あつあつふみふみ日和

七・日和

・ 朝、五時
 敦とふみが共に寝ている布団の枕元に置かれた時計が鳴り、敦とふみは目を覚ました。
眠たい目を擦りながらふみが起きると隣に寝ていた敦も起き上がりふみに「おはようございます」と挨拶するとふにゃりと笑い、頬にキスをした。
ふみは、そんな敦に「朝から盛るな、淫獣め」と額にチョップをすると痛がる敦を放置して跳ねた髪をそのままに布団から抜け出すと部屋の隅に置かれたパ●の実の箱へと近づいた。

 箱の中を覗き込むと凄い寝相で布団代わりのハンカチを蹴飛ばして二匹が「ぷすぅ〜ぷすぅ〜」「くぅ…くぅ…」と眠っていた。

「ちびーず、朝だ。起きろ」

ふみがそう言いながら二匹を優しく突っつくともぞもぞと起き上がり二匹は大きな欠伸をした。

・午前六時。
 身支度を終えた敦とふみと二匹の前には、ふみが作った朝食が並べられていた。
 目玉焼きとサラダと御飯と味噌汁。
出来立てで湯気の上がる味噌汁を一口飲んだ敦は「美味しい」と無意識に呟いてしまう程ほっこりとしており、それをふみは少し優しげに見つめていた。
 そんな向かい合って食べる敦とふみの間には、大きな目玉焼きを食べるもちあつと自分より大きなお茶碗に山盛りに盛られた白米をもぐもぐと食べるみにふみがいた。

「ちー‼︎」
「おかわりか?待っていろ」
「うー‼︎」
「うわ⁉︎もちあつ‼︎味噌汁に顔を突っ込むな‼︎火傷しちゃうぞ⁉︎」

・午前七時半。
 敦は武装探偵社、ふみは喫茶うずまきに出勤する為に準備を済ませると二人の仕事中、武装探偵社で面倒を見てもらう為にみにふみともちあつを小さな手提げの中に入れると二人と二匹は共に家を出た。

・午前八時前。
 敦が働く探偵社と同じビルに店を構えているふみの職場である喫茶うずまきに到着した。
敦は、ふみににっこりと笑い「ふみさん、行ってらっしゃい」と言うともちあつとみにふみも手提げからひょこっと顔を出し「うーうー」「ちーちー」と鳴くと手をフリフリと振った。

「ちびーず、良い子にしているのだぞ」
「うー‼︎」
「ちー‼︎」
「ふみさん、行ってきますを…」
「やらぬ」

 ふみは、敦に背を向けると店の扉を開けて中に入って行った。

・その数分後…
 敦は探偵社の扉を開き「おはようございます」と挨拶するとそれに続き、もちあつとみにふみも敦の後に「うー」「ちー」と挨拶をした。
すると先に出勤していた国木田と谷崎は敦と二匹に気がつき、「おはよう、敦くん」「おはよう、敦」と挨拶を返すと谷崎は少し屈み敦の持つ小さい手提げからヒョコっと顔を出す、もちあつとみにふみにも「おはよう。もちあつくん、みにふみさん」と二匹に挨拶すると二匹は元気良く片手を上げながら挨拶をした。

・午前九時過ぎ
 朝一から依頼を任された敦は、もちあつとみにふみを探偵社の皆に任せると二匹に見送られながら探偵社を後にした。

「う?うーう?」
「ちー!ちぃーち‼︎」

 二匹は空いている机の上でお互いに顔を見合わせ、側から見れば鳴いている様にしか見えない二匹だけがわかる会話をするとぽてぽてと国木田の机まで歩き、国木田に向かって鳴いた。

「うー」
「ちー」
「ん?あぁ、今日も手伝ってくれるのか?」

 二匹は敦が依頼で不在の間は国木田や谷崎の仕事を手伝ったり、乱歩や鏡花達に遊んでもらったりしていた。
 今日は何時も遊んでくれる乱歩と鏡花達が居ないので国木田のお手伝いをする事に決めた二匹は国木田にお仕事をお手伝いする合図(パソコンをぱしぱしと叩く)をすると国木田は、それに気がつき、自身の名字の判子と書類を渡すと「ここに判子を頼む」と二匹に仕事をお願いした。

