桜が咲き誇り時折そよ風により桜が揺れ、体育館では在校生が集まっている。今日は立海大附属中学校の卒業式が行われていたのだ。
結城は在学生として卒業式を見送っていた、がその目は涙で潤み今にも大粒の涙を零しそうであった。
何故結城は今にも泣き出しそうなのか、それは彼女が一年生の頃に遡る。
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「あ、あの仁王先輩!」
「お前さんか?この手紙くれたの」
「わたし!仁王先輩の事好きなんです。お付き合いして頂けませんか?」
はっきり言ってその時の仁王先輩の表情は今でも覚えているNOを突きつける一歩手前だった。私は仁王先輩が口を開く前に続けて言う。
「仁王先輩が卒業するまでで良いです!仁王先輩の傍に居させてください…お願いします」
「ははっ告白してるのにお願いに変わっとるぜよ、ええよ…よろしくな、遥」
手紙の裏に書いた名前を見て私の名前を呼ぶ仁王先輩を見れただけで、満足だった幸せだった。これは考え過ぎだが死んでも良いと思えるくらい私の心は満たされた。
それからも学校が終わり帰る時は一緒に帰ってくれて、夜はたまに電話もしてくれたり、土日は部活をサボった仁王に連れ回された事もあった。その後怖い副部長の人に一緒に怒られた事もあった。毎日幸せで、仁王の気まぐれだとしてと結城は本当に恋人になれたと思っていた。
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名前を呼ばれて卒業証書を受け取る姿はとても綺麗で、徐々に近づくお別れをそれは示しているように思う。
泣いてしまう結城を心配して両隣のクラスの子が心配している。
「大丈夫…ありがと」
割れんばかりの拍手の中、卒業生は体育館を後にしていく。結城の拍手はどこか気が抜けていてただひたすら体育館を出ていく仁王を見つめていた。
噂によると、仁王は中高一貫の立海を受験しないと言っていたらしくお別れなど元から決まっていた事らしい。
卒業式が終わり在校生は卒業生に近づき、お祝いの言葉を伝えたりそれぞれの宗の中の想いを伝えたり、そんな会話は今の結城には何も入ってこなかった。
結局私と仁王先輩は自然消滅という形で、私は仁王先輩から卒業したんだ、させられたんだ。
卒業式の後片付けをしている時だった。頭が異様にくせっ毛の強い人が結城に近づいてきた。
「あ、アンタ結城遥だよな?仁王センパイから預かった物あってさ……これ」
切原は結城の手に仁王から預かった物を渡した、それは鼠色の封筒で封もされていなかった。切原は渡すと瞬時に自分の片付けていた持ち場に戻って行った。
封筒を開けると中には桜の花びらとボタンが入っていた。
「ボタン?なんで?…桜?」
結城はその意味が分からず、封筒の中に戻し体育館の片付けを進めていく。
片付けを余り進んで自らしないクラスの子の声がたまたま結城の耳に入ってきた。
「仁王先輩の第二ボタン貰えないって分かってるけど欲しかったー!」
「だよね、もらえるわけないよね。でも仁王先輩ボタン付いてなかったから誰かにあげたんだろうな」
その瞬間封筒の中のボタンの意味を理解した。
体育館の時計を見るや否や結城は片付けを放棄し、外へと向かって走り出した。後ろから先生の呼ぶ声が聞こえるがそんなの全部無視。
どうして、このボタンを私に渡してくれたのか聞きたいよ…仁王先輩!
「そげに走ってたら転ぶぜよ?」
「これ、貰いました…!ボタン!」
仁王はまるで結城が来る事をを知っていたかのように、門の近くで桜を眺めて待っていた。
「おん、遥が見つからんかったから俺が赤也に頼んだんじゃ」
「どういう事ですか、ボタン…!ただいつもの気まぐれで渡したんですか?!それとも私に仁王先輩を卒業した記念にでもと…くれたんですか??」
顔がぐちゃぐちゃだ、泣き喚き散らしながら意味分からない事を仁王先輩にぶつけてる。そうじゃない、そうじゃない…そう言いたいんじゃないのに…!!
すると見かねた仁王が結城をそっと抱き寄せる、ふわりと仁王に包まれた腕の中で声を殺して涙を流した。
「なんじゃ、自然消滅でもするかと思ったんか?俺別れようなんて言っとらんぞ??ちと距離は遠くなるかもしれんが立海の中にはおるしのう」
思っていた事を当てられた事もあるが、驚きの余り涙が止まり仁王の顔を見上げた。
「酷い顔じゃな、遥は笑っとる方似合ってるぜよ…ティッシュで拭いちゃるよ」
「んぐっ……にお、せんぱいは…他の高校受験、するって…自然消滅するかもって…」
「俺はまだお前とお付き合いするぜよ?」
「じゃあ、あの時の卒業するまで、っていうのは?」
「あれは、お前さんが必死で俺の気を引こうと一生懸命で…つい真顔だったけど俺は遥からの告白嬉しかったんよ」
「気まぐれでお付き合いしてくれたんじゃなかったんですね…?」
仁王は照れくさそうに髪を掻き、結城を身体から離しきちんと目を見る。
「改めてって言うのもなんじゃ…俺と正式にお付き合いして欲しいぜよ、遥」
「はい…仁王先輩っ!大好きですっ」
ボタンの意味は一番大切な人として傍に居てほしい意味を込めて渡されたのであった。
それを知るのはもう少し後のお話
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