本当にただの出来心だった。
3徹で作業台に向かう千空、目の下に隈ができているし、どこか動きが緩慢だ。仕事を止めてもう寝た方がいいよ、と周りがいくら言っても聞かない。呆れかえったゲンは「リームーリームー、どうせその内気絶した様に寝るから放っといていいよ」と匙を投げていた。去り際に「でも寝落ちするときに薬品こぼしたりしたら危ないから見ておいてね」と耳打ちして「じゃあ俺他にやることあるから、よろしくね」と去っていった。仕方ないので、私も自分の作業をしながら千空の様子を見守っていた。私も眠くなってきたし、深夜に精密な作業するにはこの石時代の明かりは弱い。そろそろ作業を終えてくれたら嬉しいんだけどな、と思ってちらりと顔を伺う。
「ねー千空?あとどれぐらいやるの?流石に4徹は体壊すよ」
「あ゛ぁ゛。流石にきちぃ。もうちっとやったら寝るわ」
もうちっとってどれぐらいだろう。
目の隈だけじゃなくて、顔色も悪い気がする。既に限界なのでは。疲れていては作業効率が落ちるよ?と思ったところで、懐かしいフレーズが頭をよぎり、そのまま深く考えず口に出していた。
「疲れた?おっぱい揉む?」
「…おう」
「へ」
てっきり何くだらねぇ事言ってんだ、とか言われると思っていたのに、千空はこちらをじっと見つめたかと思えば、迷いなく私の胸に飛び込んできた。
頭から。
「へっ…いやいや!?えっ!?」
私の胸に顔をうずめる千空。いくら細身で小柄とはいえ10代後半の男子の体重を支えられる訳がなく、反射的に後ろに手をついた。千空の長い髪が顔にあたる。意外と柔らかいそれからふわりと香る匂いに、距離の近さを否応なく感じた。
気絶したの…?どうしよう、誰か呼んで来た方がいいかな。と迷っていると――
ふに
「ひぇっ」
突然の感覚に思わず声が出る。
視線を下ろせば気絶したと思っていた千空の両手が私の胸に添えられ、やんわりと揉んでいた。
驚きのあまり声をあげることも退くこともできない私の事など気にせず、千空はそのまま無言で胸を揉みしだいている。
「…っ」
形を確かめるように何度も角度を変えて、強弱をつけてゆっくりと揉まれている内に、段々と変な気持ちになってきた。
…むず痒い。
胸に顔をうずめているから表情が見えないけど、千空今どんな顔してるのだろう…。
感情が読めなくて困惑する。
止めなきゃ、と思いつつ、無言で人の胸に顔を埋めて揉む千空というシュールすぎるシチュエーションに、なんて声をかけていいか分からない。
「ひゃっ」
千空の指が先端を掠った。変な声を出してしまった恥ずかしさに、顔に熱が集まる。
声を聴いても千空は止まらない。変わらず揉み続けているが、だんだん激しくなってる気がする。それに合わせてじわじわと自分の身体が熱くなっていくのは羞恥だけか、それとも――
「…っ、せんくぅ…」
粗い布越しに千空の熱い息を感じる。
気づけば無意識の内に太ももをすり合わせていた。
この状況は、まずい。
「ね、ねぇいつまで触ってるの」
ぶるりと震える身体に心の中で悲鳴をあげつつ、勇気を出して千空に声をかければ、手が止まった。
助かった。これでもダメだったらどうしようかと思っていたので、安心して息をつく。
「千空…?」
手は止まったものの微動だにしない彼を不思議に思って呼びかけるも、答えは返ってこない。
とりあえず離れてもらいたい、とやんわり肩を掴もうとしたら、胸に添わされていた手がぶらりと床に落ちた。
「え…」
見れば、千空はすやすやと気持ちよさそうな寝息を立てていた。
完全に、寝ている。
「…嘘でしょ」
今の出来事はなんだったんだ…。
力が抜けた私は動くことができず、そのまましばらく黙って千空を支えていた。
****
翌朝、千空は昨日の事を何も覚えていなかった。
「千空、今度から2日以上の徹夜禁止。朝まで作業したら次の日中に仮眠をとること。これを守れなかったら私科学王国裏切るからね」
「あ゛?何怒ってんだよ」
「なまえちゃんここまで怒らせるって何したの千空ちゃん…」