 二匹は、元気良く返事をするとせっせとお手伝いを始めたのであった。

・午前九時半
 二匹が国木田の隣の机でせっせとお手伝いをしているとガチャリと探偵社の扉が開く音が聞こえたかと思うとひょこっと太宰が顔を出し「やぁ、おはよう!」とにこにこと笑いながら出勤してきた。
 完全に遅刻であるにも関わらず、悪びれる様子を見せない太宰に国木田は自身の顳顬がヒクつくのが分かったが敢えて何も言わずに目の前の仕事に集中する事に決めた。
 太宰は、そんな国木田を横目に自身の席に座ると遅刻してきたにも関わらず仕事を始める素振りを見せない太宰に国木田が注意しようとした時、突如、太宰が「痛い‼︎」と叫んだ。
国木田や他の社員達は驚き太宰を見ると太宰の手元付近にぷんすこぷんすこ。ふんすふんす。と怒る、二匹が居た。

「ちー‼︎ちちちちちー‼︎」ふんすふんす
「うぅぅぅぅっ‼︎うー‼︎」ぷんすこぷんすこ
「痛い‼︎みにふみちゃん、フォークで刺さないで‼︎もちあつくんは手を抓らないで‼︎」

 遅れて来たのに反省せず、仕事を始めようとしない太宰を叱る様にみにふみは愛用のフォークでちくちくと太宰の手を刺し、もちあつは力一杯、抓っていた。
数分後、二匹に根気負けした太宰は溜息を吐きながら仕事を始めたのであった。

・午前十時
 二匹は十時を知らせる時計の音に反応する様に手を止めるとみにふみは、もちあつの背中にぴょんっと飛び乗った。
もちあつは、みにふみがきちんと乗った事を確認すると机からぴょーん!と飛び降り、給湯室へと歩いて行った。
給湯室へ二匹が行くと事務員の方が皆のお茶を準備している姿が其処にはあり、二匹が「ちー」「うー」と鳴くと事務員は二匹に気がつき駆け寄って来てくれた。

「うふふ、ふたりとも今日は何を飲む?」

そう尋ねられると二匹は、ココアの袋を指差した。

「ココアが良いのね、淹れるから待っててね」

「後、羊羹も出してあげるわね」と言う事務員に二匹は喜び、「うー‼︎」「ちー‼︎」と鳴くと頭をぺこりと下げ、国木田の元へと戻って行った。
数分後、「はい、どうぞ」と机の上に置かれた羊羹と小さいマグカップ二つ、そして国木田用のコーヒーを見て国木田と二匹は事務員に御礼を言うと国木田から渡された濡れティッシュで手を拭き、二匹は羊羹へと食らいついた。

「美味いか?」
「うー‼︎」
「ちぃ〜‼︎」

 幸せそうな表情を見せる二匹に国木田は微笑んだ。

・午前十一時半
「ただいま帰りました」

 探偵社に帰社した敦の声が響いた。
その声に続き、「ただいま」「今帰ったよ」と朝から買い物に出ていた鏡花と与謝野の声が聞こえてきた。
 国木田のお手伝いを終え、谷崎の手伝いをしていた二匹は、その声に反応すると谷崎は「ふたりとも行っておいで」と頭を撫でてくれた。
 二匹は、ありがとうと言う様に鳴くとぴょんと机を降り、三人の元へ向かって行った。

 少し高い棚によじ登ると三人にお帰りなさいと言う様に「うーうー」「ちーちー」と鳴いた。

「ただいま、ふたりとも。お利口さんにしてた?」
「ただいま。小さいふみともちあつ」
「小さいの出迎えご苦労様」

 三人は二匹に挨拶をするとぐりぐりと指先で二匹を撫でた。

「お土産があるの。金平糖、後で食べよう」

 鏡花が手に持った紙袋から色とりどりの金平糖を取り出すとみにふみは、ぴょんぴょんと飛び跳ねて喜びを露わにした。
その横でもちあつは、みにふみを見て嬉しそうに笑っていた。

・正午
 十二時を知らせる時計の音と共に探偵社の扉がトントンとノックされた後に扉が開かれた。

「失礼する」

 扉を開けた人物は岡持ちを手に持ち、三角巾に白いエプロンを付けたふみだった。
ふみは敦の机にいる二匹の姿を見つけ、二匹に「お昼だぞ」と声をかけると二匹は、やったーと言う様にぴょんぴょん飛び跳ねながら敦にご飯‼︎ご飯‼︎とぱしぱしと合図した。
 敦は「はいはい」と言いながら二匹を抱っこしながらふみを何時もの様に来客用のソファーに座る様に言うとふみはコクリと頷いた。
 敦は、ふみがソファーに座ったのを確認すると二匹をソファーの前の長机に降ろし、「お茶を用意してきますね」とふみに微笑んだ。
 ふみは、その背中を見送ると岡持ちからラップが掛かった料理を取り出し、ラップを外すと二匹の前に置いた。

