(※ひたむきな獣は春の鼓動に気付かない・泥塗れの鬣が燦めくからの番外編です)
「なあ」
「んー?」
「あの2人、いつくっつくと思う?」
そばに立つ瀬呂と目の前の切島に心持ち音量を下げて問いかけると、2人は数秒止まった後視線を向かって右にやった。
その先には爆豪と、葉隠の椅子に座って爆豪の机に向かうみょうじがいた。今日も熱心に勉強会をしているらしく、時々爆豪が軽く怒ってみょうじが謝って、んで爆豪がまた話し出して…を繰り返してる。
相変わらずクソ、ボケ辺りの言葉は使ってるぽいけど語気は全然強くなくて、時々聞こえてくる声色は爆豪にしてはかなり穏やかな気がする。そこ直せるならクソボケもやめればいいのに。口癖ってやっかいだなあ。
みょうじは普通に女子っぽい女子だけど、華やかとか目立つとかクラスの中心にいるとか、そういう系ではない。馬鹿にしてるとかじゃなくて、なんというか、他人を値踏みしてランク付けする爆豪が気にする部類の子ではない。しかも自分サゲが過剰で卑屈っぽいところがある。いつもの爆豪ならそんなの、「マジでイライラする」はずだ。
だから爆豪に好きな奴がいるってだけでも吃驚したのに、その相手がみょうじってのはさらに意外だった。
テメェとコイツ呼びがほぼだけど、それでも爆豪がみょうじを名字呼びするとは思わなかった。他人の名前は覚えないで変なあだ名で呼ぶかモブって言い捨てるか、轟にすら暴言交じりのあだ名をつける、あの爆豪が。
しかもまだ確信がなかった頃に揶揄ってみたらガチで怒ってきた。邪魔すんなってのもあったんだろうけど、あれは別の意味で怒ってたと思う。男の勘ってやつだ。
そんなわけで俺らからしたら爆豪がみょうじをすっげー気にしてるのは一目瞭然なんだけど、肝心のみょうじは全く気付いてなさそうで、でも爆豪も爆豪で諦めたり苛立ったりしないでアプローチかけ続けるもんだから、今ではもう揶揄う毒気も抜かれてしまった。完全に応援モード。
はやくくっついて欲しいような、でもくっつくまでの醍醐味をもっと見てたいような。そんな生温かい目で見守ってる。
瀬呂が首を傾げながら「さあなー」と息を吐いた。
「爆豪が告らねぇと始まんねぇのは確実だけど」
「アイツなりのタイミングとかあんだろ。詮索するだけ野暮だぜ」
「…そうだけど、」
再度視線を右にやる。
爆豪の解説で理解出来たのか、みょうじが目を見開き軽く手を打った。そして上がった顔はぱっと明るい表情をしていて、爆豪に「ありがとう」って言ったように聞こえた。
そしたら爆豪が短く何か呟いた。何を言ったのかはわからなかったけど、その横顔はもう俺らからしたらダダ漏れ以外の何物でもなかった。当のみょうじは相変わらず気付いてなさそう。
なんだかこっちが恥ずかしくなってきて視線を戻すとそれは俺だけじゃなかったようで、バツの悪そうな2人と目が合ってしまった。
「あんな顔見たらさあ、気になってしゃーなくね?」
「…まあ、」
「…それは、そうだな」
野郎3人が何照れてんだ、普通にキモい。耐えきれなくて切島の机の上に突っ伏した。
あー、気になるけど見てらんねぇわ。
さっさと付き合うか、もしくは爆散してしまえ。爆豪じゃないけど。
/////
入学してから梅雨の頃まで、みょうじさんは私に勉強を教えて欲しいと話しかけてこられることがありました。
頼っていただけるのは嬉しいですし「人一倍どころか5倍は頑張らないと」と眉を下げる彼女に少しでもお力添えが出来るならと、頂く質問にお答えしていました。
しかしいつしかそれもなくなりました。
みょうじさんのお顔は俯きがちになり、何か抱え込んでいるような様子が大変心配になりました。あまりに気になりお声掛けすると「ヤオモモの時間奪ってばっかりでさすがに悪いなって。たくさん時間とらせたのにあんな成績でごめんね」と泣きそうにも見える笑顔を返されてしまいました。そんなことは全くございませんと否定をしたらより一層辛そうなお顔になってしまい、その様子に私もそれ以上は上手く言葉を継げず、遠くから見守るしかできませんでした。
