「総悟くーん?」

あり?
真選組屯所に帰ってきた総悟は、靴を脱ぎながら首を傾げた。
真選組は、男所帯なはずで、女は女中のおばさましか居ないはずで、こんなに若い女は居ないはずである。

居ないはずの女が、歯を見せて怪しげに微笑んでいる。

「おかえりなさーい。」

総悟の訝しむ目を見て、さらにニコニコと楽しげに笑む。

「何考えてるか分かんねェ顔やめてもらえますかィ。」
「おかえりなさい、って言われたらなんて返すの?」
「何考えてるか教えてくれたら、何遍でも言ってやらァ」

総悟がそう言うと、ニコニコしていた顔が急に色を変える。
俯き気味に目を逸らしたかと思えば、その視線は総悟の包帯に巻かれた右手を捉えていた。
総悟は笑って誤魔化そうとしたが、その右手を女に掴まれてしまった。大事なものでも見るように包帯をまじまじと眺めながら、ぽつりぽつりと女は零す。

「怪我したって聞いたから、心配で。怒ってやろうかな、て最初は思ってたんだけど、やっぱり総悟が帰ってきたら、それだけでどうでも良くなっちゃった。」

何考えてるか分からない表情の裏には、とても純粋な総悟を想う気持ちがあったとは、総悟は呆気にとられて女を見つめた。
未だ総悟の右手を取り、俯く表情は見えない。
泣いてるのか。笑ってるのか。
いや、泣いてるか笑ってるか分からねェ顔してるに違いねェや。
総悟は勝手にそう判断して、右手から女の手を剥がし、彼女の顎にその右手を伸ばした。
そうして、顎を上げてやると予想通りの表情が見て取れる。

「馬鹿じゃねェんですかィ。アンタ心配しすぎなんでィ。俺が死ぬわけねーでしょう。」

そう言ってやると、女は少しだけ目を丸くして、それからすぐ安心したように笑った。
総悟はその笑顔に吸い込まれるように、唇にそっと口づけを落とした。

「ただいま。」




2017.3.28



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