1.今日は何の日(風間仁)
1,今日は何の日
昨日の夜に掛かってきた仁からの電話で今日の予定は全てキャンセルになった。
「……すまない……」
電話口から伝わる申し訳なさそうな様子の仁。
「明日覚えて……ううん仕事なら仕方ないよね」
ナーナは何か言いかけたがそれ以上は言えなかった。
ナーナの彼氏風間仁は現三島財閥頭首で、現在世界を相手に戦争をしている。その為最近では二人が暮らすマンションには殆ど帰って来ず、もう2ヶ月も顔を合わせてなかった。
半年前から今日は予定を入れないように言っていたのに、まさかこんな事になるとは。
(……仁。忘れてないよね……?)
ナーナは携帯電話をギュッと抱きしめた。
三島財閥本社ビルAM9:00━━━━。
仁はカレンダーを見つめていた。昨日のナーナの最後の言葉が何故か頭から離れなかったのだ。
「一体今日何があったんだ?」
半年前から今日は予定を入れないようにとナーナに言われていた。
「互いの誕生日でもないし、何か記念日でもあったか?」
考えても答えは見つからなかった。
「……仁、会議が始まるわ?」
ニーナが呼びにくるまで仁は考え込んでいた。
「……今行く」
仁はため息をつくと椅子から立ち上がり部屋を出て行った。
空港から外にでると変わらない景色が広がっていた。
吹き抜けてゆく風が、青空が、空気が懐かしかった。
屋久島PM14:30━━━━。
昼食を食べ一息ついたナーナは目的地に向かって歩いていた。途中花屋で買った白いバラの花束を手に。
ナーナは屋久島で生まれ育ち、一年前まで住んでいた。屋久島は仁と出会い共に育った思い出の場所だった。
懐かしい町並みを抜け獣道に入り坂を上って行く。目指す場所は小高い丘の頂だった。
「一年ぶりだわ……」
坂を上って行くと急に視界が拓けた。そこは不思議と木々も草も生い茂ることなく殺伐とした景色が広がっていた。
三島財閥AM12:00━━━━。
会議の間もずっと気になりいまいち集中できない仁は、ニーナにもラースにも注意されていた。
携帯を見つめながらナーナに電話しようか迷っていると、一通のメールが届いた。
「ナーナ?」
━━━━仁、仕事は忙しいですか?私は今屋久島に来ています。今日は仁にとって大切な日です。覚えていますか?
「!?」
メールを見たその瞬間、仁の中で全てがクリアになった。
「ニーナ出かける。ヘリを回してくれ」
突然仁の口から飛び出した言葉。
「仁!?予定は詰まってるのよ!!」
ニーナは仁の言葉に驚きを隠せない。
「今日の予定は全てキャンセルだ」
仁はそれだけ言い残すと部屋を出て行った。
ナーナは周りの景色を見つめていた。5年前からここだけは変わっていない。
「お久しぶりです。元気でしたか?」
花束をそっとそこに置く。5年前ここには一軒の家があり、母と子が二人仲睦まじく暮らしていた。
だが5年前のあの日。
あの惨劇が仁の運命を大きく変えてしまった。
しばらくの間ナーナは手を合わせ黙祷していた。
ダダダダダ………。
突如響き渡る轟音にナーナは驚いて空を見上げると、雲間から一台のヘリコプターが現れた。
それはゆっくりと着陸する。
「!!」
「遅くなった」
ヘリコプターから降りてきたのは仁だった。
「……どうして?」
「ナーナのメールで、今日が何の日が思い出したんだ。俺にとって大切な日だと」
そう言いながら仁はナーナの隣に立つ。ヘリコプターは離陸して行った。
残されたのは静寂。
「此処に来るのは何年ぶり?」
「そうだな……5年は経っているかもしれない。で、ナーナは?」
仁は手にしていた花束をそこに置いた。
「私は1年ぶりよ。屋久島にいた時はちょくちょく来てたけどね……」
ナーナはそっと仁の手を握る。仁もその手を握り返した。
5年前に起きたある事件により仁の母親風間準は行方不明となっており、今でも生死は分からなかった。
「仕事は大丈夫なの?」
急に現れた仁を不思議に思いながらナーナは問い掛ける。
「問題ないさ」
「そう……?」
「さっきも言ったが、今日は何よりも大切だと思ったんだ」
仁は握っていたナーナの手を離すと一人歩き出した。
「……仁……」
一人家の跡地に佇む仁。
彼にとってここは忌むべき場所であると同時に、懐かしい場所でもあるのだ。
(……会えるといいね……仁……?)
仁の姿を見つめながらナーナはそう思わずにはいられなかった。
「ナーナ?」
しばらくして名前を呼ばれたナーナが仁の方を見ると、彼が手招きをしていた。
小走りで仁に駆け寄ると不意にぎゅっと抱きしめられる。
「え……仁……??」
「ナーナ、寂しい思いをさせてすまない」
「……うん……」
2ヶ月振りに感じる仁の温もりに包まれてナーナは幸せを感じていた。
「おばさまには会えたの?」
ふとナーナは仁に問い掛けると、仁は「まあな」
と短く答えただけだった。
「ナーナ?」
「んっ……」
仁の唇がナーナの唇に重なった。
━━━━風が二人を優しく包み込んでいった……。
今日は何の日