みょうじさんの必ず丁寧に御礼を言ってくださるところ、素敵だなと思いました。胸が温かくなり、こちらも嬉しくなりました。そんな彼女ともっと親しくなりたいと思っていただけに、どこか遠ざけるような空気に少し寂しい気持ちがしておりました。
でも、そんなみょうじさんの様子が入寮後しばらくしてから少しずつ変わってきました。
再び合うようになった目は明るさを取り戻していて、笑顔も増えた気がします。みょうじさんの周りに張り巡らされた壁が崩れていくような、重く丸まった背中が軽くなったような様子にホッとしたのを憶えています。
そして私、その理由に気付いてしまいましたの。
これは是非とも応援しなければと思いました。
「ごめん!次のペア演習に向けて自主練するんだ」と頭を下げるみょうじさんを女性陣で見送った後、私の部屋で女子会が始まりました。そこで早速ご報告差し上げました。
最近みょうじさんは爆豪さんと仲が良いようです。
そしてそれはクラスメイトや演習のペアとしてだけではなさそうです。
高揚する気持ちをそのままにお伝えするも、予想していたような色めく空気は生まれませんでした。
「…いや、うん。そうだね」
「みょうじほどとは言わないけど、ヤオモモも結構鈍いよねー」
耳郎さんと芦戸さんの言葉に、他のみなさまも頷いていらっしゃいます。
どうやら今更な話題だったようです。
とは言ってもやはり所謂恋バナはみなさんお好きなようで、そのままみょうじさんと爆豪さんの話題で盛り上がりはじめました。
「なまえちゃんはどうかわからんけど、爆豪くんは…ねぇ」
「あそこまで牽制しなくても誰も割って入らないっての」
「2人のせいですっごい席に戻りにくいんだよー!!」
「ドンマイ」
温かくも呆れの混じった会話に耳を傾けていると、それまで黙っていた蛙吹さんが「でも」と声を上げました。
「あの2人を見ていたらわたし、なんだか安心するわ」
柔らかい声に場の空気が静まりました。
「なまえちゃんのことが心配だったの。最初の頃は明るかったのに、いつからか泣きそうな顔になってしまって」
そうです。私もそうでした。
入学当初は明るくよく笑ってくださっただけに、どうにかしてみょうじさんにお顔を上げていただきたくて、そして笑って欲しかったんです。
「でもわたし、何もできなかった。何を言ってもなまえちゃんには嫌味に聞こえるんじゃないかって、怖かった」
みょうじさんが何に悩んでいらっしゃるかわかっていただけに、頼んでもいないことをしたら更にみょうじさんを傷つけることになるのではないか、嫌われてしまうのではないかと怯えていました。
蛙吹さんの言葉は私の思いそのもので、喉がギュッと苦しくなりました。
「……でも、爆豪ちゃんはなまえちゃんを助けた」
好意を寄せる方に嫌われることはきっともっと怖いと思います。
爆豪さんは怖くはなかったのでしょうか。
「一生懸命頑張るなまえちゃんを見ていたら、自分がどう思われるかばかり気にしていたことが恥ずかしくなったわ」
そこまで言って照れたようにケロ、と締め括った蛙吹さんに胸が一杯になりました。
涙腺が緩む感覚に思わず目元に手をやると、耳郎さんが背中を摩ってくださいました。
温かくなった空気に、心なしかみなさんのお顔が柔らかくなったように思います。みなさんも同じお気持ちだったのでしょうか。
すると芦戸さんが「みんなみょうじのこと好きすぎるでしょ」とニッコリと微笑みました。
「みょうじにはあれくらいの強引さが必要だったんだね」
見守ることも思いやりではありますが、みょうじさんのお顔を上げるきっかけには力不足だったようです。ヒーローを目指す身、困っている人を目の前にして何を躊躇っていたのでしょう。恥ずかしいです。
