解釈違いな千空


千空とキスがしたい。
私と千空は付き合ってる。付き合ってる、よね?付き合っていると信じたい。ある日ダメ元で千空に想いを告げたら、普通にOKしてもらえた。あまりにも軽く「おう、俺もてめぇのこと好きみたいだわ。付き合うか」とシンプルな答えが返ってきて、しばらく固まってしまったのはつい昨日の事のように思い出せる。信じられなくて「ほ、本当に?」と思わず聞き返したら「こんな事で嘘つく程趣味悪くねーよ」と言われてしまった。それでもまだ半信半疑だったので「私のどこが好きなの」とか「いつから?」とか聞きたいことは山のようにあったけれど、そんなこと聞いたら典型的なめんどくさい彼女になってしまうので我慢した。
だから私は千空の彼女で間違いないはずなんだけど、自信が持てない。告白してから恋人っぽいことはほとんど出来てない。そもそもこのストーンワールド、デートに行くところもないし、日中は色々な作業に追われている。2人でいる時間は増えたけど、それは私が夜時間が空いた時、千空の実験室へ行って話すようにしているだけだ。夕飯あとのほんの少しの合間、今日こんなことかあってね、とか、取り留めない話を一方的にするこの時間が2人で過ごせる数少ない時間となっている。
それでもひとつ、付き合い始めて変わった事がある。夜千空の実験室で過ごした後の、帰り際、千空が村まで送ってくれるようになったことだ。しかも、ある日勇気をふり絞った私が手をつないだら、その日以降千空からも手をつないでくれるようになった。この時間だけは、私千空と付き合ってるんだって自覚できる、大切な時間だ。
でも、もっと恋人っぽい事がしたい、そう思う私は欲張りかな。
私の方がお姉さんだし、千空は今まできっと彼女いなかっただろうし、私からリードした方が良いのかな。正確には生まれた年は私が1年早いけど、千空の方が1年早く石化から復活したから、実質同い年ではあるんだけど。そして私も経験ないけど!
付き合ってしばらく経つので、普通ならキスぐらいしてもおかしくない、よね?と自分を奮い立たせるために心の中で言い訳をする。手をつなぐのも私からだったし、もうキスも私からしちゃおう、と覚悟を決めた。
そうと決まれば、行動あるのみ。2人きりになれるのはいつもの夜の時間だけ。チャンスはここしかない。
本当は実験室で話をしている時にキスをするつもりだったのに、できなかった。雰囲気が、つくれない。だって私はずっとお喋りしてるし、千空は実験してるんだもん。急に近寄ってキスなんてできない…!キスって、いつするの?どんなタイミングで?なんて頭の中でぐるぐる考えていたら、お喋りの方が疎かになっていた様で「具合悪いのか?」と心配されてしまった。大丈夫と答えたけれど、千空は気を使ってくれて今日の実験を早めに切り上げて村まで送ると言ってくれた。どうしよう、このままじゃキスできない。今日しなきゃいけない訳じゃないんだけど、また明日、もしくはもっと良い雰囲気の時にって、ずるずるとタイミングを掴めないまま、時間だけがすぎる予感しかない。どうしよう…、と私の前を歩く千空の背中を見つめる。今日は私を心配してか、千空から手を繋いでくれて、私を引っ張るように前を歩いている。あぁ、今日も千空は優しいなぁ。恋人らしい事ができなくても、こういう一面から大事にされているんだと感じてしまう。
それだけでも、充分嬉しいんだけど。
やっぱりもう一つ先を望んでも、いいよね。
橋の前、のその手前、もうチャンスはここしかない。だって橋までいったら門番がいる。いつもは「お熱いねぇ」なんて茶化す銀狼に、今日は邪魔されたくない。
唐突に繋いでいる手を引っ張たら、千空は「あ゛?」と怪訝な顔で振り向いた。
「どうしたんだよ?」と顔を覗き込んで尋ねる千空の顔が、改めて間近でみると精悍すぎてつい目を逸らしたくなる。
「せ、千空」
意を決して名前を呼ぶ。
「あ?なん…」と返事をしかけた千空の唇に顔を寄せ、そっと触れるだけのキスをする。これだけで耐えられなくなった私は、そのまま「お、おやすみっ」と捨て台詞のような挨拶を残して、千空の顔も見れずに背中を向けた。
「わっ」
このまま立ち去ろうと足を進めたところで、後ろから腕を引かれた。何が起きているか理解する前に、目の前に千空の顔が広がり、驚きのあまり一瞬呼吸を忘れたところで
「んっ…」
キスされた。
かぶりつくようなキスに思わず目を見開く。驚いて放心している私の唇の隙間に、千空の舌は容易に滑り込んでくる。反射で思わず嚙みそうになってしまったのをすんでのところ抑えている内に、舌先を舐めるように触れられて背筋にぞわぞわとして感覚が走る。知らない感覚に身を縮こませている間、舌は上顎をゆっくりと這い、歯をなぞるように動き口の中を思う存分蹂躙した。
「んん、はっ…ん」
くちゅりと響く水音も、自分が漏らしてしまった吐息も全部聞くに堪えなくて顔を逸らそうとするも、いつの間にか頭の後ろに回っていた千空の手にがっつりと抑えられていて、逃げることができない。

永遠に続くと思ったそれから、やっと解放された瞬間、酸素を求めて息を大きく吸ってしまった。千空の顔を見上げると、息切れひとつしていない。どころか唇をぺろりと舐め、「ごちそーさん」としたり顔で言われてしまった。
何それ、ずるい。
「…ずるい」
「あ”?」
「こんなの千空じゃない」
「あ”ぁ?」
心底理解できないといった顔で聞き返されるけど、理解できないのはこっちだよ!
「こんな千空、解釈違い過ぎる…!」
「何わけわかんねー事言ってんだてめぇは…」
「だって!もっと戸惑うかと思ってたのに」
「んだよ、純情科学少年がご希望か?」
若干拗ねたような顔で言われてしまい、きゅんと胸が高鳴った。今日はもうキャパオーバーなんだからこれ以上私を動揺させないで欲しい。
「キ、キス、初めてじゃないの?」
「初めてだよ、わりーか」
その答えと、少し頬を赤らめて目を逸らす姿に、乱れていた心が少し落ち着いた。
「悪くないよ、嬉しい」
はじめてが私で。でも
「次は、もっとお手柔らかに、オネガイシマス…」
心臓が持たないです。
さっきのキスを思い出してしまい、また顔に熱が集まるのを感じる。そんな私の様子に千空はクククと笑いながら「りょーかいだ」と返した。
取り敢えず、恋人としてワンステップ進めたみたいだ。リードは、できなかったけど。でも、なんだか嬉しくって胸がいっぱいになる。どちらからともなく手を繋ぎ、村への道を、今度は並んで歩いた。橋に着くまでにこの顔の熱が冷めるといいな。

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