じゅんぶら(転生あつふみ)
塚本ふみに転生して十六年
敦さんと再会し結婚して早三年…。
今年の春に高校を卒業した私は、現探偵社社長・国木田独歩と太宰さんの計らいにより武装探偵社に事務職員として就職した私は、愛しい人と共に毎日楽しく、そして慌しい日々を過ごしていた。
高校三年生の春、進路を決める際、龍之介と銀と樋口、現ポートマフィア首領・中原さん達に高校を卒業したらポートマフィアに就職しないか?と誘われた私だったが、私の心は既に決まっていた。
「私は結婚して、私の人生はもう敦さんのものだ。
離れる事は許されぬ。
貴方達のお誘いは、嬉しいがポートマフィアとしての私は既に没している。
敗者は大人しく戦場から立ち去る方がよい。」
そう言うと中原さんは笑い、龍之介は“敦さん”の名に拗ねた様にそっぽを向いたが優しく頭を撫でてくれた。
高校三年の夏、進路も決め終え武装探偵社へ就職が確定した後、私と敦さんは籍を入れた時に決めていた“私が高校を卒業したら式を挙げる”と言う約束を果たす為、動き始めた。
二人で式場やウェディングドレスを決めたりするのは始めての体験で凄く嬉しく幸せを感じていた。
式の日取りが決まった直後に龍之介と銀に「芥川家で共に前日を過ごさないか」と誘われていた私は、敦さんにその事を話すと敦さんは、快く私に「楽しんで来てください。」と送り出してくれた。
私が前日に龍之介達の所に泊まると聞いていた太宰さんが「なら、敦くん。結婚式の前日は国木田くんや谷崎くんを誘って久々に飲み明かそう{emj_ip_0792}」とキラキラとした笑顔で言うのを私は、太宰さんに「敦さんに余り無茶させないでください」と言うと太宰さんはニヤニヤしながら「旦那様を心配するほどベタ惚れかい?」と揶揄うので遠慮無く、腹に一発拳を決めた後「ベタ惚れですが何か?」と告げておいた。
敦さんが顔を両手で覆い、私の言葉に一人悶えていたのは、知らないふりをしておいた。
そして、時はあっという間に流れ、私は結婚式の前日を迎えていた。
朝、朝食を済ませた私はお泊まりセットを片手に敦さんに見送られながら家を出て龍之介の家へと向かった。
私が死ぬ前と変わらぬ場所にある芥川家のインターホンを押すとガチャリと開いた扉から「ふみ先輩{emj_ip_0792}」と何故か樋口が現れた。
不思議そうに樋口の名を呼んだ私に樋口は、私から荷物を取り上げると私を家の中へと招き入れ、リビングに向かうと其処には、何故か立原に広津さん、尾崎さんに梶井さんにそして現ポートマフィア首領である中原さんと言うポートマフィアの人間が勢揃いしていた。
ふ「こ、此れは…どう言う事で…?」
龍「ふみが来ると言う話をしたら…押し掛けて来た。」
突如、私の背後から現れた私服姿の龍之介が疲れた様な顔をしている様に見えたので「大丈夫か?」と尋ねると「大丈夫な様に見えるか?」と返された。
大丈夫では、無いのは目に見えていた。
既に酔っている中原さんに其れを面白そうに見ている広津さんと尾崎さん。
暴走している梶井さんの面倒を一生懸命見ている立原。
樋口も酔っているのか「ふみ先輩のドレス姿…想像したら涙がっ」と泣き出し、銀が困った様に背中を撫でていた。
ふ「……騒がしいな…」
ふふっと私が笑うと龍之介は、「笑い事では無い」とぺチッと私の頭を叩いた。
その後は、大変だった。
酔った中原さんに梶井さんや樋口、立原は「手前等…俺の酒が飲めねぇのかぁ{emj_ip_0792}」と盛大に絡まれて酔い潰され、尾崎さんと広津さんは自分達が被害を受ける前に帰って行き、リビングには酔い潰れた4人が横たわる姿があった。
私と銀は、苦笑いすると4人を客間に運び、毛布を掛け寝かせると其々の部屋へと戻り、眠りに就こうとしたのだが、一向に眠気が訪れなかった私は、水でも飲もうかとキッチンへと向かった。
キッチンへ向かうとリビングのソファーに龍之介が座っているのが見えた私は、龍之介の名を呼ぶと龍之介は、ゆっくりと振り返り「ふみか…」と私の名を呼んだ。
ふ「眠れないのか?」
龍「あぁ。ふみもか?」
ふ「うむ。睡魔が訪れなくてな」
