宝石の国パロ
神樂ちゃん家の結ちゃん
なのちゃん家の錵花ちゃん

お借りしました



-これは、強くて脆くて美しい、宝石達の物語-




この国には嘗て「にんげん」と言う動物がいた。

この星が6度流星が訪れ、


6度欠けて6個の月を産み痩せ衰え


陸がひとつの浜辺しかなくなったとき


すべての生物は海へ逃げ


貧しい浜辺には不毛な環境に適した生物が現れた。


月がまだひとつだった頃


繁栄した生物のうち逃げ遅れ海に沈んだ者が海底に棲まう微小な生物に食われ


無機物に生まれ変わり


長い時をかけ規則的に配列し結晶となり再び浜辺に打ち上げられた。


其れが宝石《我々》である。








「うむ…あまり長々しくてつまらないのだ」



そう言いながらそっぽを向く光る亜麻色の髪を持つ少女とそんな少女に溜息を吐く鈍い光を持った黒髪の少女の姿があった。

「貴様が博物誌を書くのに歴史について教えて欲しいと頼んで来たのだろう。トパーズ」


黒い少女が亜麻色の髪の少女を“トパーズ”と呼ぶと少女は、ぷくーっと頬を膨らませ「錵花なのだ」と黒い少女に怒った。

「カーボナード。其方は、いつも名を呼ばぬ。
最年少の私でも、もう300歳なのだ。いい加減覚えるのだ。 後、話が長いのだ。
もっと手短に分かりやすく話すのだ。」

ぽこぽこと怒る錵花に“カーボナード”と呼ばれた少女は溜息を吐いた。
そんなカーボナードを見た錵花はぷくーっと頬を膨らますと「もう博物誌を書くなど止めるのだー」とぽいっと手に持っていた鉛筆を放り投げた。


カーボナードは再び溜息を吐き、錵花が放り投げた鉛筆を拾うと錵花の額を鉛筆でコンっと叩いた。

「貴様が何かしたいと言うから様々な仕事を与えたが全て“飽きたのだ”と蹴った貴様が悪いのであろう。だから夏目先生は考えに考えて貴様が続けられるであろうと“幅広く物事を記録する博物誌の作成”の任を与えてくださったのだ」

“夏目先生に感謝するのだぞ”と言うカーボナードに錵花は、ふいっと顔を逸らし気まずそうな表情を見せた

「ううっ…なら、戦闘員としてなら私も戦えるのだ」
「次があったらな」

カーボナードの適当に答えた態度に「適当に答えるなっ‼︎」と不貞腐れる錵花にカーボナードは、小さく笑うとお日様の日が当たりキラキラと輝く錵花の頭を撫でた。


「あ、ふみちゃん!居た居た!」


突然、錵花と“カーボナード”の背後から聞こえた声に2人はくるりと振り返ると其処にはこの場に居た錵花とカーボナードより髪をキラキラとさせた少女が駆け寄って来た。


「ダイヤモンドか。どうした」

カーボナードがそう言うとダイヤモンドと呼ばれた少女は、先程名を呼んでもらえなかった錵花の様にムッとした表情を見せた。


「もう‼︎ふみちゃん‼︎ダイヤモンドじゃ無く結と呼んでくださいって言ってるじゃないですか‼︎」


目の前で怒る結にカーボナードと呼ばれていた黒髪の少女・ふみは、はぁ…と溜息を吐いた。

「カーボナード。私達を人名で呼ばずに宝石名で呼ぶのは其方の悪い癖だぞ」


「そうです‼︎しかも、ふみちゃんは私とペアなんですから呼び捨てで呼び合っても良いほどなんですよ‼︎」


ぽこぽこと怒る結と錵花にふみは内心『私達は宝石だから宝石名で呼び合っても別に悪くないのでは?』と思っていたが、それを口に出すと2人が更に怒りそうな気がしたので自分の心の中で留めて置くと自身を探していたであろう結に『何があった』と尋ねると結は当初の目的を思い出したかの様にハッとした表情を見せた。


「忘れてました。ふみちゃん、先程見回りに出てたモルガナイトとゴーシェナイト達から黒点らしきものが見えると連絡が来たのです」


そう結が言った瞬間に錵花は驚いた表情を見せふみは険しい表情を浮かべた。
そして、結とふみは顔を見合わせ頷き合うと錵花に背を向け走り出したのだが途中でふみはピタリと足を止め、立ち尽くしたままの錵花に視線を向けた。

「錵花、予想より少し早いが…“次”が来たぞ」

錵花は、一瞬何の事か理解できなかったが、ふみの“次”と言う言葉にハッと気づき、遅れながらも錵花も2人の後を追う様に走り始めた。


「錵花、先程の博物誌を書く為に教えた黒点とは何かを答えよ」


武器を持ち草原を走りながら突如、そんな事を言い出したふみに初めての自分だけの武器である剣を片手で持ちながら錵花は人差し指を口元に手を当てながら思い出す様な素振りを見せると口を開いた。


