一ヶ月、寝たきりだったふみは探偵社専属医である与謝野晶子に検査をしてもらい身体に異常が無い事が分かると帰宅許可が降りた為、龍之介と共に現在、二人で暮らしている探偵社の寮へと帰宅した。
だが、あの事件から一ヶ月…二人が住んでいる寮の部屋は大いなる変化を遂げていた。
「お帰りなさい、ふみさん」
「お帰りなさい、ふみ」
「……何故貴様らが居る」
ふみは何故か自身と龍之介の寮の部屋の扉を開けるとエプロン姿で敦と鏡花が玄関で待っていた事に死んだ魚の様な目をしながら問い掛けた、すると鏡花が「私達二人は芥川と共に同居している」と答えた。
その言葉にふみは驚き、自身の隣に居た龍之介に“聞いてないぞ”と云う様に視線を向けると龍之介は口元を隠す様に手で覆い、ふみから視線を逸らす様に顔を反対方向へと向けた。
「龍之介、此方を見ろ。そして、こうなった理由を述べよ」
「…新人は給料が安い。故に共に同居すれば家賃も折半が可能となり、またこの二人の異能が暴走した際に対処出来るだろうと云う国木田先輩と織田先輩のお考えを受け入れた結果…」
「共に住むと云う事か…」
ふみは大きく溜息を吐くと龍之介の脇腹を肘で小突いた。急所に入ったのかゴホゴホと咽せる龍之介を横目に見ていると突如として自身の腹と胸に ぽすっと衝撃を感じた。
突然の衝撃にふみは視線を自身の胸に向けると鏡花が正面から背後に手を回し抱きついてり、そして豊満なふみの胸にぐりぐりと顔を埋めると満足したかの様に顔を上げ、ふみの瞳をじっと見つめると静かに口を開いた。
「御飯にする?お風呂にする?それとも…」
「何処でその様な言葉を覚えてきたのだ…」
鏡花の言葉にふみは再び溜息を吐くと鏡花は「テレビ番組で好きな人にやると効果的って言っていた」と首を傾げなら云い、ふみは一瞬、意識が遠くなりそうなった。
取り敢えず、「私には効果が無いぞ」とふみが伝えると鏡花は残念そうな顔をしながらふみを見つめていると突如、背後から龍之介の羅生門が鏡花の体に巻き付くと持ち上げられ、ふみから引き離された。そのまま龍之介は鏡花を羅生門で持ち上げたまま家の奥へと入って行った。
ふみも同じ様に部屋に入ろうと玄関に一歩足を踏み入れた時、今まで静かにふみと鏡花のやりとりを見守っていた敦にガシっと手を掴まれた。そして、そのまま敦に手を引かれながら何故か玄関の外へと連れ出された。
パタンと自身の背後で閉まった玄関の扉と目の前で笑みを浮かべる敦の表情にふみは自身の背筋に悪寒が走るのが分かると握られている手を振り解き逃げなくては…と本能的に感じた為、敦の手を振り解こうとした時だった。
敦は笑みを絶やす事無く、ふみの背後にある玄関の扉にトンと片手をつき、ふみを自身と扉の間に閉じ込めた。所謂、“壁ドン”と云う 普通の女の子なら喜ぶ状況にふみは唯々、この場を如何逃げるかを考えるのに必死でトキメキや心臓の高鳴りなど全くもって無かった。
そんなふみを知ってか知らずか…敦は気にする事無くふみにずいっと顔を近づけた。
「ちか、いっ…離れ、ろ…っ」
ふみが掴まれていない方の手で敦の肩を押したがビクともせず、敦は自身の肩を押すその手を握ると手の甲にチュッと口付けをした。
その感触にふみは、びくりと肩を揺らし体を硬直させていると敦は片手を離し、そのままふみの頬に触れるとふみ紅く色付いた艶やかな唇に自身の唇を重ねた。
「〜〜っ‼︎‼︎⁉︎」
「…っ」
目の前で自身を愛おしそうに見つめる瞳と敦の吐息、そして少年でありながら何処か大人の色気を感じる甘くさわやかな敦の匂いにふみは、自身の頭がくらくらと酔いそうになっていくのが分かった。
ふみは自身の頬に優しく触れる敦の片手に自身の手を優しく重ねると無意識に擦り寄ってしまった。
ちゅっと云うリップ音と共に敦は、ふみの唇から離れると満足そうな顔をしながら自身の唇をぺろっと舐めた。
突然の敦からのキスとその色気を含んだ仕草にふみの身体中の血液は沸騰したかの様に湧き上がり、全身を駆け巡る。思考回路がイマイチついて行けてないふみは唯、今の出来事に対して敦に文句を言いたいのだが頬を真っ赤に染めながらパクパクと口を金魚が息をするかの様に動かす事しか出来なかった。
「今日からずーっと一緒に住むんですから…いつでもこうやって“貴女を殺す事”が出来ますね」
そう言って敦は肉食動物の様な瞳をふみに向けると妖艶に微笑み、ふみは速くなる己の鼓動とぎゅっと苦しくなる胸を服の上から握り締めた。
「愛おしいふみさんとずっと一緒に暮らせるなんて幸せです」
「…っ金が貯まれば直ぐに出て行くからな」
「僕と一緒に?」
「愚者め…っ」
敦は、ふみの紅く色付いた頬をするりと撫でると再び顔を近づけた。それに対して、ふみも諦めたかの様に小さく溜息を吐いた。
そして、自身の背後にある玄関の扉の向こう側が少し騒がしいのを横耳に聴きながら自身の唇に敦の熱い唇が重なると静かに目を閉じたのだった。
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