もちみに×人魚終焉(神樂様のお子様)


此処は、泣く子も黙る武装探偵社

その武装探偵社の事務所の日の光が当たる窓際…
そこには不釣り合いな巨大な水槽が存在を主張する様に置かれており、日の光が水槽を照らしキラキラと輝く水の中に人では無いものが沈んでいた。

黒髪に透き通る様な白い肌…上半身だけを見れば美しい少女の姿なのだが、“人では無いもの”と呼ばれた理由は、その少女の下半身にあった。
通常の人には無い、七色に輝く鱗を纏った魚の尾鰭を持っており、バタバタと動かしている事から少女が水中に生息すると考えられた伝説上の生物・人魚であると言う事が分かった。

人魚の名前は・終焉おわり

不思議生物でありながら武装探偵社の立派な社員である。

本日も朝からゆらゆらと探偵社に設置された水槽で寛いでいた終焉であったがここ数日、少し困った事が起きていた。

「………」じーっ
「………」じーっ
「………」
「…………」じーっ
「…………」じーっ
「……………」

それは終焉と同じく人では無い…不思議生物の存在が原因であった。

遡るところ一週間前、元ポートマフィアでありリストラ後、現在探偵社が入っているビルの一階にある喫茶・うずまきで働く芥川ふみ(武装探偵社社員・中島敦の恋人)が一匹の泥んこ塗れの丸いフォルムをした敦に似た不思議な生き物を拾った事から始まった。
その敦似の不思議な生き物は探偵社社員である太宰治に“もちもちと丸い敦くん似の生き物…よし!名前は、もちあつくんにしよう‼︎と言われ、その不思議生物は「もちあつ」と名付けられた。

終焉もその場に居た為、もちあつの存在は知っており、また、もちあつも同じく一般人からすれば不思議生物である人魚・終焉の事を最初は驚いて居たものの、キラキラと目を輝かせると終焉のいる水槽を観察する様にうろうろぐるぐると行ったり来たりしていた。

それがもちあつと終焉の出会いであり、不思議生物同士であった終焉ともちあつは直ぐに仲良くなったのであった。

そして、その四日後、敦とふみ…そしてもちあつはドヤ顔で自身の背に自分とは違う小さい不思議生物を乗せて武装探偵社へと出社して来た。

その小さな不思議生物の名は、みにふみ

敦の恋人であるふみとそっくりであった為に敦がそう名付けたのであった。
もちあつと同じく本人は話ているつもりなのだが周りからは「ちーちー」と言う鳴き声にしか聞こえず、その小ささと愛らしさと突然の行動力などから瞬く間にもちあつとみにふみは探偵社の中で小さな癒し系アイドルとなって行った。
そんなみにふみであったが終焉との初対面の際、水槽の中にいる終焉を見て「ち⁉︎」と声を上げて以来、終焉は、みにふみと接触していなかった。

それは、何故かと言うとみにふみ自体が近づいて来ないからであった。

特に初対面で終焉が何かをした覚えは無く、唯、みにふみとの自己紹介の際にその小ささと可愛らしさにニコッと微笑んだだけだった。
それなのに何故かじーっと物陰から視線は感じるのに近づいて来ないみにふみとみにふみの行動を真似する様に同じくじーっと見つめるもちあつに終焉は困った様な表情を見せると水槽の近くに居た国木田を呼ぶ様に水槽をコンコンと叩いた。

「ん?どうした、終焉」

国木田は終焉が自身を呼んでいる事に気がつくと水槽に近づき、終焉に話しかけ、終焉は水槽の隅に置いてた水中での会話用のホワイトボードとマーカーを手に取ると何かを書き始め、国木田は終焉が書き終えるまでの間、静かに見守っていた。
数秒後、書き終えた終焉はペンの蓋をキュッと閉めると文字を書いたホワイトボードを国木田へと見せた。

【みにふみちゃんが近づいて来ないんですが…私、何かしちゃいましたか?】

眉を八の字にしながら困った様に苦笑いする終焉に国木田は物陰から此方をじーっと見るみにふみと真似っこをするもちあつにちらりと視線を向けると「嫌、特に何もしてないと思うが…」と答えた。