「あ、今日はピラフですか?」

 ふみと自分のお茶を持ちながら敦がそう尋ねるとふみは「私のお手製ピラフだ」と何処か得意げに答えた。

「わーい!ふみさんの手作りお昼‼︎」

 早く食べましょう!と敦が笑うと二匹と敦はお行儀良く両手を合わせて「いただきます」「ちー」「うー」と挨拶すると目の前に置かれたピラフを食べ始めた。

「美味しいか?」

ふみが二匹に尋ねると二匹は、それに答える様に嬉しそうに鳴いた。

「毎日、ふみさんの料理が食べれて幸せです」

 そう言って微笑む敦にふみは照れた様にソッポを向いた。

「私もお腹空いたぁ…みにふみちゃん、もちあつくん。私にもピラフ頂戴ー」

 太宰がひょっこりと現れ、ご飯を食べていた二匹にそう言いながらピラフに手を伸ばそうとしたが、みにふみは素早く飛び上がり、愛用のフォークを太宰の手の指と指の間にダンッと突き刺し、もちあつは太宰の顎、目掛けて全身を使ってタックルをした。

「痛ぁぁぁぁぁぁっ‼︎‼︎」

 痛みで後ろに倒れた太宰に敦とふみは冷ややかな目線を向けると口を揃えて「『自業自得です』」と言った。

「ちょっとぐらい、駄目かい…?」
「ううーっ‼︎」
「ぢーちっ‼︎」

 二匹は駄目と言う様に口元に米粒をつけたまま、首を横に振った。

・午後一時
 お昼を食べ終えた敦と二匹は店に戻るふみを見送ると再び仕事を始めた。

 最初は一生懸命、敦の手伝いをしていた二匹であったが満腹になった腹と探偵社の窓から差し込む暖かな日の光に二匹は、うとうととし始めた。
それでも寝てはいけないと言う様にハッと我に返り、自身より大きな鉛筆をせっせと動かすみにふみと消しゴムで間違っている箇所を消していくもちあつであったが矢張り眠気には勝てず、二匹とも鉛筆と消しゴムを持ったまま、こてんと眠りについてしまった。

 そんな二匹に敦は微笑むと机の引き出しの中からハンカチが敷き詰められた小さな箱を取り出すと書類の上で眠ってしまった二匹を優しく抱き上げ、箱の中へと寝かせた。

「手伝ってくれてありがとう」

 敦は自身の机の端に二匹が眠る箱を置くと二匹の寝息を聞きながら自身の仕事へと戻ったのであった。

「ぷすぅ〜ぷすぅ〜」
「くぅ…くぅ…」
「寝てるのかい?」
「お腹いっぱいになったみたいで。あ、太宰さん起こさないでくださいね」

・午後二時半
 敦が二匹を置いて席を立つと先程、二匹を起こすなと注意されていた太宰が現れた。
太宰は二匹が眠る箱を覗き込むと其処には頭と足の位置がお互いに逆さになり、上布団代わりのハンカチは蹴飛ばされていると言う二匹の寝相の悪さがそこにはあった。

 それでも二匹は寝息をたてながらすやすやと眠る姿に太宰は優しく微笑むと二匹を撫でようと手を伸ばしたが寝返りを打ったみにふみの足にげしっと蹴られてしまった。
太宰は驚き目をきょとんとさせた後、再び二匹を撫でようと挑戦するが今度は、もちあつが寝返りを打ち、太宰の手をぺしっと蹴ったのであった。

「そんなに私に撫でられたく無いのかい⁉︎」

 その言葉に席を立っていた敦は太宰が二匹の元に居ることに気がつき「もう!太宰さん、起こさないであげてください‼︎」と太宰を叱った。

 それでも二匹は、すやすやと眠っていた。

・午後三時
「うー」
「ちー…」

 三時を知らせる時計の音と共に二匹は目を覚ました。
 まだ少し眠たい目を擦りながら二匹は、もぞもぞと箱から抜け出すと目の前に居た敦におはようと挨拶をした。

「ふたりとも、おやつの時間だよ。今日は鏡花ちゃんが買って来てくれた金平糖だって」

"鏡花ちゃんの処に行っておいで"

