「名前ー!名前ー!どこー?名前ー!!」
「うっさいな!!もう。名前さんならお風呂ですってば。」

時刻は夕方。
ソファでごろごろジャンプを顔に乗っけて寝そべっている銀時は、名前、名前と煩いので、新八は半ばイライラしながらその声に応えていた。
神楽はというと、最近始まったテレビアニメに夢中になって、テレビにしがみつき自分の世界に浸っている。

今日の万事屋はいたって平和である。

「え?お風呂?!」
今までの気怠い雰囲気はどこへ行ったのか、ガバッと勢いよく起き上がり、お風呂場を見遣る銀時。

「新八ィ。俺も風呂入ってくるわ。」
「え!ちょっ、銀さん!?何言ってんですか!だから名前さん入ってるって!ちょっ、ねえ神楽ちゃん、銀さん止めて!!!」

新八は、銀時を慌てて制止しようとしたのだが、晩ご飯用のハンバーグをこねていた手を洗っている隙に、すでに銀時の姿は見えなくなっていた。
神楽に頼みの綱を渡すが、神楽はテレビに夢中で何も耳に入らない様子。
『きゃっほーう!ジョージ最高ネ!!もっとほじくってやれー!そんな女蹴散らしちまえ!!』などと、よく分からないことを叫んでいる。
仕方がないので、新八は適当に手を洗い、荒く拭いて、走ってお風呂場に向かう。
すると、お風呂場では服を脱ぎ出している男がいた。

「いやいや、やること早えな。ダメだって、銀さん、早まっちゃ!名前さんに嫌われちゃいますって!!」
お風呂場にいる名前に聞こえないように、声を潜めてしまう。
銀時もつられて声を抑える。
「あァ?何言ってんだよ、新八ィ。やる事ヤるのが男ってもんだろーが。それに、名前は銀さんに惚れてんの。こんなことくれーで…」




ガサッ。



「「あ。」」
「…え?」

暫くして、夕刻の万事屋に、女性の悲鳴が響いたのは言うまでもない。



男のロマンは女の天敵


悲鳴を出したのは、このあたし。
万事屋の新入り名前である。
だって、お風呂から上がったら男2人が目の前にいるんじゃあ、しょうがないでしょ。
誰だって叫ぶでしょ。
叫ばない方がおかしいでしょ。

「…だって!メガネが見に行けって…」
「言ってない!僕は命かけても言ってないからな!!このクソ天パ!!」
「何言ってんだよ、おめェ。お風呂入ってます、って言われたら見に行けって言われてるよーなもんだろーが。」
「どんなけ都合いいんだよ!!お前の耳はよォ!!」

テレビに夢中だった神楽ちゃんも、どうやらあたしの悲鳴でようやく現実に戻ってきたのか、男2人を睨んで仁王立ちしている。
まったく頼もしいこと山の如し。
よかった。万事屋にこんな頼れる女の子がいてホントよかった。
あたしもその後ろに隠れて2人を睨んでいる。

「グダグダ煩いネ!男は潔さが大事ヨ。名前の裸見たのはどっちアル、正直に答えるヨロシ!!!」
「やだ、神楽ちゃん、声大きいって!そんな大声で裸とか言われても恥ずかしいから…。」

神楽ちゃんが右手人差し指を前に突き出して、左手を腰に添えて、正義の味方の様なポーズをする。
もうすでに服はきっちり着込んだけど、裸とか言われたら、風呂から上がった時のことを思い出して、なんだかむず痒くってこそばゆい。

身体は正直、というやつで、ふと、お腹すいたなーと思って、よくよく考えたらまだ晩ご飯前だったことに気づく。
新八くんのハンバーグ作りは、途中で止まったまま。
神楽ちゃんが見ていたアニメも終わってしまって、テレビからは夕方のニュースが流れている。

「なァ、神楽。名前の裸見たのは悪かったって。謝る!謝るからァ!…もっかい見せ…う¨ぶぇ¨ぇ¨ぇ¨ッ!!!!!!」

銀さんの鳩尾に神楽ちゃんの容赦ない鉄拳が。
うわ、い、痛そう…。

「ふんっ。名前の裸見ていいのはあたしだけアル!!」
「あ、あの、神楽ちゃん…?」
「名前、いいアルか。男はみんな身体目当てヨ。これ覚えとくヨロシ。」
「神楽ちゃん、それ誰に教わったの?」
「昔テレビでやってたヨ!」
「昼ドラでも見たのかな〜?これだから。お昼は一緒に買い物行こうって言ってるのに…。」

