前の席の北君


「ねぇ、1組の、美化委員の子に告られたって本当?付き合うん?」

前の席に座る北君を好きになって早一か月。臆病な私は、友達に何度もけしかけられても行動に移せずにいた。そんな折に尾白君経由で、大人しそうだけど密かに男子に人気な美化委員の子が、北君に告白したという話を聞いた。大人しそうなんていったの誰だ。女の子から告白するなんて大胆な。良く知らない子だけど、かっこいい。
「人の惚れた腫れたの話、噂するのは良くないと思うで」
こっちは自分の気持ちがバレないか、びくびくしながら勇気をふりしぼって聞いたというのに、眉1つ動かさないで真っすぐに告げられた言葉に、ちょっと固まってしまった。これが噂の正論パンチ。ごもっともすぎる。追及できる訳もなく「そうだよね…、ごめん」と引きさがるしかなかった。北君も話は終わりと言わんばかりに前を向いた。と思いきや、最後に「付き合ってはない」の一言を残していった。良かった。安心してにやけた顔がばれないで済んだ。

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やばい。よりによって厳しくって生徒をいびるのが好きな先生の宿題をやってないことに気づいた、授業開始5分前。今日の運勢は絶対最下位だ。
「北君、一生のお願い。今日の英語の宿題見せて」
「自分でやらな力にならんやろ」
「それはそうなんだけど、今からやるのは物理的に無理!あの先生最初の10分ぐらい説教で時間つぶすじゃん…!それは皆の迷惑にもなるし、時間の無駄や!次からちゃんとやるから!」
と全力で力説したら、「今回だけやからな」と返されてこっちがびっくり。自分からお願いしといてなんだけど、すんなり見せてもらえるとは思ってなかった。ありがとう!神様や!と思わず力強く伝えたら、あきれられたような目を向けられた。正論パンチに力技で反論した人は今まであまりいなかったのかもしれない。宿題を写させてもらっている間、北君はずっと私の様子をじーっと見ていて、緊張してしまう。勘弁して。あと3分でこれを移し終わらなきゃいけないんだから。

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委員会の仕事で帰りが遅くなった。早く帰らなきゃと焦っていたら、下駄箱でバレー部軍団を見つけて胸が高鳴った。北君がいる。それから、尾白君と有名な双子。宮ツインズだっけ?何やら騒いでいるなと思ったら、夕方から雨が降り始めたというのに、双子が傘をもっていないらしい。
「俺の折り畳み使うてええよ」
「「あざっす」」
「いや、それでも一つしかないやん。相合傘すんのか、お前ら」
「ツムあほやから濡れても風邪ひかんやろ、お前が濡れていけ」
「「あ?」」

「あの、良かったら傘使う?」
身内のノリで盛り上がっている様なので部外者が割って入るのもどうかと思ったけど、傘が無くて困っているのは本当だろうから、躊躇いながら声をかけた。
「みょうじ、ええんか」
「予備の折り畳みあるから」
突如知らない3年に声をかけられて困惑していた双子も、尾白君の知り合いと分かって警戒をといたようだ。「「あざっす」」と綺麗に揃った声でお礼を言われたると、体育会系に縁のない私は少しびっくりする。年下といえど身長も声も大きくて、なんだか同じ人種と思えない。折り畳みではこの双子は濡れちゃうだろうから、長傘の方を差し出した。ところで、北君にさっと割り込まれた。
「え」
「お前ら、俺のつかえ。みょうじさんの、俺が使うてええ?」
「え、うん」
いいけど、なんで?って疑問が顔に出ていたのか「返す時面倒やろ。俺なら教室で返せるから」と言われて納得した。流石北君、冷静だ。

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「あ、尾白君だ」
「みょうじ、北おらんの」
「北君ならさっきどこか行ったよ」
去年同じクラスだったから、尾白君とは顔見知り。尾白君は人が良くて誰とでも仲良くなれるタイプなので、あまり男子と接点がない私もそれなりに話すほうだ。共通の知り合いの噂話に花を咲かせていたら、北君が戻ってきた。
「なにやってるん」
「あ、ごめん。私お邪魔だね!」
尾白君、何か用事あったんだよね、と自分の席を立った。「ちょっみょうじ!」と焦った尾白君の声が聞こえてきたけど、北君に用があるんでしょ、と軽く手を振って窓際で集まってた友達の輪の中に向かった。何やら後ろの方で尾白君が必死に話してたけど、何やらかしたんだろう。

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「年明け公休なのいいなぁ」
「休んだ分自分で勉強せなあかんから、逆にしんどいやろ」
「それもそっか」
バレー部は年明け早々全国大会出場で公休らしい。公休いいなぁとは言ったものの、この時期休みとか関係なく家でも受験勉強の最後の追い込みだ。北君とか尾白君、こんな時期までバレーとか、すごいなぁ。
「土産、東京バナナがいいな」
なんて、ふざけて言ってみた。なんで俺が土産買ってくるんやって突っ込まれると思ったら、
「土産、なぁ。優勝旗でええか?」
と返されてしまい、固まる私。どうしよう、好きな人がかっこいいです。

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私じゃ想像できないくらいの努力を重ねてきたのだろうその人に、私はなんて声をかけていいかわからなかった。試合は中継で見ていた。北君は自分は試合に出ないかも、なんて言ってたけど、ちゃんと出てた。多分、バレー部の中では小柄な方なのかもしれないけれど、いつも後ろから見てるより、ずっとずっと大きな背中で。皆を守っていた。
「北君、試合おつかれさま」
「おう、応援ありがとな」
なんて、無駄に気を使っていたけれど、翌日登校した北君は、思っていた以上に普通、どころかむしろ清々しさを感じる姿だった。。
「残念だったね」
「うん。でも、楽しかったで」
そう言って笑う北君に、胸がとくりと音を立てた。北君にこんな顔させるなんて、バレー、お前はいったい何者だ。

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もうすぐ卒業である。あーあ、最後の方あんまり学校来なかったから、北君と会えなかった。ああ、北君が気づかせた恋が、北君なしで育っていって、そのまま消えちゃう。いいんだ、4月からは大学生。早く新しい恋に目覚めるから。神様素敵な出会いをください。そう自分に言い聞かせていたのに、

「好きや」
「へ」

登校日が重なった日(というか、北君は割と毎日登校してるみたいだった)に、教室の方が勉強ができるから、と放課後残っていたら、部活に顔出してきた帰りであろう北君と二人っきりになった。というのは嘘。鞄が置きっぱなしだったから、戻ってくるかな、と淡い期待をしていた。最後にゆっくり話すチャンスだと思ったから。教室に戻ってきた北君と二人きり。少し緊張したけど、ああやっと話せる、と嬉しくって話しかけた。それなのに、どこか上の空な北君に、早く帰りたいのかな、と落ち込んだ私が会話を続けることを止めたら、突然の冒頭の言葉である。信じられなくて目を白黒していた私は、よっぽど間抜けな顔をしていたのだろう。

「俺、結構アピールしてたつもりなんやけど」
「ひぇ」
これは夢だろうか。
「返事、してくれんの?」
「よ、よろしくお願いします」
神様すみません、大学での出会いはいらないです。これが夢じゃなければ、それだけでいいです。

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おまけ(半年後)
「試験勉強、家来る?」
「へ」
待って待って北君、それは言葉の通り意味?それとも?
「ばあちゃんおるけどな」
「え」
「期待した?」
北君は思ったよりいじわるです。

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