 敦が二匹の跳ねた寝癖を直しながら言うと二匹はコクリと頷き、みにふみは、もちあつの背中に飛び乗り、鏡花の元へと走って行った。

「うー‼︎うー‼︎」
「ちー‼︎ちー‼︎」

 二匹は鏡花の座るソファーへと辿り着くと来たよ!と合図する様に鳴いた。それに気がついた鏡花は優しく二匹を抱き上げてソファーの前の長机に移動させると机の上に金平糖を広げ始めた。
キラキラと輝く色とりどりの金平糖にもちあつもみにふみも瞳をキラキラと輝かせると鏡花にありがとうと言う様に鳴くと頭をぺこりぺこりと何度も下げた。

「どうぞ。沢山あるから食べて」

 鏡花がそう言うと二匹は再びぺこりと頭を下げた後、小さい手を使ってぼりぼりと食べ始めた。

「美味しい?」

 鏡花がそう尋ねると二匹は嬉しそうに鳴き、みにふみは一粒、手に取ると鏡花にあげると言う様に差し出した。
 鏡花は少し目をきょとんとさせた後、みにふみに顔を近づけるとみにふみは鏡花の唇に金平糖を押し付けた。
 其れを鏡花は口に入れぽりぽりと食べると「美味しい」と呟いた。

 其れにもちあつとみにふみは嬉しそうに顔を見合わせると再び金平糖をぼりぼりと食べ始めた。

・午前四時半
 依頼から帰って来た乱歩と二匹は、オセロを始めたのだがあっさりと二匹は負けてしまった。

「はい、僕の勝ちー‼︎」
「うー…」
「ちー…」

 残念そうな表情を浮かべる二匹に乱歩は勝った事が嬉しいのかニンマリと笑うと二匹は、何かを思いついたかの様な表情を見せると近くの棚に置かれていた将棋盤を指差した。

「んー?何?次は将棋をするの?」

 乱歩が尋ねると二匹は違うと言う様に首を振った。

「もしかしたら将棋崩しをしたいのかもしれませんよ!」

 僕がこの間、ふたりに教えたんです!と二匹と乱歩のやり取りを見ていた賢治が笑顔で言うと二匹はコクコクと頷いた。

「へぇ…この名探偵に不可能なんて無いからね‼︎良いよ、君達の挑戦を受けてあげるよ」

 乱歩は、そう言って笑ったが数分後、小さい体を利用した二匹の策略にまさか負けるとは、この時の乱歩は知る由もなかった。

「嘘だろ…⁉︎」
「うー!」
「ちー!」

 乱歩に勝ち、喜ぶ二匹に乱歩は悔しそうに顔を歪めると「もう一回‼︎」と勝負を挑むのであった。

・午後五時過ぎ
 探偵社の扉が開き、今日は早めに仕事を終えたふみがひょっこり顔を覗かせた。

「やぁ、ふみちゃん。仕事は終わりかい?」

ふみに気がついた太宰が挨拶をするとふみは嫌そうな表情を浮かべたまま「お疲れ様です、今日も一日中サボっていたのですか?」と問い掛けた。

「サボってないよ!君と敦くんが面倒見ているちびっこ達が私を監視しているからね。きちんと働いているよ」

“お陰で疲れたよ…”と心成しか疲れた様にグッタリとする太宰にふみは「そうですか、常日頃からサボる事ばかり考えているからその様な事になるのです。ざまぁ」と嘲笑うと敦の机の上で遊んでいた二匹の元へと向かった。

「あ、ふみさん‼︎」

 敦がふみの名を呼ぶとふみは無表情から少し穏やかな表情を敦に見せると「お疲れ様」と敦に呟き、敦はその言葉に微笑むと「ありがとうございます。ふみさんもお疲れ様です」とふみに言った。

「今日は、早上がりだから先にちびーずを連れて帰る」
「了解です。今日の晩御飯は何ですか?」

“ふみさんの手料理、楽しみなんですよ”と笑う敦にふみは嬉しそうに少し口元を緩めると「今日は昨日の夜に作った金平牛蒡とほうれん草のおひたしと出汁巻だ」と答えると二匹が出汁巻と言う言葉に反応し、嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねた。