そう言うと龍之介は、「明日、式の途中で寝るなよ。」と言ってきたので「龍之介もな。」と言うと「僕は、そんな事などせぬ」と言った。
ふ「……明日」
龍「“明日”?」
ふ「明日の…バージンロードを歩く時の父親役を引き受けてくれてありがとう。」
そう言うと龍之介は、「あぁ。気にするな」と言った。
生まれ変わった私には、両親が居たのだが私が赤子の時に複雑な事情により離婚、父も母も私を引き取る事をせず、私は母方の優しい祖父母に引き取られ育てられた。
祖父母に引き取られてから一度も両親には会っていないため二人がどの様に過ごしているのかも知らないし会いたいとも思って居なかった。
祖父母が生きていれば祖父に父親役を頼んだのだが、祖父母は既に私が中学の時に亡くなっている為、無理である。
だが、バージンロードを歩くのに父親役が居ないのは式として成り立たないと考えた結果、私と敦さんは別の誰かに代理してもらおうと考えた。
「え{emj_ip_0793}何それ、私、やりたい。ふみちゃんのパパ役やりたい」と言う太宰さんを無視した私に敦さんは「芥川なら、どうですか?」と言ってくれた。
「だから、私がやりたいんだって{emj_ip_0792}」と横で騒ぐ太宰さんを敦さんは、にこやかな笑みを私に向けながら無視して話をし始め「芥川は、ふみさんの家族ですしね。」と言ってくれた事に私は、凄く嬉しかった。
すぐさま私は、龍之介に連絡を取り父親役を頼むと龍之介は「僕以外に誰と歩くつもりだったんだ?」と最初から歩いてくれるつもりでいてくれたらしい。
その事がまた、私には嬉しかったのだ。
ふ「改めてお礼が言いたかった。
本当にありがとう。」
そう言うと龍之介は、少し寂しそうに笑った。
龍「最初は……人虎からふみが生まれ変わったと聞いた時には、等々人虎も気が触れたかっと思った。
転生など物語の中の話で現実では、あり得ない事だと思ったからだ。
だが、真剣に話す人虎とふみに出会った時…
“あぁ、僕の片割れはやっと帰って来た”と感じた。
あの日、人虎が抱きしめるふみの遺体を見た時、僕は自身の半分が死んだと思った。
それ程にふみは、僕を支えてくれていた。
ありがとう、ふみ。
不本意だが…人虎と共に幸せにな。」
小さく笑う龍之介に私は抱きつくと「ありがとう」と呟いた。
龍之介は、優しく私の頭を撫でてくれた。
朝を迎えた私は、客間で寝ている中原さん達を起こすと直ぐ様、準備の為に式場へと向かった。
ウェディングドレスに化粧を施された鏡に映る自身を見て、私は自分じゃない様に見えた。
鏡の前で呆然とウェディングドレス姿の自身を見つめていると控え室の扉がトントンとノックされた。
私は、扉に視線を向け「どうぞ」と言うとガチャリと扉が開き、ぞろぞろと人が入って来た。
ナ「綺麗ですわぁ{emj_ip_0792}」
樋「ふみ先輩っ…お美しい{emj_ip_0792}」
与「おやおや、良いじゃないか。」
尾「良く似おうておるぞ、ふみ」
鏡「うん…凄く似合ってる…っ」
銀「姉さん……綺麗…本当に」
入って来たのは女性陣であった。
ウェディングドレス姿の私を見て其々褒めてくれる言葉に私は、恥ずかしかったが嬉しくもあった。
そんな私を見て6人は笑うと私に写真を撮ろうと言ってくれた。
代わる代わるみんなで写真を撮っている時、中原さん率いるポートマフィアと国木田さん率いる武装探偵社の敦さんと龍之介を抜いたメンバーが控え室へと入って来た。
其々、ウェディングドレスを褒めてくれる姿に私はまた、嬉しくて笑ってしまった。
森「おや?賑やかだね。」
福「少し出遅れたか?」
乱「みんなが居るし大丈夫じゃない?」
エ「わぁっ{emj_ip_0792}ふみとっても素敵ね{emj_ip_0792}」
突如聞こえた声に皆、一斉に振り向くとそこには元ポートマフィア首領と元武装探偵社社長・福沢諭吉と江戸川乱歩とエリス嬢が立っていた。
首領の異能であるエリス嬢は、赤いフリルのスカートを揺らしながら私に抱きつくと「とても素敵{emj_ip_0792}ふみ、綺麗だわ{emj_ip_0792}」と笑い、私は、エリス嬢の手を取りしゃがみ「ありがとうございます、エリス嬢」と言うとエリス嬢は、更に素敵な笑顔私に見せてくれた。
