氷月に甘えたい

約束をすっぽかされた。デートっぽいデートを好まない氷月とお付き合いしている中、久しぶりに映画を一緒に見に行く約束ができて、とても楽しみにしていたのに。氷月は謝ってくれたし、話を聞くと大会の団体戦で急にひとりが体調を崩し、その場にいた氷月がピンチヒッターとして代わりに参加した、という不可抗力な理由だった。だから、許すべき。なんだけど。
「…まだ怒ってますね」
こくりと頷いた。目一杯おしゃれして、あんまりやりすぎると怒られるけど、少しでも可愛く見えるようにメイクして、髪もアレンジして、自分でもちょっと引くぐらい気合を入れた格好で、待ち合わせ場所で1時間以上待ちぼうけしていた時の気持ちを思い出す。予定していた映画も終わるだろうかという頃合いに、やっと氷月からの連絡があった。映画を見終わったカップル達が楽しそうに談笑しながら映画館から出てくるのを、ひとりで眺めていた時の私の惨めさを思い出すと、胃のあたりが嫌な感じに揺れた。こんなメンドクサイ女じゃ彼に嫌われてしまう。そう分かっていても落ち込んだ気持ちはなかなか浮上してこなかった。
「ひとつだけ、お願いを聞いてくれる?」
「…なんでしょう」
「安いやつでいいから、映画のチケット代ぐらいの。何かプレゼントくれないかな?埋め合わせ。それでチャラにしよう」
「…分かりました」
非がない彼に対して理不尽とも言える要求で、彼が呆れてしまうかも、と内心恐る恐る提案したのに、案外素直に受け入れてもらえた。
「何が良いですか?」
「氷月に任せる」
「は?」
「だから、氷月に任せるから、何でも良いよ」
「せめて、食べ物とか、アクセサリーとか、ジャンルの希望もないんですか?」
「うん。何でも嬉しいよ」
眉を顰める彼に「ほむらちゃんに相談しないでね」と言って会話を終わらせた。
***
あれから、氷月はなかなかプレゼントを決められなかったようで、会話の中で何気なく探りを入れるように、好みのものやお気に入りのお店について聞かれた。ざっくりとなら答えたけど、固有のものやお店については頑なに言わなかった私に、諦めがついたのかその後は何も聞かれなくなった。
そして1週間後の帰り道、並んで歩いていたら、彼はおもむろに小さな包みを取り出した。
「例のものです」
「そんな取引みたいな…」
いや、取引したんだけど…。
「開けて良い?」
頷く彼に、可愛くラッピングされたそれを受け取る。表のラッピングを解けば、中にはまた包装紙、それは駅ビルなどによく入っている女子向けの雑貨店のものだった。その包装も空けて、なんだかマトリョーシカみたいと、最後の小箱を開けると、中から小降りなネックレスが出てきた。
「わぁ…!」
氷月は何をくれるかな、と色々想像した中にアクセサリーもあった。男の子から女の子への、1番分かりやすいプレゼントだ。無難すぎて避けるかもしれないし、逆に初めてのプレゼントとしてスタンダードな気もする。だから、予想してなかったわけじゃないけれど、実物を見ると想像以上に胸が高鳴った。お店に行ったのか、ネットで買ったのかは知らないけれど、どちらにせよあの女子向けのキラキラした小物がいくつも並ぶ中で、この四角四面な彼が悩んでくれたのだ。その姿を想像するだけで、頬が緩むのが分かる。
「ありがとう…!すっごく嬉しい。大切にするね!」
「これで約束を破った件はチャラですからね」
ぽつりと小さな声で零されたその言葉に、胸がきゅぅとなった。わたし、あいされてるなぁ。私も、浮いた映画代で何か彼に贈ろう。実用的なものなら、スポーツ用品とかだろうか。それなら使ってもらえそうだけど、敢えて変なマグカップとかを贈っても、なんだかんだ使ってくれる気がする。
「えへへ」
もう一度ネックレスを目線まで持ち上げて眺める。しまりのない表情でそれを眺めていたら横から手が伸びてきて反射的に逃げてしまった。
「返してください。捨てます」
「嫌だよ!?」
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照れ隠し氷

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