「こんにちはー!お届け物でーす!」

あたしはなるべく元気な声で挨拶する。

最近団子屋で新しく始めた、お団子の配送サービス。
お得意様へのお届けは、結構あたしの息抜き時間になっていたりする。


「あ!こんにちは!どうぞ。いつもの部屋に副長居ますよ。」
「有難うございます〜。あとで休憩時間にでも、これ食べてくださいね。」


そうやって、門番の男の人にニコリと微笑めば、彼も満面の笑みで“はい!ぜひ!”と返してくれた。

あたしは嬉しくなって急ぎ気味で副長室へと向かう。
泣く子も黙る真選組の鬼の副長、土方十四郎さんが居る部屋だ。



「土方さぁーん!こんにちは!」

門番にしたそれよりは、少しだけ声を小さくして部屋の前で待つ。
あんまり大きい声を出すと、何かと忙しくしている土方さんに怒られてしまうからだ。

「入れ。」

暫くすると土方さんの低い声がぼそりと聞こえる。
それを合図にあたしは部屋の襖を引く。


「土方さぁーん!会いたかったですよぉーう。」
「ちっ。なんだテメェか。」
「ええ!?一言目から舌打ち!?もっと喜んでくださいよぉ。1週間ぶりに会ったんですよ?」
「毎日団子ばっか食ってられるかよ。」


それもそうだ、と変に納得してしまったあたしは、それ以上喚くことはせずに団子の入った袋の中から小さめの箱を取り出す。

これは土方さん専用のもの。
甘さ控えめに作ってもらっている。

「土方さんの分、ここ置いときますか?」

土方さんの部屋の机には、書類が結構な量積まれていて忙しそうなので、その机の端に団子を置いて部屋を後にしよう、とあたしはそう思ったのだけれど。


「…おい。誰が食わねェって言った。今から食うからよこせ。」

「え。あ、はい。…でも、いいんですか?書類がジャンプ1ヶ月分くらい溜まってますよ?」
「癪に触る例え方すんじゃねェよ。今から食っても後で食っても書類の量は変わらんだろォが。」


それもそうか。
あたしはまた変に納得して、机に一度置いた団子の入った箱を土方さんに手渡した。
懐から自前のマヨネーズを取り出して、それを団子に思う存分かけては、ばくばくもぐもぐ。
鬼の副長と恐れられる土方さんの、ほんの少し可愛い瞬間だ。
あたしはこの土方さんが好きだったりする。


「ふふふ。…あ、すみません。」

こそこそ笑っていたつもりが、声が出ていたらしく、鬼に睨まれた。
そんな睨みも未だに慣れないけれど、団子の配送を始めた当初に比べれば、真選組の皆さんとも土方さんとも大分打ち解けてきていると思う。


睨みをきかせながらも、土方さんは串団子の内の一本を、あたしに差し出してくれる。
勿論、マヨネーズがかかっていないやつだ。


「あ。有難うございます。頂きまーす。」

丁寧に両手で受け取ろうとしたのに、すんでの所でおあずけを喰らった。

ん?なんで、おあずけ?
土方さんって、こんな意地悪する人だったっけ?
確かに鬼だし怖いし、でもこんな子どもみたいな意地悪はしないはず。

不思議に思って、眉間に皺を寄せ土方さんを見据える。
でも、その人はそれを物ともせず、あたしが団子を受け取ろうと半端になっていた手を握った。
そしてこう言った。


「女が手ェ冷やすんじゃねェよ。真っ赤じゃねェか。」


確かに、外は冬の寒さで、コートを羽織っていてもバイクを乗っていれば凍えそうなくらいだ。
手袋を忘れてきたから、手は氷のような冷たさになっていたかもしれない。

でも、それと団子のおあずけは関係ないじゃないか。
あたしは的外れな意見を土方さんにぶつける。

「手は平気です!それより団子をください!」
「あァ?これは元々俺の団子だろうが!」

頭を叩かれた。
やっぱり、鬼だ。


だけど、手の冷たさと反比例するように、心がじんわり温かくなってゆく。
嬉しくって嬉しくって。


あははははっ!


堪らずそう笑ったら、土方さんは半ば呆れ顔で串団子をくれた。
そして、今度は少しだけ柔らかい顔をして煙草に火を点ける。
狭い一人部屋に容赦無く吐き出される煙が、あたしたちを包むようにゆらゆらと揺れていた。




2016.11.25




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