「なァ。あと何パターンあんの?」

銀時は首にくるくるとマフラーを巻かれながら、あたしにそう言った。

「できた!これで、あとふたつかな。もう少し!」

あたしは5つ目を終えるとそう答える。
“今年は何巻き?!マフラーの巻き方いろいろ”なる雑誌の付録に付いていた冊子を見ながら、銀時をマネキンに見立てて遊んでいた。

他所様はどうなのか知らないけれど、あたしたちの間では、もう立派な年間行事となりつつある。

昼間だというのに足先の色が少し悪くなるくらいに冷え切った万事屋で、ソファに座っている銀時は頭だけ横を向きながら器用に今週号のジャンプを読んでいた。


「ねえ、あたしも後で貸してよ、ジャンプ。」

あたしは銀時の真正面に立って、冊子を見ながら6つ目に取り掛かる。

「あれ?ジャンプ読んでんの?お前。」
「ううん。読まないよ。ちょっとジェラシー。」
「妬いてんのかよ。ジャンプに。」
「冗談だよ。そういうの男の人嫌いでしょ。あたし知ってるもん。仕事とあたしどっちが大事なの、とか言う女はダメなんだよね。」
「お前、雑誌の読みすぎじゃね?俺は好きだけどね。言ってみ?仕事とあたし、ってヤツ言ってみ?」

仕事もろくにしてないくせに。
仕事してないからそんなことが言えるんだよ。
仕事ばりばりしてる人にそんなこと言ったら、そんなこと言われたってどっちも大事だしどうしようもないんだよ、ってなる。
どうしようもないことを、わざわざ質問しないでくれよ、って。
ああ、あの女めんどくせー
ってなるでしょ。

早口でまくし立てるように、あたしがそう答えると、銀時は、“いいから言え”と言う。
ジャンプから目を離して此方を見上げる銀時の顔は、心なしか悪戯っ子のようにきらきらしていた。


「……仕事とあたしどっちが大事なの。」



「もちろん、お前に決まってんだろ。」



嬉しいやら恥ずかしいやら、銀時の目はこういう時にいつも色っぽい。狡い。
あたしは慌てて目を逸らす。
それが気に食わなかったのか、腕を引かれて銀時の膝の上に座らせられる。


「俺は、お前がいれば仕事はいらない。」

「バカ…。あたしは仕事のない銀時はいらないよ?」

近距離で囁くように言われると背中がぞくぞくする。
ますます目を見れなくなって俯いていれば、銀時の匂いが脳みそを刺激してゆく。

そして、銀時は自分の首に巻かれた中途半端なマフラーの端を手に取り、その長いところであたしの首をくるりと巻き、挙句こう言うのだ。






「それでもいいさ。いらないって言われても、めんどくせェ女って思っても、俺は仕事よりお前が欲しい。」





あたしの心臓が、急に水を掛けられた時のようにとびきり高く跳ねた。





2016.11.25


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