「いらっしゃいませー」
元気な店員の声が響き渡る店内。
大江戸スーパーのパン売り場の一角に彼はいた。
「総悟くん、こんにちは!」
あたしより年上だと思ってた彼が、同い年だと知ったのはつい最近のこと。
彼は大人びていて、まだ10代なのに子どもらしくなくて、しかも生粋のサディストだと専らの噂だ。
栗色のサラサラヘアーに、羨ましいほどの真ん丸くて大きな目を覗かせる。
「なんでィ。こんな所に豚が。こら。パン食うんじゃねーぞ。」
「ちょっ、あたしは豚じゃありません!」
外見は好青年なのに、中身は腹黒悪魔。
ただ、あたしはそういうギャップに惹かれているのも事実だ。
「豚じゃなかったらなんでィ。」
「人間です!総悟くんと同じ人間です!」
「え!!」
「何びっくりしてんの!」
あたしをからかうのは、彼以外にあまりいない。
彼は、こうやって会う度会う度、やれメス豚だの、やれ豚足だのと罵って虐めてくる。
というか、あたしは豚のイメージしかないのか。
「アンタもパン買いに来たのかィ。」
「え、うん。総悟くんも?」
「ああ。俺はこいつ目当てでさァ。」
彼が指差すは、 よくあるパン祭りなどの広告。
パンの包装された袋に付いている点数シールを集めて応募すれば、もれなくプレゼントが貰えるらしい。
よく小さい頃集めていたのを思い出した。
そんなことよりも、彼が点数シールを集めていることに意外性を感じる。
ハガキにシールを一枚一枚貼っている姿なんて想像つかないし、一体何が欲しくて彼は点数シールを集めているのだろう。
「点数が溜まったら何が貰えるの?」
「そうだねィ。ブランケットとか、ショッピングバッグとか…」
なんだ。
在り来たりなのばっかりじゃないか。
「…でも、俺はこのペアマグカップが欲しいんでィ。」
「えっ。」
「なんだよ、可笑しいかよ。」
「いや、可笑しくないよ?」
「お前は心の中が丸見えでィ。思ってること全部顔に現れてんぞ。」
ペアマグカップなんて、総悟くんの口からまさかその言葉を聞けるとは。
一体誰と使うというのか。
まさか、まさか、彼女が?
こんなサディストに…?
「総悟くん、彼女いるんだね。」
「あ?何勘違いしてやがんだ。お前をまだ彼女と認めた覚えはねー。」
「えっ?あたし?」
「これ、一つアンタにあげまさァ。」
ペアマグカップの片方をあたしにくれると言い出した彼。
あたしは戸惑いながらも、ありがとう、と言っていた。
とは言っても、総悟くんがシールを一枚一枚貼っている姿を想像したらやっぱり可笑しかった。
つい笑ってしまう。
なんで、笑ってんでィ。
それはね、貴方が好きで好きで堪らないからだよ。
2015/11/27
スーパーでばったりシリーズB総悟くん
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