※太平洋横断中のお話
※復活者ヒロイン(司帝国側で誤って復活液かけられた平凡ヒロイン)
「へぇやっぱ可愛いな」
「ひぇ」
船の生活は想像以上にやることがなく、せめて出来ることを、と新しい科学グッズの為の作業をしていた。私は戦える訳でもなければ頭脳派な訳でもない、氷月君に言わせるところの凡夫なので、何でもいいから皆の役に立てる事があるのは嬉しい。スイカちゃんも良く皆のお役に立ちたいと言っているけど、あの子はあの子でチートすぎて、本当に平凡なのは私だけじゃ…?とたまに落ち込んでしまう事があった。でも、仕組みは分からないけど、私が作業したものが、千空君の手によってこのストーンワールドではあり得ない現代科学グッズに生まれ変わる姿を見ると、私でも役に立てたという気持ちと、何とも言えない感動を味わうことができた。幸い杠ちゃん程じゃないけれど、地味な作業は好きだった。作業に没頭すればたまに襲ってくるネガティブな感情も吹き飛ばせるので、何かにつけて千空君やカセキさんにお手伝いできる事が無いか聞いて回っていた。千空君には「杠と大樹並みの物好きだな」と呆れられたり、ゲン君には心配されて「たまには俺とサボろうよ♪」と言われたりしたけど、私にはこれぐらいしかできないから、何か手を動かしていたかった。船の中は常に共同生活、ストレスが溜まりがちな長距離旅路の中、こうやって一人で仕事する時間はそれなりにリラックスにもなる。
と、今日中に区切りのいいところまでやってしまおうと集中していた折に突然声を掛けられ思わず持っていたものを落としてしまった。
「モズ、君…?」
「名前なんてーの?」
「なまえ…」
後ろを振り向くと、背が高く、威圧感のある男が立っていた。千空君達が行った始まりの島、宝島で出会った戦士だ。びっくりしすぎて、反射的に名前を答えてしまった。氷月君と一緒に、石化した知らない人を積み込んでいるなとは思っていたけど、まさか旅路半ばで起こすとは思っていなかった。しかも、コハクちゃんに聞いたところめっちゃ強い敵だったと知って更に驚いた。起こしたばかりだし、氷月君とか司君とか、目立つ戦闘チームの人とばかり話しているので私のことは知らなかったのだろう。仲間になったとは聞いたけど、正直威圧感半端ないし、問題ないとお墨付きしたのが氷月君とのこともあり、思わず緊張してしまう。聞かれたから名前を答えたのに、会話を続けるでもなくこちらを品定めするかのようにジロジロと眺められて居心地が悪い。顔を眺める距離が妙に近い。かなり身長差があるのに、わざわざ顔を近づけてくるのだからたまったもんじゃない。しかも、科学王国の皆と違って上半身が裸の為、近づかれると気まずく、目を逸らしてしまった。
「あの、ちょっと離れてくれるかな」
「お前、俺の女になんねー?」
「話聞いてる!?」
沈黙と距離に耐えかねてこちらから話しかけたらこれだ。頼むから会話してほしい。こちらのお願いとは逆に、更にじりじりと近づかれて、だんだん気持ちが焦ってくる。どうしよう、と思わず逃げ場を求めて扉へ視線を外した瞬間、ぞわりと腰に違和感が広がった。信じたくないが、確かめる為に視線を下へ向けたら、モズ君の鍛え上げられた腕が私の腰をぐっと掴んでいた。
「えっちょっ、嘘でしょ!?」
「マジだぜ」
「いや何が!?待って、本当に待って!」
「何だよ、決まった男いんのか?」
「いや、いないけど!」
そういう問題じゃない!こちらの反応を見て楽しそうに笑っているので、これはもう何を言っても駄目だ。完全におもちゃにされている。どうしたらいいんだ、ぐるぐる頭を回すも、残念ながら凡夫の頭じゃ何も良いアイディアは出てこなかった。大声で叫んだら羽京君はすぐ気づいてくれるだろうか。
「悪い思いはさせねーぜ」
言葉と同時に顔が近づいてきて、このままだとキスされる…!と、焦る。助けを呼ばないと、と叫ぶ為に大きく息を吸った。が突然お互いの顔の間に何かが挟まれて、驚いた拍子に吸った息をそのまま吐きだしてしまった。歪んだ自分の顔が映るそれは、槍の先だった。
