寺子屋から帰る帰り道。
いつも追いかけてくる、白髪天パ。

女の子の友達と別れて、1人になるといつも後ろにいるの。
いや、最初から後ろにいるんだけど。



「…どうして、いつもいつもっ!」

あたしはついに、3日目にして我慢の限界を迎えた。
言いながら振り返ると、そいつはきょとんとしていた。
というよりは、怠そうな顔をしていた。

「お前、なんで怒ってんの?」
「は、…はァ?なんでって…アンタが、いつも付けて来るから!」
「ハァ?変な言いがかりつけてんじゃねーよ。俺の帰り道なんですけどォ。」
「え。あたしもこっち…。」
「俺もこっち!」

可笑しな空気。
時々、木枯らしが吹く冬の初め。

そいつと会った。
初めてじゃなかったけど。
何回か見たことはあった。
白髪だし、天パだし。
そりゃもう寺子屋ではダントツで目に付いた。
いつも怠そうな目をしてて、居眠りはするわ、授業はまともに聞いてないわ。
でも、自然とそいつの周りには人が集まってた。

かく言うあたしも、その一人だったのかもしれない。
だって、いつも目で追っていたし、授業中も居眠りしているところまでしっかり見ていたんだもの。

けれど、こうやって面と向かって話すのは初めてだった。

「名前は?」

歯をカチカチ鳴らしながら、白髪天パが口を開く。
帰る方向が同じだと分かってから、別々に帰るのはさすがに気まずいので、一緒に帰ることになった。
どちらからともなく、自然に。
だけどやっぱり気まずい。
そう思っていた矢先の彼の一言目だったからなんだか神の救いのような暖かさを感じた。
大袈裟かもしれないけれど、人見知りのあたしにとっては、それくらいの有難さがある。

「名前。」

天パにつられてあたしの歯も小刻みに音を立てた。
顔はできるだけ、不自然にならないように微笑んだつもり。

「名前か。俺は坂田…」
「銀時。」
「俺のこと知ってんの?」
「うん。知ってたよ。白髪で天パだもの。有名だよ?」
「え、マジで?俺ってそんな有名なの?」

銀時は、目をキラキラさせて此方を見てくる。
単純というか、純粋というか。
こんな些細なことで、いつもの気怠げな目がキラキラ輝くことが、可笑しくて嬉しい。

「うん。居眠りばっかりしてるって有名。」
「何だよそれ。悪い方の有名かよ。」

今度は不貞腐れる。
少しだけほっぺを膨らませて、残念そうに下を向いた。
またまた可笑しくて、つい笑ってしまった。

「うん。でも、銀時悪い子じゃないよね。」
「え、何?名前、なんか欲しいの?褒めても何も出ねーからな。おにぎりの米粒一つもくれてやらないからねー」
「え?銀時ってそんな心小っちゃいの?」


銀時曰く、『男の大きさはこんなもんで決まらねー』のだそうだ。
あたしたちは、笑った。
それはもう、盛大に笑った。
通りがかった雄犬が吠えて、そいつを散歩させていたおばあさんが驚いて腰を抜かしていた。
それくらい、盛大に笑い合った。
もしかすると、生まれて初めて大声で笑ったかもしれない。

不思議だ。
心が温かい。
空気は凍るように冷たいのに。
本当に不思議だ。

突然、北風があたしたちの間をびゅんっと通り抜けてゆく。
首に巻いたマフラーが飛んでいってしまいそうで、あたしは必死に身体を丸めた。
隣では同じように天パが猫背になっていた。

「早く、春にならないかな?」
「あ? バカおめぇ、これからが冬本番だぞ。春なんかまだまだ先だって。」
「ふふっ。そうだね。これからだね。」


北風に吹かれて、木の葉がカサカサ揺れている。
今でさえ、こんなに寒いのに、これからさらに寒くなるのだろうか。
しっかり厚着をしてマフラーも巻いているのに、これ以上何を着込めばいいか到底分からない。
分からないけれど、隣の天パがいれば、何だか冬を乗り越えられるような気がするのだ。
何故だろう。
不思議だ。
理由は、分からない。


「また明日ね。」


鼻くらいまでマフラーを深く被り込んで、あたしはいつもの家路を早足で歩いた。



冬に恋して



2015/12/25
メリークリスマス!
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寺子屋時代の銀さんとヒロイン。
恋の始まり、的な。


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