今日の天気は雨。

天気予報のお姉さんが、テレビの中で笑顔を必死に振り撒いている。
曇天を何とか弾き飛ばそうとしているかのようで、それが何とも滑稽だ。

「今日は一日雨なの?マジでかー。え、明日も?」

小さな部屋の中で、ひとりテレビを見ていると、独り言が増えてしまうのか、私はテレビに向かって喋りかけていた。

「オイ。テレビと喋ってねェで、いつもの。」
「あら。土方さん。いつにも増して苛々してらっしゃいますねえ。」

突然の訪問客は、ここの常連さんで、私は迷わず見慣れた銘柄の煙草を取り出す。
こんな小さな煙草屋を未だに贔屓にしている人は、珍しい。
どんどん客も減って、経営も苦しいけれど、私がまだ店を開けているのは、この土方さんの為であると言っても過言ではない。

「いつもありがとうございます。」
「おー。今日は一日雨なのか?」
「そうみたいですよ。明日も雨ですって。」
「ふぅー。そりゃあ有難いこった。最近晴れ続きで参ってたとこだ。」

土方さんはそう皮肉っぽく言って、煙を吐き出す。
彼は雨の日はいつも、雨宿りがてら、ここで吸っていくことが多かった。

「ふふっ。雨でも、晴れでも、土方さんのその眉間の皺は取れませんねえ。」
「お前は雨でも、晴れでも、へらへら笑ってんな。」
「それはお褒めの言葉ですか?私にはこれくらいしか取り柄がないですからね。しかめっ面でも笑顔でも、どっちでも経営が苦しいなら、笑顔でいる方が楽しいでしょう?」
「まあな。しかめっ面で煙草売られても来る気しねェかもな。」

そう言って笑う顔は、世間的にいうイケメンで、それに加えて、いつも眉間に皺寄せている人が、ふとした時に急に笑うのは結構狡い。

煙草を咥える姿は、実に様になっていて、店に来る頻度から考えても、土方さんはきっとヘビースモーカーだ。
いつも眉間に皺を寄せているのも、きっと仕事の苛々が多いからで、イコール煙草の量も増えるんだろう。

この煙草屋が、そんな彼の気を抜ける場所であればいい。
眉間の皺も少しほぐして、さっきみたいに笑って、仕事のことを少しの間だけでも忘れてもらえたなら、どんなにいいだろう。


「なにニヤニヤしてんだ、気持ち悪ィ。」
「うふふっ。明日雨でも、面倒がらずにまた買いに来てくださいね。」
「アァ?明日雨でも、怠いからって店閉めんじゃねェぞ。」

そう言った土方さんは、優しい顔でまた笑っていた。





2017.11.4
「雨」でも。(土方さん)


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