治と半分こしたい

治君は、よく食べる。休憩時間の度に何か口にしているんじゃないか?ってくらい食べているし、早弁は当たり前だし、早弁した上でお昼休みは購買で何か買って食べている。
太りそうだなぁと思うのだけど、そこは全国クラスの運動部所属、消費エネルギーも半端ないみたいだ。食べても食べても太らないのは素直に羨ましい。帰宅部の私には身体を動かす気が全くなくて、単にないものねだりなんだけど。だから、私が同じように食べたら絶対豚まっしぐらな訳でして。
「みょうじさん、これ食べてみる?」
「…う、うぅん」
「どっちや」
けらけらと笑う治君はずるい。こうやって食べ物を分けてくれるようになったのは、1か月ぐらい前、席が隣になってから。前からよく食べてるなぁという印象だったけど、それまで以上に治君が色んなものを食べている姿を見るようになった。しかも、何でも美味しそうに食べていて、所謂いい食いっぷりなのだ。あまりにも美味しそうに食べるので、ついついその様子を観察するのが日課になっていた。一口がとても大きい事、たまに頬張りすぎてリスみたいになっている事、そして食べているときは本当に幸せそうな顔をしていること、新しい一面をたくさん知ることができたけど、ある日治君が私の視線に気づいて見つめ返されたときは胸がどきりとした。
「なぁ」
「な、なに」
「これ気になるん?食う?」
「へ?」
食べかけのメロンパンの、口をつけていない方をちぎってこちらへ差し出す。いや、まだ返事してないんだけど。
「あ、ありがとう」
「駅の反対側の商店街にいっつも並んでるパン屋あるやん」
「あぁ、前テレビで紹介されたっていう」
「そこの新作」
それって、結構手に入れるの大変だったんじゃないだろうか。いいのかな、と思いつつもう素手で受け取ってしまったので、衛生的に返すのもどうかと思いそのままありがたく頂戴した。
「お、美味しい〜〜」
「せやろ」
ニッと笑った治君が、いつもの眠そうな顔とも、バレー中の真剣な顔とも違った、屈託のない笑顔で、思わず胸が高鳴った。
それ以降、治君は食べ物をよく分けてくれるようになった。治君チョイスは美味しいものばかりなので困っている。理由は冒頭の通り、太る。同じペースで食べたら確実に太る。お母さんにお弁当少なくする様に頼んだら「ダイエット〜?ちゃんと食べなきゃだめよ」って言われたけど違うんだよ、食べ過ぎてるんだよ。
しかも、なかなかレパートリーが豊富で飽きがこないときた。菓子パンやおにぎりなら分かるけど、メンチカツとかお団子とか取り出し始めた時は「どこで買ってきたの??」と頭にはてなが浮かんだ。だから、今差し出されている美味しそうなカステラは手を出すか迷う。
「食べへんの?」
「今は止めておこうかな…ありがとうだけど」
「お腹すいてない?」
そうなの。だから今日は遠慮するね。と続けるつもりだったのに、言葉を発する前にお腹の虫がなった。ばか。私のお腹のばか。
「太るから……」
お腹が空いていないという理由が使えなくなり、仕方なく本当の事を言う。
「みょうじさん細いと思うけど」
「治君と違って運動してないし、毎回もらってたら絶対太るよ」
「そか。なら、これ」
と、半分こじゃなくて一口大に千切って差し出されたそれに、食べる以外の選択肢がなくなる。
「…美味しい」
「せやろ」
半ばしぶしぶ食べたそれは、相変わらずとても美味しくて思わず言葉がこぼれた。そんな私を見て、ふっと心底楽しそう笑った治君に、もしかして私は餌付けされているのでは…?と変な考えが浮かんでしまった。
***
ある日の昼休み、珍しく治君の双子の兄弟の侑君がやってきた。きょろきょろと周りを見渡しながら治君の席近くまで来たので、治君を探しているのだろう。
「治君なら今先生に呼ばれて席外してるよ」
先生に呼ばれる前に治君が分けてくれたお菓子を片手に声をかける。今日は草餅だった。チョイスが渋い。折角教えてあげたというのに、侑君は会話には興味なさそうに草餅の方をじっと見ていた。
「なぁ、それサムの?」
さむ?うん?治君の事だよね?と思いつつ頷いた。
「うん。半分こしてもらった」
あれかな、もしかして侑君半分こ狙ってたのかな。何で知らないやつにあげてるんだ!って怒ってたらどうしよう。
「は!?!?サムが!?食い物を分ける!?嘘やろ!?」
思った以上の大げさな反応にびっくりしてしまう。え、どうしたの。
「あいつ具合悪いん?」
「え、どうだろ。いつも通りに見えたけど…」
「いや具合関係ないか…。インフルだろうが食い物人にやらんもんな…。あいつ食い意地だけは半端ないからな」
散々な言われようである。いつも色々頂いている身としては、フォローせねば、と謎の使命感がでてきた。
「治君、いつも食べ物半分こしてくれるよ」
「は!?!?」
侑君は雷が落ちたようなショックを受けて、その場で固まってしまった。うーん、大人しい治君とあまりにもテンションが違う。一卵性の双子でもやっぱり性格って違うもんなんだな、とぼんやりと考えていたところで、侑君の後ろからよく見知った方の声が聞こえてきた。
「お前なにやっとんねん」
「治君」
良かった。正直侑君を持て余していた。
「お前、こいつんことめちゃくちゃ好きやん!」
ビシィっと効果音がつきそうなぐらい勢いよく私の方へ指をさした侑君に戸惑う隙も無く、同時に治君が侑君の頭を思いっきりはたいていた。ばしーんっと大きな音が教室に響く。侑君ひとりだけでもその勢いに圧倒されていた私は、2人の絡みにただ目を丸くすることしかできない。
「お前さっさと自分のクラス戻れや」
治君が侑君を後ろから追い出すように蹴っ飛ばす。そんなことして大丈夫なのだろうか。言い返す侑君と、それでさらに白熱する喧嘩。ぎゃんぎゃん騒いでいるところに、やれ名物の喧嘩だと人が集まってきて大事になっていく。角名君がスマホで写真撮ってるのはいいのかな…。

しばらくすれば喧嘩も落ち着いたようで、治君が席に戻ってきた。
「あいつ何か余計なこといってた?」
「ううん、それよりごめんね。侑君が半分こしたかったのに私がとっちゃったのかな」
「は、きしょ。誰があいつと仲良く分けなあかんねん」
「えぇ…」
隣の席だからという理由でいつも半分こしてくれるから、侑君ともいつも半分こしているのかと思ったけど、違うようだ。双子って難しいらしい。
「でも、やっぱりいつも貰いっぱなしなのは悪いな」
え、と治君が私の言葉に目を見開く。
「今度、お返しに何かお菓子作ってくる。手作りの食べ物大丈夫?」
「…おん」
「じゃあ、崩れる心配がなさそうなクッキーかとかかな。作ってくるね」
「めっちゃ楽しみにしてる」
語気を強めに返されたそれに、本当に食べるの好きなんだな、と思った。兎に角これで、一方的にもらう関係じゃなくなるから、安心して分け合いっこできる。そう思うとちょっと嬉しい。心なしか隣の治君も、さっきまで喧嘩で険しい顔をしていたのが嘘のように機嫌が良さそうだ。お菓子作りのレパートリーが多いわけじゃないし、まずは色々試してみよう。運動は、やっぱり始めた方がいいな…。

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