「“宝石の体を持つ我々を装飾にしようとする敵の者達…月に住む月人達が襲来する予兆として空に黒い影が現れる事を【黒点】と言う”」
「正解だ。
月人は天敵もいないのに争いを好み、月から大群で現れては宝石の体を持ち不老不死である私達を装飾にしようとする。
私達は、例え体を砂粒程度に細かくされても欠片を集めれば人型で復活出来る、そんな私達にとって月人は一番の脅威であり、月人に敗北すれば私達の体は解体され装飾にされてしまう」


“此方は数十人に対し彼方は大群…”



「此方の方が部が悪いが……最後の一人になっても私達には戦うしか選択肢は残されていない」


ふみの言葉に結は、小さく頷いた。

「数十人と行っても何人かは月人に捕らえられてしまい、その身体を加工され装飾に使われてしまっている…この間、連れ去られたヘリオドールは月人達の武器の弓矢の装飾として扱われていたし…
戦いで全ての欠片を回収したけど…まだ、人型に至るまでに回復してないですし…」

悲しそうな表情を見せる結にふみは、「大丈夫だ」と結を安心させる様に言った。


「月人を倒し、他の宝石達も救い出す。それに結を月人に壊させたりしない。

必ずしも私が貴様を守ってやる」


“相棒だからな”


真っ直ぐ前を向きながらそう言ったふみに錵花は目を丸くさせ、結は顔を赤くさせると「あぁぁぁぁぁぁっ‼︎」と頬を押さえ叫び始めた。

「ふ、ふみちゃんがイケメン過ぎますぅぅ‼︎」
「‼︎⁉︎」
「錵花気にするな、いつもの発作みたいなものだ」

突然の結の行動に驚く錵花に飽きれた顔をしながらふみは言った。

「うぅっ…、ふみちゃんが男の子だったら絶対好きになってました…今も好きですけどね」
「はいはい、分かった」
「本当ですからね⁉︎ふみちゃんが男の子なら結婚してましたから‼︎‼︎」
「一応、宝石だから性別は無いぞ?」
「んんっ⁉︎なら、ふみちゃんとも結婚出来る…」
「私はする気が無いがな」
「ひ、酷い‼︎でも好きです‼︎」

嬉しそうにふみに笑顔で話す結に呆れながらも何処か優しげに話すふみを見て、
家族であり、兄弟であり、姉妹であり。そして“相棒”と言う言葉と絆で結ばれたふみと結が錵花にとってキラキラと眩しく見えた。

『錵花』

そんな事を考えていると突然呼ばれた自身の名に錵花は、ハッとした表情を見せると「どうしたのだ?カーボナード」と問いかけ、ふみは錵花の顔を見つめるとポンッと錵花の頭を数回撫でた。

「不安か?」

そう尋ねるふみに錵花は、きょとんとした表情を見せると笑みを浮かべた。


「ふふん。この私に不安など無いのだ。
私の勇姿をしかと見ておれ。カーボナード」

初めて戦場に出ると言うのに自信満々な錵花にふみは唯、『そうか』と呟いた。


錵花がふみや結や他の宝石達の様に共に肩を並べたがっているのをふみは知っていた。
いつも、ふみや結の背中を見送るだけで自分は置いてけぼりで、戦い傷つきながら拠点に帰ってくる他の宝石達を見ている事しか出来ないもどかしさが錵花の心には積もっていた。
其れは、錵花が最年少であり、みんなの可愛い末っ子でもあった為に他の宝石達も戦場に錵花を連れて行く事を良しとしていなかった所為でもある。

そんな中、錵花を“次の機会に戦場に連れて行く”と言い出したのは教育係のふみであった。

ふみは錵花のもどかしさに気づいていたのか他の宝石達の反対を聞き入れる事なく、宝石達の長である夏目先生に直談判しに行き「そう思うならさせてみろ」と言うお言葉と許可を頂いた。

その後、少しばかり結に「私の判断は早かっただろうか…?」と相談したが結はただ笑顔で「大丈夫です。錵花ちゃんは強いから。其れに…そうした方が良いと思ったのでしょう?」と言ってくれた事がふみにとっては何よりも救いであった。

ふみにとっては結も錵花も他の宝石達も大切な家族であった。

守れるものなら守りたい。

だが、自分の手が届く範囲には限界がある。

だからこそ、自分が居なくても大切な相棒の支えになってくれる様に…。

大切な末っ子の手を引っ張ってくれる様に…。


でも、自分がいる今は…まだ…


そう願いを込めてふみは、二人の名を呼んだ。


「結」
「はい」
「錵花」
「おっ?」

振り向く二人にふみは、前を見据えながら言った。

「貴様等は、私が守ってやる。絶対に」

そう言うと錵花と結は、顔を見合わせて微笑んだ。


“近い未来…とある月人に私が壊されてしまう迄、絶対”

ふみの小さな呟きは微笑む他の二人には届かず、風に消えた。




おわり