「そこまで出汁巻が気に入ったのか?」
「ふたりともこの間、出汁巻食べて喜んでましたもんね」

わーいわーい!だし巻き!だし巻き!!と言う様に「うーうー!」「ちーちー!」と喜ぶ二匹に敦とふみは顔を見合わせて微笑むとふみは朝来る時に二匹が入っていた小さな手提げに二匹を優しく入れると先に家に帰宅しようと探偵社を後にした。

・午後五時半
 ふみは、ふっと帰り道の途中にあるコンビニへと立ち寄った。
 様々な品物が並ぶ中、ふみはすぐ様お菓子コーナーに向かうと手提げの中にいる二匹に「何か食べたい物はあるか?」と尋ねると二匹は手提げからひょこっと顔を出すともちあつは極細ポ●キーを指差し、みにふみは筒型のポテトチップスを指差した。
ふみは二匹が選んだお菓子と自身の選んだ新作のお菓子を手に取るとレジで会計を済ませようとしたがレジの横にあった唐揚げに視線を向けると「すいません、唐揚げも追加で」と言った。

 会計を済ませた後、コンビニを出たふみは袋から唐揚げを取り出し蓋を開けると手提げの中に唐揚げの入った箱を入れた。
 みにふみともちあつは、ごそごそ箱から一つずつ唐揚げを受け取るともぐもぐと食べ始めた。

「人虎には内緒だぞ」
「うー!」
「ちー!」

 ふみがそう言うと二匹はコクコクと唐揚げを頬張りながら頷いた。

・午後六時過ぎ
「ただいま帰りました‼︎」

 もちあつとみにふみが夕方に放送されているアニメを観ている中、ふみが夕食の準備を終え、沸いた風呂の様子を見に風呂場へ行っていると玄関から敦の声が聞こえた。
 ふみは濡れた手をタオルで拭きながら玄関へ行き、敦に「おかえりなさい。今日は早かったな」と言うと敦は嬉しそうに微笑んだ。

「家にふみさんがいる…‼︎幸せだぁ…」
「その言葉、毎日言っているな。人虎」

 ふみが飽きれた様に溜息を吐くと敦は「それだけ嬉しいんです‼︎」と言った。

「ところで今日は、してくれないんですか?ただいまのキス」
「毎日、その様な事をしている覚えがないのだが?」
「後、「ご飯にします?お風呂にします?それともわ・た・し?」もしてもらってません‼︎」
「今後もする予定は、ございません。ちびーず、夕食の時間だ」

 ふみは抱きついて来ようとした敦をひらりと交わすとテレビを観ていた二匹に声を掛けたのであった。

・午後六時半
「いただきます」
「いただきます」
「うー」
「ちー」

 二人と二匹はテーブルに並べられたご飯に手を合わせると敦とふみは箸をもちあつとみにふみは小さなフォークを持って食べ始めた。
 二匹は自身たちの目の前に置かれているだし巻き卵に目を輝かせるとだし巻き卵に噛りついた。

「うー‼︎」
「ちー‼︎」

 美味しい美味しい!と喜ぶ二匹にふみは小さく微笑んでいると向かいで食べていた敦は金平牛蒡を食べながら美味しさと幸せを噛み締めていた。

「美味しいです…‼︎」
「そうか。…口に合ったのなら良かった」

・午後七時過ぎ
 夕食を終えたもちあつとみにふみは、台所で洗い物をするふみの隣で洗った食器を拭くお手伝いをしていた。

「これで終わりだ」

 二匹に最後のお皿を渡すときゅっきゅっと布巾で水気を拭き取るとふみに褒めてと言わんばかりにドヤ顔を見せた。

「助かった、ありがとう」

 ふみが言うと二匹は、どういたしましてと言う様に片手を挙げた。
 ふみはそんな二匹の頭を指でうりうりと撫でると壁に掛けられた時計にちらりと目をやった。
時計の針は午後七時過ぎを指しており、ふみは居間で洗濯物を畳んでいる敦に視線を向けると敦に「人虎、風呂の時間だぞ」と声を掛けた。

