お仕事はお休み。
1日ダラダラしてたら、買わなきゃいけないものがあるのを忘れていた。
一生の不覚…!
ああ、焦るな。
靴下履けない。

忘れていたものは大切なこと


売り切れてないだろうか。
銀ちゃんに怒られるかな。
てか、そんなに自分が欲しいなら自分で買えばいいのに。

名前は万事屋でゴロゴロ昼寝をしていた。
そこへ何かが舞い降りて来たかのようにパッと思い出したのだ。
今日が月曜日であることを。
今日がジャンプの発売日であることを。
あの厚さ4cmはあるだろう分厚い雑誌を、銀時と週替わりで交代で買いに行く決まりになっていて、今週は銀時の番なのだがどうにも『大事な仕事があってそれどころじゃねぇから』ということで、名前が買うことになっていた。

別にあたしは銀ちゃんが買ってきたのをちらっと見せてもらうだけだし。
別にどうしても欲しいとかじゃないし。
銀ちゃんが欲しいから仕方なくってだけだし。

と、思いつつ、足早に万事屋の玄関を出る。


そういや、今日は銀ちゃん何の仕事に行ったんだっけ?
確か真選組絡みだった気が。
また怪我とかしてなきゃいいけど……。
どこで何と戦っているのか、全くわからぬ彼への心配事が浮かぶ。
一度不安になれば最悪のシナリオばかりが想像される。
負のループが襲いかかる。
ダメだ。ダメだ。
ブンブンと頭を振って、負のループを無理やり断ち切る。



「なァにしてんの。ちゃんと前見て歩けって、危ないから。」
「わあ!すみません!」

こないだも言ったよな、と頭をガシガシ掻きながらぶつかった主は怠そうに話す。

「あ…………。」

彼女が『銀ちゃん』と呼び慕う天パ侍であった。

「銀ちゃん…………。」
「何泣きそうな顔してんの?お前」

銀時の左腕には、包帯がぐるぐると巻かれていた。


「何?俺のせい?」
「違うよ。これは目に虫が入って……。」
「どんなけ鈍臭いんですかー。それとも何?虫入ったのは嘘で、破廉恥な色仕掛けでもしてるつもりですかコノヤロー」
「は?どういう思考回路したらそんな妄想できるわけ?銀ちゃんのくるくる天パ脳みそ解剖してみたいよ。」
「バカヤロー。天パは髪の毛。脳みそはちゃんと……あ。脳みそはくしゃくしゃか。ストレートだったら怖いわな。」
「そういう意味で言ったんじゃないんですけど。」

銀時は、名前の頭をぽんぽんと叩いた。
包帯と逆の方で。
涙腺崩壊3秒前。
名前は必死に涙を堪え、鼻を啜る。


「銀ちゃん。パフェ食べたい。」
「俺も。」

初めて銀時と食べたのもパフェだったっけ、と思い返す。
2人とも甘いもの、特にパフェが大好きなのだ。
名前の提案に乗った銀時は、包帯と逆の方で名前の左手を握った。
名前はそれを握り返す。
ぎゅっと、ぎゅっと、強く、強く。


「名前。そういや、アレ買ってくれた?」
「ん?あれって?」
「アレだよ、アレ。」
「アレ?あぁーアレ。あれぇ?あれ、あれぇ?」
「壊れてるふりしてもダメだかんね。買ってねェの?」
「アレ、今からアレしようと思ってアレなの!」
「ホントに壊れちゃってんじゃん!」
「違うよ、冗談冗談。今から買いに行こうと思ってたところ。」


すぐそこに迫ってきていたコンビニを指差して言う名前。
パフェより先にコンビニに入ることにした。

おばちゃんが1人と学生風のお姉さんが1人。
『いらっしゃいませー』という掛け声のようなものを背に、雑誌類が並ぶ棚に向かう。

「銀ちゃん、ある?」
「んー、無い。」
「うう……無いかぁー。」

この時間はもうどこも売り切れなのだろうか。
本屋とか他のコンビニにも行ってみようか、と名前が提案をするが銀時は首を横に振る。

「どして?」

あんなに月曜日はジャンプ!とキラキラした目をしていた銀時が、今日はジャンプを欲していない。

「今日は銀さん疲れてんの。パフェ食って帰ろうぜ。」
「……おかしい。」
「ん?ジャンプくらいいいじゃねーか。」
「くらい、って言ってることが信じられないけどね。でも、銀ちゃんが疲れてるのは言われなくても分かるよ。」