森「とっても似合っているよ」
福「うむ。」
ドレス姿を褒めてくれる2人に私は、笑顔で御礼を言うと2人とも「おめでとう」と言ってくれた。
その後、式場のスタッフの方が控え室を訪れ「そろそろ、式のお時間ですので新婦様以外は会場の方へどうぞ」と声を掛けられ、みんな、私に声を掛け出て行くとひとり残った控え室に静けさが訪れた。
先程の賑わいから打って変わり静かになった控え室に私は、少し寂しさを感じながらひとり鏡に映る自身へと視線を再び向けた。
鏡の中の私は、あの日死んだ私より幼く、そして幸せそうに見え自分の事なのに涙が出そうになった。
“芥川ふみ”が見る事が出来なかった姿…
そして幸せな未来が見えたからだ。
死んだ事が良かった訳では無い。
ただ、こんな幸せな未来を迎える事が出来たから、それはそれで必要な事だったのかもしれない。
まぁ、前世でもっと素直になっていたら此の幸せはもっと早くに手に入ったかもしれないが…
私は、ふふっと笑うとコンコンと控え室にノックが響いた。
ふ「はい。どうぞ。」
私が返事をするとゆっくり扉は開き、私は扉を開けた人物の名を呼んだ。
ふ「敦さん」
敦「あぁ……凄いです。
本当に綺麗です、ふみさん」
白いタキシードに身を包み、普段とは違う髪型をした敦さんの姿に私は、どくどくと鼓動が速くなり自身の頬が熱くなるのを感じた。
震える声で「敦さんも…に、似合ってる。かっこいいっ」と言うと敦さんは照れた様に頬を赤く染めながら微笑んでくれた。
その姿に私は、胸がぎゅーっと苦しくなるのが分かった。
敦「本当に綺麗です。
天から舞い降りたみたいですよ。」
ふ「大袈裟過ぎだ。」
そう言うとお互いに顔を見合わせて笑った。
敦「不思議ですね。
籍は、とっくに入れて僕のお嫁さんの筈なのにウェディングドレス姿のふみさんを見て“あぁ、こんな素敵な人が僕の嫁なんだ”と改めて実感して…」
ふ「ふふっ…変な敦さん」
私が笑うと敦さんは、私に手を伸ばしするりと頬を撫でた。
敦「ふみさんと再開し結婚して三年が経ちました。
笑ったり泣いたり…
毎日、ふみさんが居ると言う幸せを感じる事が出来ました。
ふみさん、貴女を愛して良かった。」
そう言って今にも泣きそうな敦さんに私も涙が出そうになったがグッと堪えた。
私は、息を深く吸いそしてゆっくり吐くと敦さんを見つめた。
ふ「ふん……前世で散々私を追い掛け回し、とても迷惑だったぞ人虎。
でも、今考えると…
私は、あの時からずっと敦さんが好きでした。
嫌いだと鬱陶しいと言っていても貴方の事を心の底では、ずっと想っていた。
私をずっと想っていてくれてありがとう。
貴方に出逢えて良かったです。」
私が敦さんに微笑むと敦さんは私の腰を引き寄せぎゅっと抱きしめてくれた。
暖かな温もりに私は、とてつもない幸せを感じた。
「敦くん、ふみさん{emj_ip_0792}結婚おめでとう{emj_ip_0792}」
教会の外、ライスシャワーと花弁が舞う中を私と敦さんは寄り添い沢山の方々から祝福を受けた。
太宰さんは、ニコニコといつもと変わらぬ笑顔を浮かべており普段ならイラッときていただろうが本日は、特に何も感じず、素直に太宰さんからのお祝いの言葉を受け止める事が出来た。
私は、龍之介が気になり龍之介に視線を向けると龍之介は、何処か涙ぐんでいる様に見え笑うと龍之介もふっと微笑んでくれた。
ブーケトスは、周りの方々は皆、結婚済みの方々ばかりなので行わず、エリス嬢にブーケを差し上げた。
花を持ち、笑うエリス嬢は天使の様だった。
祝福の言葉に教会に鳴り響く祝福の鐘の音。
この見えるもの聞こえるもの全てが私に現実だと教えてくれる。
ふ「敦さん。
私を愛してくれてありがとう。
此れからも永遠に愛しています。」
敦「ふみさん。
僕と出逢ってくれてありがとうございます。
此れからも僕は、貴女を愛し続けます。
永遠に…。」
そう言うと私と敦さんは、何方とも無く唇を重ねた。
終わり。
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