「先に良いんですか?」
「此処は貴様の家だ。家主が先に入らなくてどうする」
「確かに僕の家ですけど、此処はふみさんの帰る家でもあります」

 敦がふみに面と向かってそう言うとふみは少し恥ずかしそうに視線を逸らした。

「い、良いから早く風呂に入れ!馬鹿者!」
「顔が真っ赤ですよ?ふみさん」
「煩い‼︎黙れ‼︎」
「ふみさんも一緒に入りましょう‼︎」
「断る‼︎早く、もち人虎を連れて行け、この愚者め‼︎」
「もう、ふみさんの照れ屋さん…‼︎さて、もちあつーお風呂入るよ」
「うー♪」

 もちあつは、敦の肩にぴょーんと飛び乗ると敦と共に風呂へ向かったのであった。
 脱衣所で服を脱いだ敦は、もちあつを片手に浴室の扉を開けるともちあつは、ぴょーんと湯槽に飛び込もうとしたのを慌てて止め、「もちあつ、駄目だよ。先に身体を洗ってからだ」と言うともちあつの身体を石鹸でわしゃわしゃと洗い始めた。

 もこもこと泡立つのが面白いのか「うー♪うー♪」とご機嫌なもちあつに敦は、自身の口元が緩むのが分かった。

「気持ちいいのか?もちあつ」
「うー♪」

 もちあつの身体は小さい為に直ぐに洗い終え、もこもこの泡を桶に入れたお湯で優しく洗い流すと敦は、もちあつを湯槽の縁に置いた。
 するともちあつは、位置について…よーいドン‼︎と言う様にバシャーンッと飛び込むと小さな体のもちあつにとっては広い湯槽をバシャバシャと泳ぎ始めたのであった。

「お前、小さいのに身体能力凄いよなぁ」
「うー‼︎」

 もちあつは、バシャバシャと泳ぎ続けた。

・午後七時半
 敦ともちあつが風呂から上がり、今度はふみとみにふみの入浴の時間となった。
 片割れである龍之介とは違い、風呂が好きなふみは、みにふみを連れて嬉しそうに風呂へと向かった。
 服を脱ぎ、浴槽の扉を開けるとシャワーを手に取り、桶にお湯を少し注ぐとみにふみをその中に浸からせた。
 そして、ふみにシャンプーを少し分けてもらうと自身でわしゃわしゃと泡立ててみにふみは頭を洗い始めた。

 頭と身体を洗い終えたみにふみが「ちー」と鳴くとふみは、みにふみを抱き上げ、泡を流すと桶の中のお湯を入れ替えて再び、みにふみを浸からせるとみにふみは、その中で疲れを癒す様に「ふぅ…」と溜息を吐いた。

 ふみも頭と身体を洗い終えると湯槽に浸かった。

「気持ちいいか?小さい私」
「ちー!」

 ふみに答える様にコクコクと頷きながら鳴いたみにふみにふみは、ふっと微笑んだ。

「ちー」
「ん?どうした」
「ちーちー‼︎」
「あぁ、アヒルに乗りたいのか」

 みにふみの鳴き声にふみがどうしたのか問いかけるとみにふみは浴槽の縁に置かれた黄色いアヒルのおもちゃを指差すと再び「ちー‼︎」と鳴いた。

 みにふみは、ふみと同じくカナヅチであった。
もちあつの様にバシャバシャと泳ぐ事が出来ず、足が付かない大きな浴槽は怖い。
 だが、以前から敦の家にあったアヒルのおもちゃの上に跨り、足でバシャバシャと動かし漂うのは好きで毎回、風呂に入る度にせがむのであった。
 ふみはアヒルを湯槽に浮かべ、そして浮かべたアヒルにみにふみを乗せるとみにふみはバシャバシャと足を動かし、すぃすぃーと遊び始めた。

「あまり暴れるな。落ちるぞ」
「ちー‼︎」

 数分後、あまりにもバシャバシャと暴れ過ぎて、その後、浴槽の縁にアヒルがぶつかった衝撃でアヒルが引っ繰り返り、みにふみは浴槽の中に落ちて溺れそうになるのであった。

「だから、暴れるなと言っただろう‼︎」
「ぢぃぃぃぃぃっ‼︎‼︎‼︎」ゲホゲホッ

・午後八時過ぎ
 ふみとみにふみが風呂から上がると敦ともちあつがテレビを見ながらお茶を飲んでいた。
 ふみは自身の手の中で疲れきってグッタリとするみにふみをもちあつがいる机の上に置くともちあつは、みにふみの元に素早く心配そうに駆け寄って来た。

