彼女が失恋のショックから立ち直っていく中、衝撃的なニュースが舞い込んできた。あの、彼女を誑かそうとした男。……死んじまったんだよ、交通事故で。辺りも薄暗い時間帯にな、突然車道に飛び出して、走っていたトラックに轢かれたんだ。軽トラや小型のトラックならまだ可愛く感じるだろうな。轢かれているのに可愛いも何もないのはわかる。でも、ソイツが轢かれたのは大型のトラックだった。俺が言っている意味、わかるか?なんでも、相手の男即死だったらしいぜ。手足を巻き込まれたことで、何トンもの重みがあるトラックの下敷きになったんだ。かろうじて人の形は保っていたとは聞いてるが、裏を返せば、それだけ悲惨な姿だったってことだ。
その数日後に、死を悼むように葬式は開かれたんだ。クラスメートだった奴らに混じって、彼女も出席していてな。幼馴染の男も意気消沈する彼女の付き添いとして一緒に行ったんだ。誰もがハンカチを目元に押し当てて静かにすすり泣いていた。特に遺族である家族は目に見えて憔悴しているようだった。さすがに幼馴染の男もこの時ばかりは冥福を祈った。確かに嫌な奴ではあったものの、死人を恨むようなことはしたくなかったからな。もちろん、彼女もそうだ。そうだと思っていた。……え?やけに含みのある言葉だって?そう思っても仕方ないよな、幼馴染の男はずっと彼女の近くにいてやったんだ。だからこそ、見てはいけない瞬間を見ちまった。
彼女は黒いハンカチを目元に当てて、涙を覆い隠すように泣いていた。それも体を震わせて、奴のために泣いていたんだ。別に何らおかしなところはないよな、だって公に泣いていい場所だったんだから。でもな、彼女は悲しんでなんかいなかった。ハンカチで目元や目尻の涙を拭う瞬間、隠れていた表情が偶然見えた。口角が上がっていたんだ。そう、まるで微笑んでいるように見えてな。一度でもそう見えたら、何もかもがそうなんじゃないかって思えた。彼女が拭っているのは、元彼の死を悼む涙じゃなくて、元彼の死を喜ぶ涙だって。幼馴染の男は背筋がゾクッとするのがわかった。肌が粟立ってゾワゾワとした感覚が体を走り抜ける。
彼女は本当にアイツの死を悼んでいたのか?本当は心のどこかで喜んでいるんじゃないのか?不謹慎だが、その涙を拭う姿がやけに綺麗だった。一瞬の内に垣間見えた笑みが瞼に焼き付いて離れない。心臓の高鳴りは何を伝えようとしているのか、全くわからなかった。無事に葬式の参列を終えても尚、肌は粟立ったままだ。彼女に聞いてみるべきか?いや、自分の勘違いだったならどうする?そう考えて、結局幼馴染の男は彼女に真実を聞くことは出来なかった。
***
……どうだ、小休止にはなっただろ?おい、なんだよその顔。全然、小休止じゃないって?そういや、怖がりだったな坂上は。でも、今日一日たんまりと怪談を聞いたんだ。少しくらいは慣れただろ?おいおい、慣れておいてくれないとこの先苦労するぜ。まあ、いいや。それでな、この話にはまだ続きがあるんだよ。元彼が亡くなった彼女の周りで、ある変化が起きたんだ。坂上、何だと思う?
……元彼の幽霊が出るようになった?自分を殺したかもしれない彼女を恨んで?確かにそれでも面白そうだが、違う。彼女の周りで人が消えるようになったんだ。消えるって言ってもな、手品みたいに存在が消えちまうんじゃない。何かしらの事故や事件に巻き込まれて死んじまうのさ。しかも、怖いのはそれだけじゃない。その消えたヤツらは全員、男。女で消えたヤツはいないって話だ。なあ、この話って結構怖いよな。
さて、小休止も済んだところで、本題に戻るぞ。俺が部室に来るまでの間に進路のことで説教してきた先生を一人、廊下ですれ違った女子を二人刺したのは話したよな。それも全部、アイツらが目障りだったからだ。俺としては可愛い後輩のお前を一人で待たせておくなんて、可哀想なことが出来ないから急いでたんだ。廊下ですれ違った女子は坂上、お前のことを悪く言っていたからな。刺しておいてやったんだよ。俺とお前の邪魔をして欲しくなかったからさ。でも、これはただのお遊びだ。俺か坂上、どちらか死ぬまで終わらない。だが、俺は死ぬ気なんて更々ないんだ。何でかって?俺がお前を殺すからだよ。
さっき話してやった幼馴染の話はな、実話なんだ。だから、色々と脚色してみたが、結構様になってたろ?俺も新聞部の副部長だからな、こういう手法もあるってこと教えてやりたかったんだよ。俺が脚色したのは、幼馴染の男のとった行動だ。本当はさ、元彼の男を殺しちまったんだ。みょうじと付き合ってた男のこと。許せないだろ?人のことを自分の欲を満たす為の物としか思ってないんだぞ。どうして突然みょうじさんの話になるんですか、だって?今更だな、お前。だってずっとその話をしてたじゃないか。
もうそろそろ、この会合もお開きにしようぜ。お前は七不思議の特集で集められた七人から怪談話を聞いていた。しかし、一向に七人目が現れない。その代わりにこの部室にやって来たのは、包丁を持った危ない変質者だ。暗い時間帯を見計らって校内に侵入していたんだろう。だが、七不思議の取材があった男子生徒は帰るのが遅れてしまい、その変質者に ────。
いい筋書きだと思わないか?みょうじは悲しむだろうが、安心してくれ。俺が傍についてやるから。なんで自分が死ぬのか分かってない顔だな、坂上。お前、みょうじにべったりだったよな。本当にアイツは面倒見の良い先輩だよ、図々しい一年のことを無下に出来ないんだから。みょうじ先輩はそんな素振りを見せなかった?そりゃあそうさ、アイツは優しいんだからな。俺も実際に本人から聞いたわけじゃない。でも、俺には分かるんだよ。本心じゃあお前のことを煙たがってたって。俺から見てもうざったくてさあ、お前。平気で、さも当然と言うように近寄っていくのを見る度に虫唾が走ってた。でも、もうそんな不快な日々ともお別れだ。俺がお前を殺して、めでたしめでたしだ。
***
最後に一つだけ教えてやろうか。息絶えるまで、地べたで寝っ転がりながら聞いてくれ。俺はさ、みょうじは嬉しかったんだと思ってる。自分を道具にしようとした男が死んで、救われたはずなんだ。だから、俺があの日、葬式の場で見たみょうじの涙はやっぱり嬉し涙だったんだよ。そうだとわかった時、俺は喜びに打ち震えた。そして、思ったんだ。アイツに近づく輩は全員、俺が殺してやろうって。みょうじのことを一番よくわかってるのは俺なんだ。だから、近づいてくる奴らを一目見ればわかるんだ。ああ、こいつも下心持って接してるってな。
なあ、坂上。みょうじと過ごした時間はどうだった?楽しかっただろ?親身に話を聞いてもらえて嬉しかっただろ?本当は心のどこかで好きになっていたんだろう?残念だったな、みょうじはお前のものにならない。本当に、残念だったな。だが、安心して死んでくれ。俺がこれからもアイツのことは守っていくさ。お前の分までな。
| 隣人を排せよ |