今日の天気は雨。

鬱陶しいくらいの曇天なのに、お天気お姉さんが、にこにこしながら解説するものだから、もしかして今から晴れるのかと淡い期待を抱いてしまう。


「今日のお天気は、雨でーす!」

テレビの中のお姉さんが、解説を終えて結果を述べる。
私の淡い期待は、一瞬にして崩れ去る。しかも一日中だって。

「まあ、雨でも晴れでもどっちでもいいんだけどさ。ね、総悟。」
「だけど、なんですかィ?」
「……んーと、雨だと隊服が湿気を含んで重たく、」

「姐さん。俺ァ、雨だ晴れだ、天気には左右されねェんで。それに、姐さんみたいにぬかるみに足取られて滑ったりしねーや。」

こいつは。何年か前の私の苦い苦い失態をまだ覚えてるのか。
とことん、精神の奥の深いところを抉ってくる。
俗に言うドエス。
しかし、顔は好青年。年齢は私より年下の未成年ときたもんだ。
世の中というものは、なんというか、やるせない。

私がひとりで勝手に、心の中でしくしく泣いている傍ら、総悟は私のすぐ後ろで横になって寝そべっていた。
天気予報が終わり、コマーシャルに切り替わると、私は180度後ろへくるりと方向を変えて、彼の怠そうな顔を視界に入れる。

「今日の討ち入りは、滑らないように気をつけるね。」
「滑っても構いやせんよ。俺が姐さんを笑ってやりまさァ。」
「えぇ!なにそれ酷い!」
「じゃあ、笑わない方がいいんで?」
「むー。それはそれで嫌だな。ていうか、そういうんじゃなくて助けてくれるとかはないの?」
「何言ってんでィ。それは当たり前のことじゃねェですか。何があっても、姐さんは俺が絶対護りやす。」

ドエスなのに、甘いマスクで照れもせずに、普通に口説き文句を垂れるところが、こいつの恐ろしいところだ。
その恐ろしさに、言った本人は気づいているのかいないのかはさて置き、私の胸は悔しくも少なからず揺れる。
不可抗力で顔を赤くすれば、総悟はニヤリと笑って私の頬に片手を伸ばした。意外とゴツゴツした手が、頬を覆うように優しく触れる。

「総悟……。雨なのに、討ち入りってヤダね。」
「滑って転ぶかもしれねェからですかィ?」

「それもある。……何かあるかもしれないと思って、ちょっとだけ…………怖い。」
「……俺は、姐さんが隣で一緒に走ってくれんなら、何も怖くありやせんぜ。」


総悟のまん丸い目は、いつものドエスな意地悪い目じゃなくて、幾分か優しい色を灯していて、私は安心しきって笑った。
それに呼応するように、総悟も満足気に笑うもんだから、私がびっくりして首を傾げると、身体を起こして顔を近づけられる。


「雨なのに、太陽みたいに笑う姐さんが、好きでさァ。」


唇に触れた一瞬の温もりは、私のすべてを奪っていった。





2017.11.4
「雨」なのに。(総悟)


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