だらしなくて、ぼーっとしてて、やる気なさそうで、髪の毛はくるくるだし、おまけにケチで貧乏臭い。
そんな貴方に、あたしは惚れています。
誰に何を言われようが、これだけは変えられない真実です。

だから、きっとこの腫れた目も貴方のせいです。



腫れた目


「そうですよね。」
「何が?」

「この目を見てください。」
「なんで?」

「いいから。」
「ヤダね。」

「あ、もうパフェ奢ってあげない」
「どれ。見せてみなさい。」



ほら。
ご想像通りのダメ男でしょ。

「ん。で?何か買ってほしい、とか?」

いやいやいや。
よく見てくださいよ。

よく開かない目を頑張ってアピールする、バカな男に惚れたバカなあたし。
よく見てくださいってば。

「モノが欲しいんじゃないんですぅ」
「じゃあ何が欲しいわけ?」

「え…。銀さん?」
「え、俺?誘ってんの?名前ってばヤラシー」

「違うわバカ!今のはあたしの渾身のボケですぅー」
「バカとか結構傷つくんですけどー。」

勝手に傷ついていればいい。
あたしがどうしてこんなに目を腫らしてるのか知りもしないくせに。
そもそも、目が腫れてることにも気づいちゃくれない。
そんな貴方は、勝手に傷ついていればいいんです。


「…銀さん、あのね。」

今まで幾ら、この文言を口から溢したかしれない。

万事屋のリビングに、貴方とあたしの二人だけ。

いつも騒がしい神楽と新八と定春が居ないと、万事屋は急に色を変えてしまう。
最近はもっぱらこの色。

苦手。
あたしはこの万事屋が苦手。

息苦しい。
貴方と二人だけになるのが嫌。

ついこの間までは、こんなことなかったのに。


「…そろそろ帰ります。」


この文言も今まで幾ら口から溢してきただろう。

「あ?もう帰んの?」
「あ、ケーキ。ご馳走様でした。」

あたしは足早に廊下に出る。
貴方の顔を見るのが怖くて。

「いや、いつも貰ってばっかだから、それはいいんだけどよ。」
「ん?なんですか?」

貴方の隣に並べた下駄。
いつだったか、貴方が可愛いと言ってくれた朱色の緒に指を入れる。
あたしには少しばかり大人っぽい朱色は、貴方の黒のブーツの隣によく合っている気がした。

「…その、本当に帰んの?」
「どうしてですか?」
「いや、あれだ、別に引き留めてるわけじゃねーんだけど…」
「早く言ってください。あたし、帰って洗濯物取り入れないと…」


「何か、言いたいことがあるんじゃねェの?」


図星。
だけど、肩もぴくりと動かさないように細心の注意を払った。
顔ももう貴方を見ないようにする。
今日は少しばかり調子に乗りました。
バカとか言ってごめんなさい。
今日も本当に伝えたいことは言えそうにありません。

貴方の隣にはあたしより、朱色が似合うもう少し大人っぽい女性がきっとお似合い。
そう思ってしまうから。

「銀さんって…意外とモテますもんね!」
「は?何いきなり。てかそれ…こっち見て言ってくんね?」
「どうしてですか?」
「名前の目が見たいの。」
「っ、昼から雨の予報らしいんで早く帰らないと。今朝のニュースで結野アナが言ってましたよ、銀さん知ってました?」
「知らねー。」
「ほらぁ外曇ってません?洗濯物早く取り入れない、とっ…!」

急に右手首を掴まれた。
クイッと引っ張られて、自然の摂理に逆らえず、そのままあたしは180度くるりと回転。

「ぎっ、…」
「女の子が目ェ腫らすもんじゃありません。」
「ぎっ、ぎぎぎ銀さん、かっ、かか顔っ…!」
「ちゃーんと、冷やしたか?あと、枕に顔押し付けたりすんじゃねェぞ?これからは、泣き止んでから寝るよーに。」

分かった?

そう念押しされる。
顔を覗き込んでそんなこと言われたら、『はい』と言うしかなくなる。
今日はもう、貴方の顔を見ないで帰ろうと思っていたのに。
見てしまったばかりか、唐突な至近距離の顔面にあたしはもうノックアウト寸前です。
振り絞って声に出した『はい』は、蚊の羽ばたきのようにか細く小さくて自分でも驚いてしまう。

「聞こえねェ。もっかい。」
「っ、はい…」


いつだってそう。
優しい顔をして、あたしを騙して。
ダメ男のくせに、デキる男みたいに。
分かってるのに、でも、やっぱり心臓はバクバク言うし、顔は熱いし、身体は固まっちゃって動かない。

「…目腫れてるの、気づいてたんですか?いつからですか?」
「そんなもん、最初からに決まってんだろーがよォ。全部お見通しだコノヤロー。」
「じ、じゃあ、どうして…!どうして言ってくれなかったんですか!あたしが必死になって、その、あのっ、あたしはっ、そのっ…」
「名前泣かせたのって俺?」

至近距離で貴方を見てると、とろりと蕩けてしまいそうで。
優しい中に哀しさがない混ぜになった顔で見つめられると、今度こそ何も言えなくなる。

口籠ったあたしを見かねたからか、どうでもよくなったのか、貴方は一人、踵を返して廊下を進み始めた。
もしかしたら、そうすれば、あたしが引き留めるとでも思ったんだろうか。

生憎、あたしは声も出せない。
身体も動かない。
唯一、左の人差し指がぴくりと痙攣したように動いただけ。


「ちょっと待ってろ。」
「…、」

捨て台詞を残して、貴方はリビングへと姿を消した。
あたしは廊下の先のリビングの扉を只々じっと見つめて、只々貴方が戻ってくるのを待った。

実際は、動こうにも何もすることができなくて、声を出すこともできなくて、さらには考えることすら止めてしまった。
脳ミソが思考停止状態だった。


ガサガサ、ゴトゴト…ドンッ

音が鳴り止んだかと思えば、ペタペタと足音が近づいてきた。


ペタッ…。


貴方の手には長方形の白い箱が握られていた。
ぼりぼりと後ろ頭を掻きながら、片手でぶっきら棒に差し出されるそれを手に取る。

「こないだ珍しく仕事で金が入ったもんでよ…」

箱を開ければ、下駄の緒と同じ色合いの簪が光っていた。

「これ、あたしにくれるの?」
「そのために買ったんだけど、まあアレだ。いらねェってんなら、他のやつにやるから別に無理に貰ってもらわなくても…」
「も、貰います…!」

貴方がほんのり赤く染まった頬を、ぽりぽり掻きながら、はにかむ。
これは、俗に言う何だろう。

幸せ?

ちょっと違う。
何とも言い表しがたい気分。
朱色はあたしには少し大人っぽくて、これをわざと選んできた本人をちらりと見遣ってはあたしは苦笑を漏らす。
まだまだ朱色が似合う大人な女性にはなれそうもないけれど、あたしはあたしらしく、貴方の側に居たいと思った。



「銀さん、ありがとうございます。パフェ…今から食べに行きませんか?」




2016/3/3
お雛祭りですね。
うん。なんか、玄関でのお話多いな(笑)
もっとアットホームな話書きたい。


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