銀時は、歯を見せてニッと笑ってみせる。

2人は結局、コンビニにも本屋にも寄らず、喫茶店でパフェを食べた。
1人1個ずつ。

銀時は疲れてるからジャンプはいらないと言っていたが、本当はきっと今日の仕事で何かあったのだろう、と名前は考えていた。
"何か"が何なのかは分からない。
でも、弱っている銀時を見るのは本当に久しぶりだった。

本能的に我儘は言いたくなかった。
いらないと言うジャンプを無理に買いに行こうと言えなかった。
帰ったら肩揉んで、という日常的なことも言えなかった。

「そろそろ帰ェるか。」
「うん、そうだね。」

パフェを食べ終わってすぐ店を出た。
日は沈んでいた。



「もう暗くなっちゃったね。」
「今日も1日終わりだな。」
「今日は神楽ちゃん、新八くんとこにお泊まりだってさ。だから晩ご飯まだなの。パフェ先に食べちゃったけど晩ご飯食べる?」
「え、神楽今日居ねぇの?じゃあ名前と2人?」
「あ。定春は居るよ。厭らしいこと考えないでよ。今日は疲れてるんでしょ。」
「あ?定春は犬でしょうが。実質2人だし。邪魔者はいないってわけだ。」
「だから、疲れてるんでしょ。その目は何?」

万事屋までの道。
そうやって、銀時の厭らしい目に怯えつつ、しかし銀時が自分と話している時は仕事の嫌なことを忘れているのだろう、と思うと嬉しくなる。
名前は万事屋に着いたら目一杯抱き締めてあげようと心に決めた。

晩ご飯は食べない、ということになった。
銀時がいらない、と言ったのと、名前も1日ダラダラと過ごしていたせいかあまりお腹が減っていなかったからだ。

万事屋に着いてソファに座ると名前は数分前に心に決めた通りにした。

ぎゅっと、ぎゅっと、強く、強く。

手を握った時と同じように。
そうでもしなければ、どこかに消えてしまいそうな気がしたから。
この温もりが。


「銀ちゃんは、素直じゃないね。」
「…………。」

銀時も名前を同じように抱き締め返して、名前の首筋に顔をうずめている。
声は発しないが、落ち着いた呼吸の音が聞こえてくる。

「よしよし。今日だけだからね。明日ジャンプ買ってくるから、朝一で。」
「名前、やべぇ。銀さん、このまま寝れそうだわ。ねえ、いい?このまま名前の温もり感じながら、首筋のいい匂い嗅ぎながら。」
「やぁん、変態。おまわりさぁん。ここに変態がいますよー。弱ったふりして女の子をペロリしちゃう変態がいますよー。」
「誰が変態だコノヤロー。」
「あながち間違ってはいないでしょ?」


すると、銀時はうずめていた顔をガバッと上げて名前の顔を近距離で見つめた後、仕返しとばかりにまた彼女を抱き締めた。


ぎゅっと、ぎゅっと、強く、強く。


辛い時はお互い様。
弱ってる時は抱き締めてあげますよ。



「銀ちゃん。アレ言うの忘れてた。」
「俺も。」

ソファの上で抱き締め合ったまま。
身体中に感じるお互いの体温。
伝わる心臓の鼓動。
何もかもが愛おしい。

同時に息を吸い込んで、吐き出した。




「おかえり。」
「ただいま。」



辛い時はお互い様。
弱ってる時は抱き締めてあげますよ。
泣きたい時は肩をお貸ししましょう。
不安な時はふざけて笑わせてあげる。
どれもこれも素直に言えなくても安心してよ。
気付いてみせるから。
でも万が一気付けなかった時は、その時はごめんね。



ぎゅっと、ぎゅっと、強く、強く。
温もりが消えないように。





2015/7/7
七夕!
お登勢さん、陸奥さんのお誕生日ですね、おめでとうございます(*゚ー゚*)
そんな今日は銀さんとのラブラブ夢UPできました〜
自分にだけ弱いところを見せてくれる相手は大事にしたいものですね。


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