少し悔しいので、今度みょうじさんを勉強会にお誘いしてみようかと思います。
/////
「青山くん。毎度ごめんなんだけど、聞いていい?」
そう言って僕の元にやってきたみょうじさんに胃の底がヒュッと縮んだ。正確に言うと彼女が元凶ではないのだけど、この頃はみょうじさんと目が合うとほぼ条件反射でお腹の辺りに異変が走る。パブロフの犬状態だ。
それでも拒否するわけにはいかない。頷くと、みょうじさんは「ありがとう」と笑った。
「ネビルレーザーで飛ぶ時どうやってバランス取ってるのかな、って」
はやく授業が始まらないか、こんなに願ったことはない。
「わたし、圧縮した空気がまっすぐ出力されるでしょ?その反動で身体がぐらついて思った方向に飛べなくて。でも青山くん、両手バンザイしててもまっすぐ飛んでるからすごいなって」
そう、僕とみょうじさんの個性は少し似ているところがある。それはわかる。
僕のキラメきながら飛ぶ美しい姿を参考にしたい気持ち、それもわかるよ。
でも、みょうじさんには悪いけど、正直関わらないで欲しい。
みょうじさんが頻繁に話しかけてくれるようになってから、僕の平穏で華麗な日々は消えてしまった。僕は確実に彼の爆殺リストに入ってしまったんだ。
今だって、凄い剣幕で真っ直ぐ僕を捉える悪鬼がいるんだよ。気のせいなんかじゃない。現に通りすがりの緑谷くんにヘルプの視線を送ったら無言で首と両手を振られて拒否されてしまった。
ああ、左半身が痺れてきた気がする。お腹下しそう。
「ンーーー、改めて聞かれると難しいね!感覚だよ☆」
「何か特別な体幹トレーニングしてる?」
「してない☆」
早く諦めてくれないかな。
というか、体幹トレーニングなんて彼のお手の物だろう?僕じゃなくて彼に聞けばいいじゃないか。
「爆豪くんに聞くのはどうかな?」
「え?」
やめて、そんなに怒らないで。彼女を君の元へ向かわせようとしているだけだよ。
僕がみょうじさんをどうこうするわけないじゃないか。君が目の敵にするような僕じゃないし、そもそもただの個性に関する質問じゃないか。
「彼だって空中移動に個性を使ってるし、色々教えてくれるだろう!?」
「…そうなんだけど」
「爆豪くんに頼ってばっかりじゃダメだなって。自分で考えてなんとかしなきゃ」
決意に満ちた顔をしないで!
全くの見当違いだよ!きっと彼は君に頼ってもらいたくて仕方ないと思う!!
「とか言って、青山くんにも頼ってるんだけど」
そして困ったように笑わないで!!
君がそんな顔をしたら彼が変な勘違いをするだろう!?
あまりに怖くなって視線を左にずらしてみると、完全に温度のなくなった瞳とバッチリ目が合ってしまった。無感情に見開かれた瞳孔に急降下する感覚が僕を襲った。
……あ、ヤバイ☆
「え、あ、青山くん!?」
ねえ、みょうじさん。はやく気付いて。こんなサプライズプレゼントは要らない。
はやくしてくれないと僕、いつか視線だけで殺されてしまうよ。
メロウはもうすぐ
菫さま
はじめまして、うまこです。
素敵なサイトさまがあるなか、最推しとのお言葉たいへん恐縮です…!!楽しんでいただけているかいつも気になっているので、大大大好きと言っていただけてとても嬉しいです。
「ひたむきな〜、泥塗れの〜、の2人をA組がどう思っているか」ですが、その辺りも想像しながらおはなしを書いていたのでこの機会に形にすることができ嬉しいです。青山くん視点は少し意外かもしれませんが、主人公の個性は「青山くんって実はものすごい体幹の持ち主なんじゃ…?」と思ったところが発想の原点でした。普段絡まない2人だからこそ、お互いへの警戒心は他の誰より強くなる気がします。
リクエストとメッセージありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。