと机の上に置かれていたの。
まるで『全部知ってるよ』って告げるみたいに。
私が報告書を見つけた夜は……その、ちょっと言うのが恥ずかしいくらいのこともされてしまった。
怒っている、というよりは拗ねているみたいで可愛かったから良いのだけれど。
散らかった机の上を片付けていると子供たちを部屋に送り届けたジョシュアが戻ってきた。
彼は私が片手に持った報告書を見ると「また見てたの?」と苦笑する。
「片付けしてたら落ちてきただけよ」
そう言って適当な場所に押し込める。
いっそのこと処分してしまいたいけれど、教団の大事な報告書だからダメらしい。
……本当かは少し疑わしい。
だって、シリルが読んだものをそのまま燃やしてしまうのを何度か見たことがある。
裏で暗躍している組織が何十年分の報告書を全部大事に取っておくなんて不自然だわ。
しかもこれはジョシュアが個人的にお願いしていたことであって、世界やアルテマともなんら関係ないんだもの。
だから、私はこれはジョシュアのちょっとした意地悪なんだと思ってる。
くすくすと笑うジョシュアがベッドの端に座るので、私もその隣に腰かける。
……、言わなきゃいけないことがある。
でもそのことを考えると自然と口が重くなる。
隣に座った私が急に俯いたから不自然に思ったのだろう。
「ラリス?」
首を傾げたジョシュアが私をそっと覗き込む。
切れ長の、優しい瞳が私を見つめる。
まるで「話してごらん」と言われているみたい。
ぴたりと隣同士で触れた身体を少し捻って彼の腕にしがみつく。
温かかくて、離れがたくて、どうして私はこれを遠ざけていられたのか今ではもうわからない。
「ねえジョシュア……怒らないで聞いてくれる?」
私の小さな秘密を聞いて、ジョシュアは笑うだろうか。怒るだろうか。
彼が私から離れていく姿が浮かばないのは甘えだろうか。
何を告げられると思ったのかはわからない。
それでもジョシュアはただ優しく「なんだい?」と私の言葉を促した。
「……なんで娼館を選んだの、ってジョシュアは一度も聞かなかったわね」
「そう、だね……」
娼館、という言葉にジョシュアが少し目を見開く。
ちらりと動いた視線は報告書をしまった場所に向けられて、すぐに私に戻ってくる。
ジョシュアにとってはあまり良い印象の場所じゃないんだろう。
自分で言うのもあれだけれど、何年も想っていた相手がそこで働いていた……となれば普通の反応だ。
だから、ここから先の言葉はジョシュアにもっと嫌な思いをさせるかもしれない。
なのに不思議と嫌われるとは思えなかった。
それは多分、今日までジョシュアがたくさんの勇気を私にくれたから。
愛されていいのだと、愛していいのだと、そう思える勇気が私の手の中にある。
形のないそれを握りしめるように、ジョシュアの手に上からそっと自分の指を絡める。
大きくて、安心する手はされるがままで、さっきは一瞬だけ緊張していたけれど、もうそれもない。
私がまた馬鹿な別れ話をしているわけではないと気づいてくれたのだろう。
「私ね、……ジョシュアに会えなくなる理由が欲しかった」
「理由……?」
あくまでも優しく、ジョシュアは促すように聞きかえす。
そんなジョシュアの胸元にわざとしな垂れかかると可哀想なくらいに彼の心臓が悲鳴をあげているのが聞こえる。
それは多分私も同じ。だって怖いもの。
言われる方も、言う方も。
「情報を集めるだけなら方法はいくらでもあったわ。教団員も紹介してくれてた」
娼館ほど人の秘密が集まる場所はない。
けれど、父と母のように旅商人をしてもよかった。
店や宿屋にだって情報は流れてくる。
それでも私は娼館しかないと思ってしまった。
汚れたくて行ったわけじゃない。
壊れたかったわけでもない。
ただ……帰れなくなる理由が欲しかった。
「ジョシュアの役に立ちたかった。ジョシュアのために出来ることが欲しかった」
それは私があなたが眠る五年の間になくしてしまったもの。
「でもね、一番は……いつかそんな私を誰かが傷つけてくれたら……汚い私をあなたに見せられないって、私自身が思える。……そう思ってた」
ジョシュアに会えない理由を他人に押し付けて、あの人のせいでもうジョシュアには会えないの。
そう言える自分になるいつかの日を待っていた。
「結局未遂に終わったけれど、私……あの人のこと責められないの。いつまでもあなたのことを想い続ける私を殺してほしかったんだもの」
自分には眩しすぎる存在だとわかっていたのに、五年も泣いて縋りついていた。
好きだと思えば思うほど、苦しくなっていくのに諦められない。
馬鹿な私を殺したかった。ただの私の自傷行為。
「……ラリス。君はずっと、僕に会えなくなる理由ばかり探していたんだね」
「そう、だと思う。子供の頃と違って気づいちゃったの。本当は私なんかが手を伸ばしていい人じゃないって」
