03

後で知った事だが花吐き病で吐いた花に触れると感染するらしく、あの時落ちていた山茶花に触れたがために花吐き病に私もなってしまったのだ。


「ねえ、柳君」

「どうした結城、さっきからため息をついている辺り女子特有の恋の悩みか?」

「そーそー。恋のお悩み」


放課後結城は久しぶりにテニス部に遊びに来ていた。ベンチでデータ収集に勤しむ柳に話しかけ、隣に座ってコートで練習する幸村を眺めていた。

一応目では幸村君を追っているが、幸村君を透して仁王君のコートを見ている私は最低だ。


「叶わないなあ」

「アイツは陰ながらモテるからな、まあ浮気という事も違うのだろうが…無理は禁物だぞ結城」

「わー。怖いよ参謀様ー。私まだ何も言ってないのに……あ、幸村君」


柳君には全部見透かされているてるっぽい…。

そんな柳と話していると幸村が水分補給のためにベンチに戻ってきた。


「遥、今日は一緒に帰れそうかな??」

「うん、終わりまで見てるから一緒に帰れるよ……あっ」


ふと目にコートを離れる仁王の姿が目に入った。

あれ、仁王君トイレ行く回数多くない?外周ってわけでもないし、どうしたんだろ。

目でつい仁王君を追っている私を幸村君が見ていた事を、私は知る由もなかった。


―――
――



おええええ。
そんな言葉が聞こえてきそうな程、仁王は山茶花を吐き出した。


「はあ、はあ…何で遥が居るんじゃ」


というか幸村と楽しそうに話しとったし、俺の入る隙も与えてくれんのじゃな。少しくらい俺だって話したいんじゃけど…。

うぷ、とまた嘔吐感がすると山茶花を再び吐き出す。


「はぁ…これはペテン師の名が泣くぜよ」


嗚咽と言えど意外にも体力を使うため、鏡に映る自分は顔色が余り良くなかった。

山茶花が血溜まりのように見えてくる。

ああ、そろそろ脳までおかしくなってきたかもしれん。今日も早めに帰らせてもらうとするかのう。

よろよろとコートに戻り荷物の片付けをする。


「仁王、今日もかい?」

「あぁ、すまん幸村。どうも体調が最近すぐれんのじゃよ」


その隣に居る女を見ると、今にも山茶花吐き出すから早めに帰りたいだけなんだがのう。


「仁王君、気をつけてね」


俺の事を心配してくれてるのか、幸村の隣で自分よりも苦しいような悲しげな目を送ってくる。


ああ、テニスをする仁王君をもっと近くで見ていたいのに。
私の想いは、

ああ、幸村と話して笑ってる#遥か#が俺と話して笑ってくれたらええのに。
俺の想いは、


伝わらない
伝えられない



「じゃあな」


仁王の声を最後に二人の想いは交わる事の無いまま、過ぎ去っていったのであった。




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