「シエル、アンタがもしサーヴァントとして召喚されるとしたら、クラスは復讐者でしょうね」
様々なサーヴァントが入り混じる食堂で温かな紅茶を飲みながら一息をついていた天音の隣で気だるげに机に肘をつきながら座る、天音のサーヴァントであるジャンヌ・オルタは突然そんなことを言った。
「え…どうしたんですか、突然」
唐突に言われた意味のわからないジャンヌ・オルタの言葉に天音はラピスラズリの様な瞳を見開くと困った様な表情を見せた。
心と頭の中で色々と考え過ぎる少女のことだ。ジャンヌ・オルタの言葉から意味などを読み取ろうと必死になり、そして、気弱な性格からマイナスな方へと受け止めてしまったのだろう。見開かれた瞳が今度は不安げに揺れる。
その表情にジャンヌ・オルタは大きくため息を吐いた。別にジャンヌ・オルタがこの話を唐突にし始めたのは特に理由があったわけではなく、また、マスターを困らせたくて始めたわけでもない。
唯、此処に来るまでに自身のマスターとは別のマスターとそのサーヴァントが「マスターが、もし召喚されるとしたらクラスは何になるでしょうか?」なんて話をしていたのを偶々聞いただけなのだ。
そして考えた。
——うちのあのマスターなら何のクラスになるのらかしら。と
ジャンヌ・オルタのマスター・天音のサーヴァントは何故か女性サーヴァントが多い。
いや、男性サーヴァントがいないと云うわけではないのだが、比率を比べると女性サーヴァントが多い。しかも、クラスで考えるとエクストラクラスのサーヴァントが多く、中でも復讐者クラスのサーヴァントが揃いも揃っているのである。
それに対して別のマスターである藤丸でさえ驚き「え、天音さんって隠れ闇属性?」などと呟かれているなどと、きっと天音は知らないのだろう。
確かに天音の隣は憎悪と復讐に蝕まれた感情を持ったジャンヌ・オルタでも心地良いと感じる。纏う空気が普通の人間とは少し違うのである。いや、人間…なのだろうか?と思わせる様な空気なのだ。自身がそう思うのだから、他の復讐者達もそう感じているのだろう。
だから、マスターがもしサーヴァントなら?と云う話にジャンヌ・オルタは言い方はおかしいかも知れないが【復讐者としての才能がありそうだ】と思ったのである。
——そんなことをジャンヌ・オルタが考えていると不意に嫌な気配を感じた。
「いやいや、マスターはきっと詐称者がお似合いだと思うなぁ」
天音とジャンヌ・オルタの会話に割り込むようにして現れたのは一匹の妖精…ではなく、黒く滲んだ一匹の奈落の虫だった。
ジャンヌ・オルタは静かにその存在を確認すると嫌そうに顔を歪ませた。
「オベロンさん」
「…嫌だなぁ。マスター、もっとフレンドリーに接してくれても良いんだぜ?」
「オベロンさん」
「頑なだな、お前」
「どす黒い奈落の虫の王様が、私とマスターの語らいに何の用かしら?」
特に用事もないなら消えてくないかしら?と言いたげなジャンヌ・オルタに同じ天音のサーヴァントであるオベロンはニッコリと胡散臭そうな笑みを浮かべた。
「何だか楽しそうな話をしてたから会話に入りたくなっただけさ。っで?マスターがサーヴァントだったらって話だろう?」
——それなら我がマスターは詐称者がお似合いだと思うなぁ!
「無自覚嘘つきマスターには、きっと俺よりもピッタリで素敵な役を演じてくれそうじゃないか!」
何処か深い意味を込めた様な笑みでそう言ったオベロンにジャンヌ・オルタは更に顔を歪めた。
自分とマスターの話に無理矢理割り込んできた挙句、マスターを無自覚嘘つき呼ばわりしたのだ。自分がマスターを罵り、馬鹿にするのは良い。だが、つい先日に召喚されたこの奈落の虫に言われているのを聞くのは腹が立つ。
一刻も早く、この糞虫を叩き潰したい。イライラとした感情が思わず、炎となって漏れ出しそうになる。
それなのに酷いことを言われたマスターはオベロンの言葉に対してきょとんとした表情をした後、眉を寄せて自身の態度に何処に無意識に嘘だと云う要素があったのかを真剣に考え始めてしまっている。
それが更にジャンヌ・オルタの苛立ちを増幅させた。
「あんた、燃やすわよ」
「俺はマスターと楽しく語らいたくて言っただけだぜ?」
怖いなぁ!とけらけらと笑うオベロン。真剣な表情でオベロンの話を受け止める天音。ジャンヌ・オルタは自分で始めた話なのに後悔を感じた。
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