寝て見る夢っていうのは、どうしてこうもデタラメなのか。
記憶を大きくて綺麗な布だとすると、夢ってのはよく切れないハサミを使って布を切り、その乱雑な布切れを下手クソな奴がセンスも無しに縫い合わせた、という感じだ。よって、その夢に一喜一憂するのは何だかアホくさい。
それに、実際に起こった出来ごとではないので、夢なんかすぐ忘れてしまう。
人間の身体って
よくできてるんです
「・・・名前・・・名前。・・・名前・・・!」
目を覚ますといつもの布団の中で、あたしは安堵のため息を零す。
心なしか息も乱れている。
身体を捻らせて、頭上に置いてある目覚まし時計を見れば、短針がもうすぐ4を指すところだった。
「ん・・・寒ィ・・・」
もぞもぞもぞ。
隣で眠っているはずだった彼は、あたしのせいで少し目を覚ましてしまったらしい。なんと、あたしの布団に滑り込んで来た。
「ちょ、銀ちゃ」
言い終わる前に、布団から布団の移動は終わっていて、さらに言えば身体をがっちりとホールドされてしまった。
「ホント寒がりなんだから・・・」
悪態を吐いてみたけれど、嫌な気はしない。ただ、このまま眠ってもらわれては何だか癪だ。
あたしはこんな時間に目を覚ましてしまってもう寝れないだろうに。目の前でぐうぐう眠られては困る。
「銀ちゃん。ねえねえ。」
「んんー。今何時だと思ってんだよ。」
「今何時だと思う?」
「知らねェ。3時。」
「残念。正解は4時でしたぁ〜」
「何だよォーもう。3時でも4時でもどうでもいいんだよ。眠いんだってば。眠いことに変わりねェの。」
そう言えば、今日は仕事だと言ってたかしら。そのくせ、布団に入るのも遅かったのに。眠いだなんて。
万事屋という世間から見れば胡散臭い仕事をしている彼には、珍しく舞い込んで来た仕事なのに。
「なんで、名前は起きてんの。」
「なんで、って目が覚めちゃったんだもん。しょうがないでしょ。」
「目瞑ってればまた寝れるって。ほら、愛しの銀さんが抱きしめてやってんだろ。」
「抱きしめるってゆーか、抱きつく、ね。あ、そうだ。なんか夢を見てたかも。」
「あ?夢?なんの?」
「んーと、誰かに名前を呼ばれてた・・・。優しい感じじゃなくて、何だか切羽詰まってる感じで。それでもって何だか怖くて・・」
「名前。ぎゅっ、てしてみ。」
「えっ?どうして?」
「いいから。」
そう言うと彼は、あたしをホールドしていた腕を緩めた。そうして、あたしからの抱擁を求めてくる。彼の考えていることは酷く分かりにくい。ふらふらとふわふわとしていて、掴み所がない。あたしは一瞬躊躇ったけれど、見上げた彼の顔が優しくて、安心しきって彼に抱きついた。
「ぎゅ。」
「何それ。ぎゅってしながら、ぎゅって言うとか反則だろ。」
「銀ちゃん、好き。」
「それも反則ー。あーあ今日仕事じゃなかったらなー。」
「何よう。いやらしい事考えてる銀ちゃんは嫌い。」
「オイ極端すぎだろ。まあ名前のそういう所も好きだけどね。」
背中に回した腕に力を込めると、彼もぎゅって抱きしめてくれた。
背中の筋肉も、顔に当たる胸板も、匂いも、上から降ってくる声も、全部が全部、あたしを落ち着かせてくれる。
「大好きだよ、銀ちゃん。」
「んだよォ、名前ってば俺を悶絶死させようとしてんの?」
「怖いのどっかいった。」
「それは良かった。じゃ、そろそろ寝かせろ。」
「んんんー。銀ちゃん、あたしも眠たくなってきた。」
「おーい、数時間後にちゃんと起こしてね。分かってる?名前のせいでこんな明け方に目覚めちまったんだぞ。」
「あーい・・・」
目覚ましもセットしているし、起きれなかったら、起きれなかった時だ。あたしは、何だかもうどうでもよくなって、彼の胸に顔を埋めた。
とても心地良くて、ついうとうとしてしまって、ふと、何の夢を見てたっけという疑問が一瞬頭をよぎるけれど、すぐにどうでもよくなった。
怖い夢なんか、ほら、簡単に忘れてしまうでしょ。
ぎゅっ、てしがみつきながら「おやすみ」と呟いたら、とっても下手な山びこみたいに、やや間を置いて愛しい彼の声が返ってきた。
2017.2.6