私はベアラーで、あなたは大公家を継ぐもの。
私はちっぽけな存在で、あなたは世界の理そのものと戦う人。
好きだという気持ちが大きくなるほど、私とあなたを取り巻く環境が変わるほど、この気持ちを持っていては駄目だと思った。
「今はこうして触れられる距離にいるのにね」
あの頃の私が知ったらきっと驚くだろう。
私は自分からジョシュアに触れて、彼の胸に飛び込んで……。
少しだけ顔を上げればジョシュアは私が捕まえていない方の手で私の頬に触れると優しく口づけを落としてくれる。
「それが……最近ラリスが僕に言いたかったこと?」
「……気づいてたの?」
「内容まではわからなかったけど、君は時々、僕が触れる度に安心したような顔をしていただろう」
そう言ってジョシュアが私から視線を外す。
「……まるで、何かを確かめるみたいに。僕は、それがなんなのかずっと知りたかった」
肩の力を抜いて息を吐いたジョシュアはくすりと笑う。
「正直、また別れ話をされるのかと少し焦ってた。原因があるとすれば今度こそ僕が何か粗相をやらかしたんだろうってね」
「そ、粗相なんてジョシュアがするはずないじゃない! 私、ジョシュアになら何されても嫌じゃないし!」
「何をされても?」
「う、うん。なんでも大丈夫」
慌てて彼の言葉を否定すれば、ぱちっと瞬いたジョシュアが確かめるように私の言葉を繰り返す。
肯定するように数回頷くとジョシュアはあははっと無邪気な笑い声をあげるので、今度はこちらがぱちくりと瞬いた。
「あんまり『なんでも』なんて言うものじゃないよ。特に僕みたいな相手には」
「ジョシュアみたいな……?」
「君のことが好きな人、ってこと」
「ちょ、ちょっと!」
そう言うとジョシュアは私を抱きしめて後ろに向かって倒れ込む。
固いベッドが私たちを受け止めてギシリと鳴るとジョシュアはそのまま私を自分の上へと乗せる。
彼の上に寝転がる形になった私には自然とジョシュアの鼓動が聞こえる。
ドクンドクンと先ほどよりは静かに、けれどちゃんと命を繋ぐ音がする。
「ラリスが秘密を話してくれたんだから、僕も打ち明けようかな……」
「ジョシュアも何か隠してたの?」
「うん。多分、きっと君を少し怒らせる」
「えぇ……」
怒らせる、と言いながらジョシュアはくすくす笑うので何が何だかわからない。
それでもジョシュアが楽しそうで、多分悪いことではないのだろう。
「なによ、その怒らせることって」
抱きしめられたままで顔が見えない。
けれどジョシュアがどんな笑みを浮かべているかくらい想像できる。
頬を緩めて、瞳は柔らかな弧を描き、世界中の女の子が蕩けてしまいそうな笑みを浮かべているに違いない。
そして、それが私にだけ向けられるものだということを今の私は知っている。
だから少しだけ拗ねたような、怒ったような口調で聞いた。
しょうがないな、怒らないで、と私の機嫌を取るような彼の声が聴きたかったから。
「君が僕に会えなくなる理由を探していた頃、僕は君に会う理由だけを探していたんだ」
「私に……」
「うん、君に。でも僕の体は思うように動かなかった。そうじゃなきゃ真っ先に君の所に飛んで行ったよ」
昏睡から目覚めたジョシュアの体には五年の月日が重くのしかかった。
十歳だったはずの彼は十五歳になっていて、しかもイフリートとの戦いでボロボロになってしまっていたのもあって体の自由を失っていた。
今みたいに自然と動けるようになるまでどれだけの努力をしたのかは想像すらできない。
「周りには知らない人ばかりで、唯一の知り合いだった君は早々に僕を置いてどこかに行ってしまった」
「うっ」
「……けど、僕は見捨てられたとは思わなかったよ。ラリスなりの理由があるんだろうって思ってた」
「すごい罪悪感が芽生える信頼をどうもありがとう……っ」
ぎりぎりと痛むのは胸か胃か。
多分どっちも。
顔をしかめる私にジョシュアが笑うと私の背中に腕を回した。
「まあ、それがあんな理由だとは思ってもみなかったけど」
ぎゅっと抱きしめる腕に力が入る。
「君はずっと理由を探してたね。僕から離れる理由、会わない理由。……だけど、ごめん。僕が全部それを阻止してた」
「……どういうこと?」
「ノースリーチにも教団員が居たのは知ってるよね」
「まあ……」
ちらりとあの報告書の方を見る。
あれを書いた本人に口止めしたのだから当然だ。
なによりも娼館で得た情報は彼らを通してシリルたちに届けていたもの。
「……教団員はフェニックスである僕のために動いてくれてる。それはロザリアのため、ロズフィールドのため。だけど、そこに僕は僕個人の感情を持ち込んだんだ」
「ジョシュアの……?」
確かめるように問えば、頭上でジョシュアが頷いた。
すると私を抱きかかえたジョシュアが横向きに転がって、自然と私もその隣に寝転がる。
