私には気になる人がいます。音駒高校に入学して以来ずっとです。その人は1つ年上の3年生なんですが、全くと言っていいほど関わりはありません。なので、向こうは私の存在に気付いてもいないと思います。いえ、私が気付かれるような存在ではないので無理もないです。逆に私のことを知っていたら、それは私が何か失礼なことをしてしまったんだと思います。
きっと卒業まで会話をすることもなく、遠くから眺めている存在でしかないと諦めていた時、同じクラスの弧爪研磨くんと知り合いなのではないかという微かな希望が見えてきました。

「こ、弧爪くん…」

休み時間に意を決して弧爪くんに話し掛けたら、まさかの声が裏返って焦ったけど弧爪くんは気にすることもなくゲームをしていました。私の呼び掛けには応えず、ひたすらゲームをやっているので、もう一度呼んでみました。

「あ、あのぅ…弧爪くん?」
「………」

む、無視?私って弧爪くんに無視されるほど嫌われてるのか、と悲しくなったけど、気になるあの人との繋がりが欲しくて更に弧爪くんと呼べば、次はやっと応えてくれました。

「何…?ラスボス以上に重要な用件?」
「へ?…らすぼす…」
「………」
「…えっと…私、大平栞と言います」
「知ってる」
「あ、そうですか」

良かった、認識はされていた、とホッとした所で本題に入った。らすぼすが何なのかは分からなかったけど、折角話し掛けたんだし。

「弧爪くんて、黒尾先輩と知り合い?」

黒尾先輩と私が発したことで弧爪くんの眉間にシワが寄った。あ…黒尾先輩と知り合いじゃなかったのかなと思って、知り合いじゃないならいいです、と言おうとしたら弧爪くんの言葉に遮られた。

「…クロは幼馴染」

くろ…くろとは黒尾先輩のことだろうか。たぶん、そうだろう。さぁ、ここからが重要なポイントだ。

「あの…その…黒尾先輩って彼女いるんだよね?」
「はぁ……」

私の言葉に弧爪くんは盛大に溜め息を吐いた。こ、怖い…怒っているんだよね、コレ。

「そういうのは、本人に聞けば?」

苛立ちを含んだ声色が怒っていると認識させた。弧爪くんの言うことは当たり前のことだ。本人に聞けなくて、知り合いに聞くなんて失礼だ。

「っ…あ、そ、そうだよね…ごめん。」
「………」
「本当にごめんね。私、藤代先輩に憧れてて、弧爪くんのところに黒尾先輩がよく来るから、弧爪くんと黒尾先輩が知り合いなら彼女の藤代先輩とも知り合いかなー、なんて思って。それで藤代先輩が卒業するまでに1回は喋ってみたいなって思っちゃって」
「え?」
「いや、ほんと、ウザくしてごめんね?らすぼすに専念して下さい」
「え、ちょっと…」

少しの勇気を振り絞りましたが、キャパ超えですぐさま自分の席に戻りました。

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2016.09.25


少しの勇気を


 

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