今ここに絡み合う

あれから何となく仁王君と距離が出来てしまい、話せないまま中学を卒業してしまい私は高校生になってしまった。

花吐き病は今でも治っていない、たまにふと仁王君を思い出しては私の口からは紅い山茶花が出てくる。仁王君を忘れようと私は少し遠い高校に通っている。

もしかしたら好きな人を忘れる事が出来たら華が出なくなるかも知れない、なんて淡い期待を抱きながら毎日通学している。

高校が別になる事を理由に結城は幸村と別れようとしたのだが、幸村はどうやらそれより先に別れる事を考えていたらしく、結城の想いが自分に向いていない事を知り謝罪してくれたのだ。


「幸村君にきちんと言えないまま、仁王君にも想いを言えないままにして、私って全部中途半端だぁ……あっ!」


学校が終わり駅のホームで帰りの電車を待っていると、反対ホームに白銀の髪が一瞬見える。反対ホームに電車が入るアナウンスが鳴るが、結城は気にせず急いで階段を降り反対ホームへと向かい通路を走り階段を登る。


「まって…待ってよ…!」


階段を登りきる頃には電車は発車してしまい、降りた人が数人が息を整える結城の横を通り過ぎていく。

しかし彼女が探していた人は駅のホームに備え付けられたイスに座り携帯を弄っていた。結城を見るなり再び携帯へと視線を戻す、間違いない仁王雅治 本人である。


「気づいてたの?」

「ん、走ってくるの見えたから電車乗らんかったぜよ」


隣のイスに座り仁王を盗み見ると、不意に目が合い鼓動が早くなる。目の前で華を吐くわけにもいかず気を紛らわすために発車してしまった電車の線路の方を見る。


「ちっと俺に付き合いんしゃい」


言い終わらない内に仁王は結城の手を掴むなり駅の改札口を出て、子供が走り回る公園へとやってくる。

仁王は結城をブランコに座らせ隣のブランコへと座り、足でブランコを軽く漕いでいる。


「笑える話かもしれんが…笑わないで聞いて欲しいぜよ。
俺はとある人に片想いしてて運悪い事に花吐き病を患ってのう、しかしそのとある人には彼氏がおって俺は花吐き病を患ったまま死ぬまで生きるものだと思ってたんじゃ。
彼氏曰くとっくに別れたなんて最近小耳に挟んで、こうしてたまにこっちまで来てるんだが今日はそのとある人に会えたんよ」

「え、仁王君も花吐き病だったの?あ…でも好きな人に会えたんだよ、ね??」


仁王は結城の声を聞くなり何を思ったのか吹き出し、腹を押さえて笑っている。


「もう、仁王君…私変な事言った?」

「ふはは、すまんすまん。俺が会いたかったのは遥…お前じゃ。相変わらずちっと抜けとるのは変わらんのう」


仁王は優しい表情を結城に向け、ブランコを降りるとブランコに座る結城の前にしゃがむ。


「あの時俺は、お前から…遥から逃げた…けど俺はどうしても遥が好きで毎日ゲロ華ばっかり吐いててのう…人助けと思って……って何で泣いてるんじゃ!」


視線を落とし、ふと見上げると結城は涙を零し微笑んでいた。


「あの、ね…私も花吐き病になってね……仁王君がずっと好きで、でも私中々言えなくて…その…っ!」


泣きながら結城は今まで言えなかった事が途切れ途切れだが、言葉となりようやくきちんと言葉にし目の前の人に、仁王に伝える。

仁王は笑わないで聞いていたが、痺れをきらしたのか結城を抱き寄せ腕で包み込む。


「俺ら、両想いだったんじゃな……泣いててもええから顔見てもええか?」


頷くのを確認すると仁王は再びしゃがみ顔を覗いてくる、優しく頬に触れてきたその手が震えているのが分かる。


「遥、好いとうよ」


やがて唇と唇が重なり合う。
深いキスがまた嬉しくて結城はさらに涙を零す。唇が離れると仁王は涙を舌で舐めとり結城の額に自分と額を優しく合わせる。


「なあ、華出ないのう。苦しくもない…遥は苦しいか?」

「ううん、苦しくない…寧ろ今は仁王君がいっぱい過ぎて苦しい」

「はは、俺も。今とても幸せ過ぎて苦しいぜよ」


両想いになれた二人は再度唇を重ねる、長く苦しい病気を治しやっと幸せを手にする事が出来たのでした。


嘔吐中枢花被性疾患、簡単に言うと花吐き病なんて言われている。有効な治療法は未だ発見されておらず、両想いになることによって完治すると言われている。

今日もまたどこかで片想いを拗らせた人が華を吐いているのだろう。



Fin〜


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