今日の天気は雨。

今日一日は止むことは無いと、天気予報のお姉さんが言っていた。
私は、雨を弾く力を失って、雫をたっぷり染み込んだ傘を閉じた。
玄関に上がって薄暗い廊下を進んでゆく。
窓枠の所に、役に立たなかったてるてる坊主が、滑稽にぶら下がったままだった。
湿気を含んで、憂鬱さをより醸し出している気がする。
てるてる坊主って、雨が降って欲しくない時に作るのに、雨と一緒に写っているイメージがあるから不思議だ。
本当は雨の使者だったりして。
なんて、可笑しな妄想を膨らませながら、和室の襖を開ける。
そこには布団が一式。人がひとり寝ていた。


「銀さん、おはよー!」
「……………………」
「銀さん!お!は!よー!」
「……んだよォォ。お前来んの早くね?」
「あははっ!今日は雨だって言ってたから早く来てみた!」
「いや、理由がちょっとよくわかんないんだけど。銀さん、理解できねェんだけど。」

「雨降る前に来たかったんだけど……もう降ってた!あははっ!」


布団を被ったまま、顔だけ出して此方を見上げてくる瞳に、呆れが見えたのは勘違いということにしておく。
銀さんの顔を上から見下ろすようにして立っていると、座れと促された。私はそれに素直に従って、畳の上に正座する。

「今日は髪括ってんだな。」
「んー?うん。雨だからね。ごわごわするの。」
「あー分かるわ。俺も天パが余計にくるくるすっから。ホント嫌んなるよな。」
「あはははっ!ほんとにねー。」

そう言いながら、指で銀さんの髪の毛を弄ると、くるくる指に絡まってくる。
銀色の天然パーマが、今や銀さんのアイデンティティみたいになってて、それを街中で見かけるだけで、私の胸はときめく。
笑っていると、下から見上げる顔も、眠たそうにしながら優しく笑っていた。

もぞもぞ。
布団から手が出てきて、私に伸びてくる。
頬にそれが触れて、それからまた優しく銀さんは微笑んだ。

「なぁ。もうちょい、寝かせて。」
「ええー。まだ寝るの?」
「いいだろ。銀さん、昨日夜中まで頑張って依頼の仕事こなしてたんだよ。」
「え?昨日は仕事が無い、って外でぶらぶら暇そうに歩いてた、って甘味屋の旦那から聞いたよ。」
「げ。俺の行動筒抜けかよ。はいはい。その通りでございます。起きます起きます起きればいいんだろ」
「あはははっ!寝ててもいいよ。」
「あ?なんで?」


「だって、雨だから。外歩きたくないもん。」


布団越しに、銀さんの大きな身体に抱きついた。

今日はずっと貴方とこうしていたい。

だって、雨だから。





2017.11.4
「雨」だから。(銀さん)


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