「お風呂場が騒がしかったみたいですけど何かあったんですか?」

 敦がグッタリしているみにふみを見つめながらふみに問いかけるとふみは飽きれた顔をしながら先程あった事を説明した。
 ふみが敦に説明している間、もちあつはグッタリとして机の上にベターンとうつ伏せに寝そべるみにふみの頭をなでなでと撫でていたのだが、五回に一回は手をペシンとみにふみに叩かれていた。

「まぁ、放って置けばその内、回復するだろう」
「そうですね。さて、ふみさん 髪を乾かしましょう」

 敦はニコッと笑うと立ち上がり、脱衣所からドライヤーを片手に戻って来るとコンセントにコードを差し込み、ふみに自身の足の間に座る様に促した。

「毎回言うが、自分で出来るからしなくて良い」
「いいんです‼︎此れは僕の毎日の楽しみなんですから」

 そう言うと敦は、ふみの手を引っ張り自身の足の間に座らせるとドライヤーのスイッチを入れ、ふみの長い髪を優しく乾かし始めた。

「髪を乾かすのが楽しみとは…物好きめ」
「ふみさんのだから楽しいんですよ」

 少し照れた様に話すふみに敦は笑うとポツリポツリと話し始めた。

「髪を乾かしている間は、ゆっくりふみさんに触れれますし同じシャンプーの匂いがすると“あぁ、一緒に住んでるんだなぁ”って幸せな気持ちになるんですよ」

“ふみさんは、どうですか?一緒に住んで”

 敦がふみの濡れた髪に触れながら問い掛けるとふみは少しの沈黙の後、真っ直ぐ前を見つめたまま口を開いた。

「貴様との同棲は…嫌じゃない。その…寧ろ…っ」

“たのしい…”

 敦には、ふみの後ろ姿しか見えず、ふみがどの様な表情をしているかは分からなかったが黒い髪の隙間から見えた白い耳が赤く色付いている事に気づいた敦は、ドライヤーのスイッチを切るとドライヤーを放り投げ、後ろから凄い勢いでふみを抱きしめた。

「あぁぁぁ‼︎‼︎もう‼︎‼︎ふみさんの馬鹿‼︎‼︎可愛いです‼︎‼︎好きです‼︎‼︎愛してます‼︎‼︎‼︎」
「なっ‼︎⁉︎馬鹿者‼︎叫ぶな‼︎他所に聞こえたらどうするつもりだ‼︎‼︎」

 突然、愛を叫び始めた敦に怒るふみと言う異様な光景に体力が復活したみにふみともちあつは「あー、またやってますね」「うるさいやつらだ」と言う様に鳴くと冷ややかな目を二人に向けたのであった。

・午後八時半
 ふみの髪を乾かし終えた敦はドライヤーを片付ける為に再び脱衣所へと向かった。
そんな敦を横目にふみは机の上で猫じゃらしを片手にもちあつを擽り、遊ぶみにふみから猫じゃらしを取ると二匹をうりゃうりゃと擽り始めた。

「うー!ううぅー‼︎」
「ちぃーちっちー‼︎」

 きゃっきゃっと喜ぶ二匹にふみも楽しそうに遊ぶ姿を見て敦は微笑むと近くにあった携帯に手を伸ばし、カメラ機能を起動させると目の前で楽しそうなふみと二匹をパシャリと携帯に収めた。

・午後九時前
 ふみと遊び終えた二匹は、時計の針が九時前を指した頃、眠気からか、うとうとと船を漕ぎ始めた。

「うー…」
「ちぃ…」

 小さく鳴く二匹に布団を敷き、寝る準備を終えた敦とふみは、二匹を持ち上げると二匹の寝床である部屋の隅に置かれたパ●の実の箱まで移動すると先にもちあつを降ろし、その隣にみにふみを寝かせると上布団代わりの可愛い絵柄のハンカチを冷えない様に二匹に掛けた。

 ぷすぅ〜ぷすぅ〜くぅ…くぅ…と寝息を立て始めた二匹に敦とふみは顔を見合わせて微笑むと小さな頭を指で撫でた。

「おやすみ、ふたりとも」
「良い夢を見れると良いな」

そう言うと敦とふみも眠りについたのであった。


 此れは、ある日拾った不思議な生き物二匹と二人の人間の平凡で幸せな日常のお話。

 敦ともちあつとふみとみにふみによる、あつあつふみふみ日和なのである。