ばしんばしんと槍がぶつかり合う音が響く。なまえは道場の外の壁にひとりもたれかかっていた。夕暮れ時の長い影が伸びている。
そこに道場から体格のいい男がでてきた。
「よお」
「出たな輩!」
「ひどくない?つか何してんの?こんなとこで」
「氷月待ってる」
「中入れば?寒いでしょ」
「部外者なんだから迷惑でしょ」
「ふーん」
とモズはなまえをじろじろ見つめたと思えば、そのまま隣に寄り、壁に背を預けた。
「何?どうしたの?」
「だってあんた暇でしょ」
「逆に聞くけど、モズ君こそ暇なの?稽古終わったんなら帰りなよ」
「えーひっでー。少しどーじょーするわ、氷月に」
「なんでよ」
「んー?あんたみたいなのと付き合うの大変そうじゃん」
「え、そっちこそひどくない?」
なまえがどういうこと?失礼過ぎない?と追求する前にモズが「つかさー、きーてよ。今日も氷月酷くてさぁ」と稽古の愚痴を話し始めた。
内容は大体氷月が鬼だと言う事で、よくもまぁ次から次へと出てくるなとなまえは感心した。しかし愚痴を言いつつもその表情は明るく声色は嬉々としたものだった。
そうやって話している内に、薄紫だった空が濃紺へ変わっていき、その濃さがより深まったころに氷月が門から出てきて壁に寄り掛かる2人に目を止めた。
「君たち何してるんですか」
「氷月遅いじゃん」
「お疲れ様」
氷月はモズを見て眉を顰めたが、そんな氷月にモズは手をひらひらと振る。
「え〜勘弁してよ。俺今日は流石に怒られる筋合いないよ?」
モズの言葉に氷月はむっと口を噤んだ。ふたりの会話の意味が分からず、なまえは首をかしげている。
「そう…ですね。君にしてはすごく、ちゃんとしてます」
「それ氷月の最高の褒め言葉じゃん」
揶揄するようににやりと笑ったモズは「それ聞けたならもう今日は充分だわ。じゃーね。俺先帰るわ」とふたりに背を向けた。えっ一緒に帰らないの?となまえは頭にはてなを浮かべている。
「モズ君!」
氷月は咄嗟にモズを呼び止めるも、何を言っていいか分からないかのように口を噤み、言葉を探すように視線を彷徨わせた。
「ありがとう、ございました」
「明日は雨かもね」
やっと出た氷月の言葉にモズは一瞬目を見開いたが、次の瞬間には力が抜けたようにふっと破顔して今度こそ完全に背を向けて暗闇に消えていった。
何とも言えない表情でモズが消えた先を見つめている氷月に「ねぇ」となまえが声をかける。
「今の何?」
「何でもありませんよ」
それより、と氷月は続ける。
「稽古がある日は遅くなるから待ってなくて良いと言ったでしょう」
「だって、氷月と学年違うし、少しでも一緒にいれる時間増やしたくって…。今日は私も委員会あったからそんなに長く待ってないよ」
見上げる様に氷月の様子を伺うなまえに、氷月は固まる。
「怒ってる?」
「…いえ。ですが、今度から待つなら中で待っていてください」
「え?でも部外者が入ったら迷惑じゃ…」
「いいから」
と語気を強める氷月になまえは「わ、わかったよ」とたじたじと返した。
「外で待たれる方が心臓に悪いです」
そう言って氷月は無言でなまえの手を引いて歩き出した。
なまえは手を引かれながら今日の氷月について考えていた。
ご機嫌斜めなんだろうか、でも、どこかしおらしさもある気がする、どうしたんだろう。氷月の様子がおかしいのは分かるのに、その要因が思い浮かばなかった。関係ない話題を振る空気でもなく、無言のままとぼとぼと並んで帰路につく。そういえば、いつもは私から話しかけるもんね、とぼんやりと今までの帰り道を思い出していたところで、氷月の方から話しかけられた。
「モズ君とは何を話してたんですか」
「だいたい氷月の愚痴だったよ」
「へぇ」
と目を見開く氷月になまえは慌てて「違う違う!私じゃなくてモズ君が愚痴ってたの」と返す。
「そうですか」
氷月の返事に一度は胸を撫でおろしたが「明日の稽古は倍にしましょう」との呟きが聞こえて背筋が凍った。ごめん、モズ君…となまえは心の中で謝った。
結局なまえの家に着くまで無言は続いたが、別れ際に「明日も、待ってても良い…?」と躊躇いがちに聞いたなまえに氷月は「えぇ。ちゃんと来た時に声かけてくださいね」と返した。その様子は普段通りで、今日の氷月はなんだったんだろう、と寝る間際までなまえは頭を悩ませていた。
次の日氷月の言葉通り道場の中で待っていたなまえが見たものは「ねぇねぇなまえちゃん」
と休憩や隙間時間になまえにちょっかいをかけるモズと、その都度モズを引き戻す氷月の図だった。
「やっぱり私稽古の邪魔じゃ…?」
「えー俺は嬉しいよ。こんなむさくるしい男ばっかなの嫌じゃん?」
「モズ君は黙ってください。なまえも!全く邪魔じゃないので!」
「氷月必死じゃん。うける」
「…モズ君、覚悟してくださいね」
「げぇっ」
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モズ→夢主⇔氷月。
夢主が好きだけど氷月には敵わないと思ってるし、氷月も夢主も大事な人だから流石に奪うのは遠慮しているモズ。1人で寒い中待ってる夢主に付き合ってあげて、でも手を出したり口説いたりしない氷月に対して誠実なモズに氷月が感謝するけど少し自分がやるべきことを代わりにやられてしまった気持ちがある、的なことが書きたかった。なのに文才が…。