季節は夏を迎えていた。暑い、溶ける、暑い、と決まったフレーズを何度も二人は口にしていたが、ふと仁王の鼻を雨の匂いが霞める。
「雨、降りそうじゃな」
と言われ結城は空を見上げるが、鼻先に雨粒が当たり嫌な顔をする。
「う、降ってきたよ…」
雨は最初は小雨だったが、徐々に勢いを増して降ってきた。容赦なく雨は二人を襲い、近くの公園に急いで入り屋根がある休憩所へと逃げ込んだ。
「夕立じゃな、ここで少し雨宿りさせてもらうかのう」
「あ、雅治…タオルあるから髪拭いて良いよ」
木質系のテーブルに鞄を置き、結城は中から使わなかったタオルを取り出し仁王に渡す。
「お、さんきゅ……っ!」
仁王はタオルを手に取ると、何かに気づいたのかタオルを広げ結城を包み込む。
「ん?なに、雅治??」
「……お前さん、下着透けとる」
「え、えっ!!きゃー!!」
「と、とりあえずタオルで隠しておきんしゃい!」
仁王は頬を少し赤くしてタオルで包み込み、包まれた結城は恥ずかしさから仁王から少し距離を取る。
気を紛らわすように仁王は自分の濡れた制服のシャツを絞って水を出していた。
(今日は黒か…)
「ね、雅治…見た?」
「プリッ」
「見たよね絶対、そうじゃなきゃ透けてるなんて言わないし」
涙目でこちらを見る彼女がふと可愛く見えてしまい、夕立に感謝しなければならない。
ぷいっとそっぽを向いて誰も居ない公園に向かって文句を撒き散らす結城を見て小さく笑うと、仁王はタオル越しに後ろから結城を抱き寄せる。
「俺が言わんかったら、他の男に見られてもええんか」
「やだよ、恥ずかしいし……い、言ってくれて助かりました」
「つまり俺が見て良かったってことよ」
それは違う!と振り向いて訂正しようとしたが、仁王に抱きしめられていて動いたらタオルがズレてしまい、何も言えなくなった。
「雅治、私濡れてるからあんまりくっつかない方が…」
「んーええんよ、俺だって濡れてるし」
「あ、雨!…まだ止まないね」
「なに、緊張してるんじゃ、今さら」
み、見透かされている。制服が濡れているから肌の温度が伝わりやすくなっている事をきっと雅治は知っているだろうし、今こうやって私が一生懸命に思考を働かせている事もきっと分かっているに違いない。
「うぅ、早く雨止んで…」
「仕方ないのう…ほら、こっち向きんしゃい」
くるりと、身体の向きを変えられ仁王と結城は向き合う形になる。
「ま…さはる…」
「…あぁ髪?雫が落ちるから掻き上げたんよ、こっちの方が普段見ないからドキドキするじゃろ?」
イタズラっぽく笑う仁王にもドキドキしているが、やはり髪を上げている彼は普段見ない、目のやり場に困り公園の外の方を見る事にする。
「なあ遥、少しだけくっついてもええか?」
「…っ……」
「嫌なら、無理にとは言わんけど」
夕立が煩くて中々耳に入ってこないし色気たっぷりの雅治のせいで私の心臓も先程から騒がしい。
「少しだけなら、良いよ…」
「いいのう、その反応好きじゃ」
雅治の口の端が上がり、私もつられて笑ってしまうがそんな笑みも全て仁王の唇によって塞がれる。
暑いのが外なのか唇なのか分からない。
唇が離れると仁王はぺろりと口の周りを舐め、先程まで触れていた所を舐められたと思うと恥ずかしくて顔から湯気が出そうだ。
「熱い…」
「ん、暑いのう」
きっと私と雅治のあつい、は違うけど思ってる事は変わってないと信じたい。
「ね、まさ―」
ふいに次の言葉を口にしようとすると、合間を見て仁王が再びキスをしてくる。先程よりも深いキスに身体中が一気に熱くなる。
「んんっ」
「可愛らしい反応しなさんな。そんでもって、いい加減慣れんしゃい」
言葉も吐息も何もかも全て奪われる感覚というのは、こういう事なのかもしれない。
全てがスローモーションになったみたいに感じる、激しく降り注ぐ雨粒も髪の毛から落ちる雫も何もかも全て。
「雅治から貰うものは何もかも初めてばかりだから…無理、慣れない」
唇を離された結城の言葉を聞いて仁王は、目を一瞬見開くがすぐ元に戻り笑みを深める。
「これからじっくり遥は俺に染まるぜよ」
夕立が煩くて聞こえない早く治まって欲しい。ついでに、この詐欺師も誰か止めてください。
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