「総悟起きて。」

ぽかぽか陽気の屋根の下。
ふざけた眼が描かれたアイマスク。
いつもの縁側の定位置に彼はいた。
あたしはその真向かいで眉間にしわを寄せて彼を見下ろしていた。


怒られるまで


「ねえ、総悟。起きてるんでしょう。」

今度は立ったまま少しだけ身を屈めて声を掛ける。
彼は横向きに寝転んで寝ている風にしているが、実際は寝ていない。
あたしには、わかる。
だから、無理に大声を出したり、揺すったりする必要はない。

「あーあ。総悟が寝てるんだったらトシのとこでも行って煙草でも貰ってこようかしらー?」


ジャリ。


中庭に敷かれた砂利が鳴る。
あたしは踵を返して来た道を引き返そうとした。
すると、背中の方から低くも高くもない聞き慣れた声が聞こえた。

「おい……。」
「…あれー?寝てたんじゃなかったの?」
「おい、今何つった。土方のヤローのとこだァ?俺が許さねー。」

ふざけた眼が描かれたアイマスク。
それを剥ぎ取って起き上がり、あたしの腕を引っ張る。
あたしは、縁側に座り込んだその胡座の脚の中にすっぽり入る。
いつものように。
あたしと彼は所謂恋人同士という間柄である。
もう随分と昔から。

「今度煙草吸うとかほざきやがったらお仕置きだからな。」
「あれ。煙草の方?トシじゃなくて?」
「お仕置きには触れねーのかィ。土方のとこ行ったら、お仕置きぐれーじゃ済まねェよ。」

後ろから腕を伸ばして、身体をがっちりとホールドする彼。
こうなると、もう暫くはどんなに嫌だと駄々をこねても離してはくれない。
顔はあたしの首に埋められていて、それが妙にこそばゆくて、むずむずする。

「お仕置き以上ってなに?総悟のお仕置きがえげつなくて、それ以上が想像つかないんだけど…。」
「何でィ。昼間っから誘ってんのかィ。これだから名前は目が離せねーんだ。」
「は!?ちがっ、純粋に気になったから聞いてみただけだって」

上司である土方に総悟を呼んで来いと言われ、来てみたはいいものの結局いつもこうやってだらだらしてしまう。
ベタベタしてるのは、いつものことだからその点は気にしないけれど、仕事をサボっている点については煩い上司のことだ。
この状態を見られれば、きっと怒られるに違いない。

と、そう頭の隅にはあるけれど、どうにもこの膝の上が心地良すぎて身体が動くのを拒否している。
暫くこのままで。
出来るなら、怒られるまで…。

「土方に怒られたら、俺に言いなせェ。」
「え?」

心を読まれた。
若干20歳にも満たない彼は、大人びた雰囲気を醸し出して、あたしに巻かれた腕に更に力を込める。
安心感があって、暖かくって、その心地良さにあたしは目を閉じた。

「怒られたら、その時は俺が土方叩っ斬ってやるから、それまでこのままで居させてくれ。」
「ほっこりしてる時にそんな物騒なこと言わないでよ。トシが死んだらあたしも困るんだから殺さないで。」
「何が困るってーんでィ。俺がいりゃいいじゃねーかィ。それともなんだ。そんなに欲深い女だったのか?名前って見た目によらずエロいもんなァ。」
「ハ、ハァ!?エロくないです!しかも何それ。二股してるみたいな言い方!あたしは総悟一筋っ…」

あ。
しまった。
幾度となくこの巧妙な罠に引っ掛かったことだろう。
次こそは引っ掛からないぞ、と思っていてもずぶずぶと知らぬ間に泥沼に脚を引きずり込まれている。
ニヤリと微笑む彼のその口元に吸い込まれる。

「…んっ、…」

後ろにいる彼の口元は、身体を捻らなければ当然見えず、思ったより体制がキツい。
その体制のまま、顔をがっちり抑えられてしまっては、身動きも出来ない。

「……はっ…!…そ、ご…」
「何でィ。このくれィでくたばってもらっちゃ困るなァ。」
「……そろそろ来るからっ。」
「誰が?」

それを言えば、きっと彼は嫉妬する。
そう思ってあたしがわざと名前を出さないでいることを、彼は悟った上で聞いている。
全くもって、厄介な彼氏だ。
こういう場合は、素直に名前を出さない方が身のためだ。
長い付き合いなんだから、それくらいは嫌でも分かる。

「すぐ来てくれるだろうから、大声で呼んでもいいんだけど。だけど、もっと総悟と一緒に居たいから……」

こういう時は、あたしからキスをする。
自分からのキスは未だに慣れなくて、決まってほっぺにするんだけど。
それでも、彼は満足気な顔をしてぎゅってしてくれるから。

「これで、許して…。」

「名前。今晩、覚悟しときなせェ。」





2015/12/17
1万打御礼夢でした。
ありがとうございました。
そして、お待たせいたしました!!
今回総悟くんで甘々というお題でしたが、私にとっては未知なジャンルでしたので、ちゃんと甘々になっているのか分かりません!
できるだけイチャイチャはさせたつもりです!
お許しを…!(笑)

次は2万打目指して頑張りますのでこれからもどうぞ「すずろ心」を応援してやって下さいませ(*^^*)

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