なんて、そう錯覚してしまうほどに、桜のようにひらりと舞った。
私はそれを捕まえようと、掌を上にして腕を伸ばす。掌に舞い降りると熱に溶かされてそれは消えゆく。
勿体ない。こんなに綺麗なのに。
捕まえられなかったそれらも、地面に落ちるとたちまち消えていった。
「何してんだ。」
ふいに、ぶっきらぼうな声が後ろから聞こえる。
振り返れば、副長がこちらを怪訝な顔で見つめている。
「そんなに綺麗な顔で見つめられたら、恥ずかしいです。」
「オイ。俺の質問聞いてた?」
「聞いてますよぅ。何してたか、でしょ?捕まえてたんですよ。雪を。」
「ガキかテメェは。」
咄嗟に、「どうせガキですよーだ」と反論してしまったが、その反論が最早ガキっぽいな、と後から思い返して、馬鹿らしくなる。
ああ、嫌だ嫌だ。
私はいつになったら、副長に追いつけるんだろうか。
年齢は私とそれほど変わらないくせして、やけに大人に見える彼が憎い。
この冬もあと幾日かで終わり、やがて、春が来る。本当の桜が舞うのだ。
そうすれば、副長はさらに大人になる。
私は、少しだけ大人に近づく。
一体どうすれば、副長に追いつけるんだろう。
考えても考えても、ちっぽけなガキの脳では分かるはずもない。
「副長。」
懐から取り出した煙草に火を点けるのに、手間取っていた副長の風除けになってみる。
手が小さすぎてあまり役に立たない。
それでも、副長はそのことに文句を言わない。言わないどころか、私の手が結果的に役に立つように、何とかして火を点けようとしてくれる。
ライターのちっぽけな炎が、少しだけ、手を温める。
ようやく火が点き、副長の口から煙がもくもく吐き出される。
「悪ィな、助かった。しかし、たまには役に立つじゃねェか、お前も。」
そう言って、私より一回りも大きい掌で、副長は私の頭をがしがしと掻き回した。
鬼、と呼ばれる彼からは、想像し難い優しい笑顔に、私の胸がとくんと一つ鳴ったのは、言うまでもない。
ガキ扱いされていることに憤怒するよりも、褒められたことに歓喜することの方が勝ってしまう。
やっぱり、私はまだまだ副長に追いつけそうにない。
2019.01.18
「指の隙間に、春」