「ひょうが、君…?」
「何をしてるんですが、貴方達は」
「あぁ?可愛い女がいたら口説くのが礼儀だろうが」
「そんな脳みそ溶けた礼儀があってたまりますか。この子に手を出してはいけません」
「なんだよ、フリーだって言ってたぜ」
ギロリ、と急に氷月君に睨まれて思わず肩が震える。え、なんでここで私が怒られるの!?モズ君はモズ君で何か駄目なのか?と悪びれもなく返していて、見ているこちらの肝が冷えるからやめてほしい。
「そもそも嫌がってたでしょう。無理矢理事に及ぶのはダメです」
おお、すごく当たり前のことを言っている。良かった。少なくとも今は私の味方の様だ。司帝国時代、力も無ければ特技もない私は立場が弱く、下に見られる事が多かった。氷月君から直接何か言われたことは無かったけど、普通に話しかけてくれる司君や羽京君と違って、ほとんど会話もしたことが無かったし、近寄りがたい存在だった。それなのに、ごくたまに氷月君から視線を感じることがあった。視線に気づいて私が振り向くと、既に違う方向を見ていたから、もしかしたらただの勘違いだったのかもしれない。でも、そういう事が何回かあったので、なんだか余計に苦手に感じていた。司君を裏切ったのも、人類の間引き、平凡な人間は不要、という考えからだったと聞いて、まさに私はその間引かれる対象じゃないかと頭を抱えた。あの視線は、「司帝国にこんな凡夫がいるなんて…」という憎悪のものだったんじゃないだろうか。氷月君からしたら私は完全に望まぬ存在だろうし、石化から復活してからもなるべく関わらない様にしてきたけれど、この場では助けてくれるつもりの様で安心した。モズ君がどのぐらい強いかは知らないけれど、霊長類No2の氷月君にはそうそう敵わないと信じたい。
氷月君の無言の圧力に、モズ君はちぇーっと引き下がった。「わーったよ」と捨て台詞を吐いて部屋を出て行ったので、安堵のため息がつく。お礼を言わなくてはと、視線を上へ向けたところで、
「何やってるんですか、貴方も」
と冷たく言い捨てられた。嘘やん。まさかの矛先こっちに来た。正直私は悪くないと思うけど、機嫌を損ねると怖いので取り敢えず謝ろう。
「氷月君の手を煩わせちゃってごめんなさい…。それと、助けてくれてありがとう」
氷月君は眉をひそめたままで、何を考えているのかわからない。
「今度からちゃんと拒否してください。決まった相手がいるといえばモズ君も諦めるでしょう」
「え、それは嘘じゃん…」
「身を守る為に咄嗟に嘘もつけないんですか?」
「ごめんなさい…」
呆れるようにため息をつかれ、思わず下を向く。次からはちゃんとしてください、と念押しされたけど、モズ君はさっき牽制してもらったし、他にこんな事する人はいないと思うけどなぁ。
「っひゃっ」
予期しない感覚に思わず声か出た。さっきモズに触れられたまさにその場所を氷月君に触れられている。何が起こっているか理解できず、頭が完全にフリーズした。
「え、えっ、ひょうが、くん!?」
「触られたのはここだけですか?」
「え、うん」
無言でやんわりと撫でられ、何というか恥ずかしい。じわじわと顔に熱が集まってくる。さっき、「こんな事する人他にいない」なんて考えたの誰だ。目の前にいたよ。抗議の声をあげようと意を決して口を開く前に、手が離れていった。
「よく洗っておくように」
「えっうん。えっ洗っ?」
意味が分からない。
「消毒です」
酷い言い草だ…と思いつつ、もう反論する気力は残ってなかったので「分かった…」と呆然としたまま頷けば、ようやく満足したように微笑まれ、そのまま部屋から去っていった。完全に力が抜けた私はその場にへなへなと座り込んでしまった。なんだったんだ、一体。
この後言いつけ通り手は出さないけど事あるごとに夢主にちょっかいかけようとするモズ君とそれに毎回怒る氷月君が船内の名物になる。ゲンとコハクあたりがめちゃくちゃ面白がる。羽京が夢主フォローしてあげるけど氷月君はそれすらも気に食わないから、だんだんこじれると面白い。