収拾がつかない気がしてならないこの現状に、少し逃避したくなって、テレビを見遣れば『今日1日のニュース』が淡々と流れていた。

誰が悪いとか、そんなのどうでもよくて、裸、裸、と騒ぎ立てられている今この時が凄く恥ずかしくてやめて欲しい、と思う。
というか、早く晩ご飯食べよーよ。
お腹すいたよぉぉぉ。

「なぁ。名前はアレだろ?銀さんと一緒に風呂入っても平気だろ?」
「え?」

どっから、そういう話になったんですか?
てか、話ぶっ飛びすぎじゃね?
と心では思ったんだけれど、てか、その前に…

「あの。銀さん?」
「え?」
「あたしたち、まだ会って3日目ですけど…。」

お風呂に一緒に入る仲になってないどころか、初めて会ってからまだ1週間すら経ってない。

「愛は年月じゃあねーんだよ。深さだ、深さ。海より深い愛なら会って1日で風呂一緒に入っても問題ねーんだよ。」
「いや、肝心の愛まだ芽生えてません、ってか今後芽生える気配すらありませんから。」
「え!?何ソレ酷くない!?」
「てか、そもそも愛の深さは1日でそんなに深くなりません。深さはやっぱり年月ですよね?」
「う、……」

未だ、神楽ちゃんの後ろから、盾を構えるようにして銀さんと話す。
テレビのニュースはというと、「人気アイドルに1日密着☆」というあたしの嫌いなよく分からないコーナーが始まっていた。

「神楽ちゃん、落ち着いてよ!銀さんはともかく、僕は銀さんを止めに行っただけであって、名前さんの裸を見たのは不可抗力っていうか。そもそも一瞬だったし、あんまり見えてなかったっていうか…。」
「おいィィィィ!!新八てめぇ!名前の裸とか言うんじゃねーよ!」
「ちょっ!!銀さん、鼻!鼻!鼻血出てますって!!!」
「え??なに??はな、はな、はなぢ??」
「ギャァァァァ!!!!こっち来んなァァァァ!!!」

向こうっ側、男2人の方で、何やら騒ぎが起きている。
かと思えば、銀さんが鼻血を大量噴射していた。
自分ではどうすることも出来ないのか、新八くんに助けを求めているつもりなのだろうが、何しろ、鼻血を大量噴射しながら攻め寄ってくるのだ。
新八くんだってどうすることも出来ないんだろう。

え、うそ。
こっち来るんだけど。
こっち来るんだけどォォ!!


「ギャァァァァ!!!!!!来ないでェェェ!!!!!!」
「うおおおおい!!!!新八てめぇこっち来んじゃねーばかやろぉー!!メガネへし折られてーのかこのやろぉー!!!」
「神楽ちゃん、キャラ崩壊してるから!!新八くん、こっち来ないでぇぇぇー!うべっ!!」

一瞬、視界が真っ暗になる。
再び光が差し込んだ時には、あたし含めみんながだるまのようになっていた。
どうやら、こっちに向かってきた新八くんが転けて神楽ちゃんが倒されて自動的にあたしも倒されて、積み重なってしまったらしい。
言うまでもなくその上には銀さん。
全員の体重の全部が全部あたしに乗っかってるわけではないけど、さすがに重たい。
特に銀さん。

「キャハハハハ!新八潰れてるアル!」
「新八ィ安心しろよ。お前の仇は俺が取ってやるから。」
「誰が死んだってェ!?僕まだ生きてますから!!それ僕の眼鏡ですから!!!」

重たいし、お腹すいたし、新八くんの眼鏡はぶっ潰れてて、ちなみに銀さんの鼻血で血まみれだし。
このとてつもなく、変な感情はなんなんだろ。
あたしがココに来るまで感じたことのないモノ。

平和だなあ。
そう思えばなんだか、今の状況が凄く滑稽で、裸見られたこととかどうでもよくなってしまって。
おかしくて、おかしくて。
気付けば、笑みがこぼれてた。


「あははははははははっ!!」


3人はキョトンとしていたけど、途中から一緒に笑ってくれた。
みんなでだるまになって笑った。
思いっきり笑った。


万事屋は今日も平和です。





2015/7/25
万事屋で、ほのぼの。
ギャグ書くの凄く楽しいなぁ。
万事屋はみんな仲良しで大好きです。
特に銀さん。
いや、でもホントみんな愛してる。(笑)


←BACK

ALICE+