国木田の言葉に終焉は更に困った顔をすると先程のホワイトボードの文字を消し、会話を続ける様に文字を書いた。

【仲良くしたいのに…少し悲しいです】

ホワイトボードで口元を隠す様にして文字を見せる終焉に国木田は少し考える素振りを見せると未だに物陰から此方を見つめる不思議生物の元へと歩み寄った。

突然近づいて来た国木田にみにふみともちあつは驚いた様にきょとんとした表情を見せた後、二匹は慌てて逃げようとした所を国木田にひょいっと子猫を捕まえる様にして首根っこを摘まれ、二匹はあっという間に捕まってしまった。

「ぢぃぃぃっ‼︎」ふんすふんすっ
「うーっ‼︎」おろおろ

降ろせと言う様に怒るみにふみと突然の事におろおろするもちあつを捕まえた国木田はズンズンと終焉の元に戻り、終焉の水槽の隣に置いてある机の上に二匹をゆっくりと優しく降ろした。

二匹は国木田に「ゔー‼︎」「ぢー‼︎」と苦情を言ったのだが、みにふみは水槽の中にいる終焉とバチッと目が合うと「ち⁉︎」と声を上げ、慌てた様にもちあつのもちもちボディに顔をぼふんっと埋め、隠してしまった。

その突然の行動に国木田は驚き、もちあつは心配そうに「うー?」と鳴いた。

みにふみの突飛な行動に驚きながらも国木田は、ふっと終焉に視線を向けると其処には水槽越しにみにふみを見て悲しそうな表情を浮かべる終焉がおり、終焉の表情に眉を顰めると国木田は興奮したように ふすっーふすっーと鼻息を荒くさせながら頬を赤く染めるもちあつのもちもちボディにぐりぐりと顔を押し付けているみにふみに問い掛けた。

「みにふみ。何故、お前は終焉と視線を合わせようとしないのだ」

“終焉がお前に何かしたか?”

国木田がみにふみにそう問い掛けるとみにふみは勢い良く顔を上げると小さな頭が飛んでしまうのではないかと言う程、首を横にぶんぶん‼︎と振った。

「なら、何故、終焉に近づこうとせず、遠目から見つめるんだ?」

再び国木田が問い掛けるとみにふみは視線を右往左往させた後、ちらりと終焉の居る水槽に視線を向け、またしても終焉と目が合い、みにふみは終焉と合っていた目線を逸らす様に少し下を見つめると再びもちあつのもちもちボディに顔を埋めた。

「コラッ‼︎聞いとるのか‼︎」

国木田が声を荒げるがみにふみは、もちあつのもちもちボディに顔を埋めたまま返事をせず、国木田と終焉がこの状況をどうしようかとお互いに顔を見合わせた時であった。

「うー?」

もちあつの鳴き声が聞こえてきた。

国木田と終焉は、もちあつに視線を向けると自身のもちもちボディに顔を埋めるみにふみに声を掛けている様であった。

「うーっうー?」
「…ちぃ…ちー」

もちあつの言葉に対して小さくだがみにふみが応える様に鳴くとみにふみは、もちあつの魅惑のもちボディからむくりと顔を上げた。

「うー!」

顔を上げたみにふみの小さな手を撫でるとみにふみは、恐る恐る国木田と終焉の方へと顔を向けたが終焉と目が合うとまた、ちらりと目を逸らし、後ろで小さな手を組むともじもじとし始めたのだが、先程とは違い、目線は合わないが顔をもちボディに埋めていない為、国木田と終焉にはみにふみの表情が良く見え、そのみにふみの表情を見た二人は驚いた様に目を見開いた。


二人の見つめる先には、ちらちらと終焉を見ては頬を紅く染めるみにふみが其処には居たのであった。


「ちーっ…ち、ちぃーっ‼︎」

もじもじとしながら意を決したと言う様に顔を上げるとみにふみは何かを訴える様に鳴き出したのだが二人には、みにふみが何を言っているのかが分からず、みにふみの隣に居たもちあつだけがうんうんと満足そうに頷いていた。

国木田はハッと我に返ると一生懸命鳴くみにふみに「待て待て待て‼︎」と待ったをかけ、止めた。

「ぢー‼︎」

“なぜとめる‼︎”と言う様に怒るみにふみに国木田は溜息を吐きながら「貴様の言葉は悪いが俺達には理解出来ん。いつもの様に紙に書いてくれ」と近くの机にあったメモ用紙と鉛筆を手に取り、みにふみに手渡すと平仮名だが文字が書けるみにふみは自身より大きな鉛筆を一生懸命使いながらメモ帳にゆっくりと自身の言いたい事を書いた。

