「なんでお前が居やがる。」
土方はお昼の見廻りを終えて屯所に戻ってくるなり、開口一番にそう言った。
対して女は、土方の視線をさして気にもしないでこう言った。
「見せてみなさい。」
女の目線は、土方の目ではなく、少しずれて頭部に向けられていた。
どこぞで聞きつけたのか。
昨日ハデに暴れた代償に頭に包帯をぐるぐる巻いた土方は、呆れ顔で女を睨んだ。
「おい。いきなりなんだってェんだ。お前ェはストーカーか?」
「それはここのゴリラでしょ。」
ここ、とは真選組。
ゴリラ、とは言わずとも知れた真選組の局長。
土方たちのボスである。
そんな彼は、実際、ストーカー行為に日々邁進しているものだから、何分否定はし辛い。
土方は苦虫を噛み潰したような顔で、ストーカー発言を取り消した。
女はそれにとりあえずは満足したようで、ニコニコ微笑んで、また土方の頭部を見た。
触れるか触れないかくらいの所まで手を持っていき、少し躊躇って、それからそっとぐるぐるの包帯を撫で始める。
痛いの痛いの飛んでいけーっ
まるで小さい子をあやすそれのように。
「俺はガキか。」
「まだまだガキでしょ、怪我してくるなんて。しかもこんなハデに。心配したんだから。」
本当に心配そうに眉根を寄せる目の前の女を見ていると、土方は何も言葉を言い返せなくなる。
女の目線は相変わらず、頭部の包帯部分を凝視していて、土方はそれに乗じて女の顔をまじまじと眺めた。
「どこ見てんの?何見てんの?」
「バッ!どこも見てねェよ。」
「はぁ。心配して損した。元気そうだね。よしよし!」
最後の一撫でと言わんばかりに、わしゃわしゃと土方の黒髪を撫で回すと手を引いた。
そんな手を何故かパッと握ってしまったのは、何故か自分でも驚いている顔をした土方で、すぐにその手を離す。
「いや、その・・・!わ、悪ィ。」
「なんで謝ってんの。素直じゃないよね本当。まあトシらしいっちゃらしいけど。こっちから仕掛けなきゃならないこっちの身にもなってよね。」
一瞬だけ握られた手をまた土方の頭部に向けると、女は悪戯っ子のように笑った。
土方もつられて口端を上げると、女と目が合った。
「馬鹿言え。誘ってるの間違いだろォが。」
2017.3.28
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