やっと顔を見れたと思えば彼は子供の頃、あの母親に隠れて抜け出してきた時のように無邪気に笑う。
「ラリスを守って。間違いなんて起こさせないで。そうお願いしてたんだ」
「は?」
ぱちぱち、と瞬きを繰り返せばジョシュアがいたずらが成功したようにくすくす笑う。
「なっ、なんでっ⁉」
「なんで……って、前も言ったけど僕は他人が君に触れるのを許せない」
そう言ったジョシュアの指先がまた私の頬を撫でる。
「それにシリルに聞いたんだ。娼婦がどんな恐ろしい目に合うか。兵たちが居たとしてもいつ魔物が街に攻めてくるかもわからない。……ロザリスのような事件が起きないとも限らない」
「それは……そうだけど……」
怖いことが何一つ起こらなかったわけじゃない。
けれど、確かに私が身綺麗なままジョシュアと再会出来たのは彼らの迅速な行動のおかげだ。
誰にも気づかれることなく、一夜が明けてから発覚する……なんて可能性だって十分にあったはず。
なのに彼らは悲鳴一つで私の部屋に迷わず駆け込んできてくれた。
「……ジョシュアが、お願いしてたから?」
「もちろん、そうじゃなくても君を守ってくれたと思うよ。でも、僕がお願いすればそれを最優先で叶えてくれる。そういう人たちなんだよ」
「……私が知らないところで?」
「うん」
「私は、あなたから離れていたのに?」
「もちろん」
「そんなの……」
そう、……なんだろうか。
確かにフェニックスであるジョシュアの頼みならたとえ「ついでで良い」なんて言っても優先順位は上がると思う。
けれどたかがちっぽけな小娘の、命や貞操を何よりも重んじるなんて、そんなことあるのだろうか。
ジョシュアの言葉を呑み込み切れず、瞬きを繰り返していれば「もう一つ」とジョシュアが付け足す。
「一番の間違いは『誰かに抱かれたらそれを理由に離れられる』って部分かな」
「な、なんでよ。だ、だって……私は……」
「君がそう思ってしまうのは否定しないよ。それがラリスの心に負担がかかる行為なのはわかってる」
青い瞳が静かに揺らめく。
もしかしたら『そうなっていた未来』を想像したのかもしれない。
一歩でも間違っていたら、何かが違っていたら、そうなってしまう場所に私が居たのは事実だから。
けれど実際には何も起こらなかった。
私のほの暗い願いはジョシュアの願いによって阻止されていた。ううん……守られてたの。
だから、これからジョシュアが話すのは「もしも」のお話。
「でもね、僕はそんなことで君を諦めることはできないんだ」
「……どうして?」
「僕はラリスが居ない未来が想像できない。……君とずっと一緒に居たい。もちろん、君が望んでくれるなら、だけど」
額と額がゆっくり重なる。
目を閉じても、開いても、ジョシュアがそこに居るのだと感じられる。
「君が誰と何をしていたとしても、どんな過去があっても、僕のこの気持ちは変わらないんだ。嫉妬もするし、無理やりだったなら相手を憎いとすら思う。けど、それは僕がラリスを嫌いになる理由にはならないんだ」
「嫌いに……なる理由……」
「うん。……ラリスはたくさん並べられるみたいだけどね」
少し離れたジョシュアが困ったように笑う。
私はなんて返せばいいかわからなくって視線を逸らした。
だって、彼の言う通りなんだもの。
ベアラーだから。
身分が違うから。
置き去りにしていなくなったから。
娼館に居たから。
あの夜自分を守れなかったから。
……ジョシュアを苦しめたから。
「……それらは僕が君を愛することとは別の話だよ」
「っ、ジョシュアってずるい!」
「ずるくていいよ。君が居てくれるならずるくていい」
満足そうに笑うジョシュア。
私はもうそんなジョシュアを否定できない。
幼い私が一生懸命考えた馬鹿げた想像をジョシュアは全部否定する。
きっと私がどれだけ汚れても、隣に居られないって思いこんでも、ジョシュアは「違うよ」と優しく教えてくれる。
それは他の誰でもない。彼自身の為に。
少し前の私なら「違うわ」「嘘よ」「そんなことない」と言葉を重ねることもできただろう。
悪あがきにしかならないけれど。
でも、今の私はそれすらできない。
だって、ジョシュアがどれだけ私のことを愛してくれているのか、もう知ってしまったんだもの。
あの日の私は今の私を見て笑うかな。驚くかな。馬鹿なことをしたって嘆くかな。
それはそれでいいのかも。その遠回りがあったからこそ、私は今ここに居るのだから。
「ねえジョシュア」
「ん?」
「だーいすき!」
私が手放そうとしたものを、触れてはいけないと思い込んでしまったものを、諦めないでくれてありがとう。
これからはジョシュアが愛してくれた私を、私自身も大切にできる気がするの。
あなたがくれた愛という花束が、幼い馬鹿な私にも届きますように。
ジョシュアの隣に、いつまでもいられますように──。