数十秒後、書き終えたみにふみはメモをびりっと破ると再びもじもじしながら自身の口元を隠す様に国木田と終焉にメモを掲げて見せた。


【じんめんぎょさん きらきらきれい まぶしくてみれない】


“いっちゃった、いっちゃった‼︎きゃー‼︎”と言う様に顔を真っ赤にさせて手に持ったメモに顔を埋めるみにふみに隣に居たもちあつは、ふすー‼︎ふすー‼︎と興奮した様に鼻息を荒くさせて、ハートを飛ばしながらみにふみの周りをうろうろと走り回っていた。

そんな不思議生物を横目に国木田と終焉は、みにふみの書いたメモに驚いた様に目を見開いたままお互いに顔を見合わせると再び、顔を真っ赤にして恥ずかしがってるみにふみに視線を向けた。

「みにふみ…まさか貴様…終焉と目を合わせるのが恥ずかしくて近づかなかったのか?」

国木田が恐る恐る尋ねるとみにふみは首をぶんぶんっと取れるんじゃないかと言う程、縦に振った。

「ちー」
【わたし、およげないからうらやましい】

【きらきらひらひら】

【じんめんぎょさんきれい めがあうとはずかしくなる】

そう言ってちらりと終焉を見ては、きゃーっと顔を両手で隠すみにふみに終焉は自身が嫌われて居るのでは無いと分かると安心した様に胸を撫で下ろした。
ホッとした様な表情になった終焉を横目で見ながら国木田もみにふみの行動に対して納得した様に小さく溜息を吐くとみにふみの頭を指で撫でながら言った。

「終焉は人面魚では無く、人魚だぞ」
「ぢ⁉︎」

みにふみは人魚と人面魚の違いがよく分かっていなかった。

終焉は国木田とみにふみのやり取りにクスッと笑うと水槽からザバッと上半身を出すと水に濡れた指でみにふみの赤く染まったぷにぷにの頬をつんつんと突くとにこっと微笑んだ。

みにふみは自身の頬を突く終焉の手を小さな手できゅっと握ると頬を赤く染めたまま、ふにゃりと笑いながら「ちー」と鳴いた。


この騒動?の後、みにふみは終焉との距離を縮めるかの様に次の日から積極的に終焉の元を訪れては終焉の周りをうろうろとする様になった。

ある時は、もちあつに跨りながら玩具の釣り竿(国木田のお仕事をお手伝いした報酬に買ってもらった)を片手に終焉の水槽の前に現れては餌(社長から拝借した煮干し)を括り付けた釣り竿の糸を終焉の水槽に投げ入れては、キラキラと目を輝かせながら終焉が釣れるのを待っていたり…(終焉が掛かった振りをしてあげた)

釣れた獲物(終焉)に喜び、何処からか墨と半紙を拝借して来たかと思うと突然…

「うー‼︎(えものつれました‼︎)」
「ちー‼︎(ぎょたく、とる‼︎)」

魚拓を取るんだ‼︎と意気込み始め、墨を擦り始めた二匹を慌てて止める国木田と言う光景が見られ、
またある時は、ヒラヒラと水槽の中に居る終焉を二匹は、大人しく見つめていたかと思うとみにふみが何かを思い付いた様に「ちー‼︎」ともちあつに話し掛ける様に鳴くともちあつも「うー‼︎」みにふみに応える様に鳴き、二匹は事務室の角にある棚の中(二匹の玩具置き場)から、これまた国木田のお仕事をお手伝いした報酬に買ってもらった金平糖の付きだったミニ鯉のぼりを探し出し持って現れたかと思いきや、鯉のぼりを棒から外し下半身に履いては人魚である終焉に「にんぎょさん‼︎にんぎょさん‼︎」「おそろい‼︎おそろい‼︎」と言う様にドヤ顔を見せ、きゃっきゃっと喜んでいた。

だが、その後、人魚に成りきってしまったみにふみが「わたしは、にんぎょ。およげる‼︎」と本家ふみと同じくカナヅチなのに終焉の居る大きな水槽に飛び込んでしまい、溺れ、慌てて終焉が助けると言う事態も起きた。


そんなこんなで、人魚終焉と不思議生物二匹は今日も楽しく過ごして行くのであった。


―――-終わり――――