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親愛なる私の家族、トムへ。
一番はじめに書いておきます、私はハッフルパフに選ばれて、それからハッフルパフの先輩はとても良い人ばかりでした。因みにハッフルパフは四つある寮の中で一番劣等生の多い寮なのだと、ついさっき、同じ一年生でスリザリンに選ばれた子に教わりました。冬になれば湖に突き落としてやります。トムは来年からホグワーツだけれど、賢くて優しいトムはきっとレイブンクローだと思います。けれど、たまに意地悪だからもしかしたらスリザリンかもしれません。トムがもしスリザリンになっても、心配はありません。本に書いていたよりもスリザリンの先輩達は優しいし、たまに意地悪だけれど、それでも湖に突き落としてやりたいあの子よりはずっと良い魔法使いで魔女でした。マグル生まれの子の前ではとても嫌な先輩達になるけれど。
そろそろ我が家のテーブルにアップルパイが並ぶ頃。母さんのアップルパイを想いながら、私は頑張って明日の魔法史の授業を受けたいと思います。因みに、飛行訓練の授業は来週から。それからもっと因みに、スリザリンとの合同授業がとても多いです。
箒で空高く飛んだら、私達の住む街は見えるかしら。見えるととっても嬉しいのだけど。
愛を込めて、カザリより。
もっともっと因みに、未だ友人は出来ません。かしこ。
「……カザリにしては物騒な言葉がある…」
湖に突き落としてやりますと書かれた羊皮紙を見下ろして、それから見送りの日のダンがどれほどのものだったのかを語ろうとしていた自身の羊皮紙を見る。カザリがホグワーツへ発ってから今日で三日。カザリよりも先に手紙を書いて送ろうと思い机に向かっていたのだが、僕の行動は遅かったらしい。
カザリからの手紙をもう一度読み、机に広げていた羊皮紙を破り捨てる。そのままその手で羽ペンを握り、僕は空いた手で頬杖をつきながら宙を見た。僕の部屋には今日も、カザリの部屋から漂ってきた白くて小さな花が浮かんでいた。
すい、と羽ペンの羽で花を遠ざけて、一体どうすればこの物騒な言葉がカザリの胸から消えるのだろうかと頭を巡らせてみるが、なかなか答えは出て来ない。それもそうである。僕は今までにこんな言葉を吐くカザリを見たことが無いし、そして何より、今まで誰かの機嫌などとろうと考えたことが無いのだから。
「…………………………うん」
カザリがいたら恐らく僕の名を五度は呼ぶであろうほどの間をあけて、僕は一人頷き羽ペンを走らせた。
一番下に付け加えられた一文は、見ないふりである。
アブラクサス・マルフォイはきっと、人よりも足りていない私の頭を馬鹿にするために生まれてきた魔法使いであり、彼の口や鼻や目や、つま先から頭の天辺に至るまで、その全てもまた私という頭の足りない魔女を馬鹿にするために存在し、息をしているに違いない。初めて汽車のコンパートメントで顔を合わせて二言目には、変な顔、と言われて以来、私は彼と顔を鉢合わせる度にそう思っている。こんなに誰かを嫌ったことなどない、と自負するほどに。そもそも誰かを嫌いになれるほど同世代の魔女や魔法使いと触れあった記憶はないが、きっと彼ほどに嫌う魔法使いはきっとこの先現れることは無いのだろう。私が一人で蛙チョコレートを捕まえることが出来ない事くらいにそれは明らかだ。絶対に。いや、きっと、おそらく。やっぱり、多分。
「やあ御機嫌よう、いや、不機嫌ようかな?変な顔をしたミス劣等生」
やっぱり、絶対だ。
入学四日目にしてもうすでに何人もの取り巻きを引き連れたプラチナブロンドの持ち主を視界の端にとらえながら、私はきつく変身術の教科書を握り締めて唇をかむ。変身術はスリザリン生と合同ではないからと油断して歩いていた私が悪いのだろうか。いや、悪くない。まるで朝の習慣である歯磨きをするために洗面台に並んでいたかのようにわざわざ中庭で待ち伏せしていた彼が悪いのだ。
変身術入門と金色で描かれた教科書の背表紙を人差し指でなぞりながら、変な顔、とくすくすとマルフォイの後ろで口元を抑えて笑う女子の二人組を見る。彼女達の髪は私のように寝癖なんて一つもついておらず、すとんと重力に従って真下に流れていた。
「今から変身術か?うまく人並みの顔になれるといいな、ミス劣等生」
「…………その、その呼び方、やめて……」
「やめないね。君がほんの少しでも劣等生じゃなくなったら考えてやらないこともないけれど?」
「……わた、し、私、あなたみたいな魔法使い、きらい」
「ああ、そりゃあどうも。でも、君ほど嫌われてはないみたいだけど?」
こんなときどうすれば良いのか、私は誰からも教わらなかった。母さんや父さんから教わったのは、精々笑顔でいることくらいだし、トムだってなにも心配せずとも友人が必ず出来ると私に言った。しかし、今の私には出来るはずの友人はどこにもいないし、笑顔を見せる相手すらいないのだ。もしもそんな相手が今隣にいたならば、きっと教えてくれたことだろう。目の前にいるとんでもなく意地の悪い彼に何と言い返してどんな顔をしてやれば良いのかを。
急に、トムに会いたくなった。
「僕が君より嫌われているなら、君は今頃独りきりなはずがないだろう?」
青白い彼の顔が愉快なものをみるように歪んで、私はたまらず下を向いて早足で教室へと逃げる。それでも彼がひき連れていた取り巻きのくすくすという嫌な笑い声が後を追いかけてきたので、中庭を抜けて廊下を走りあわてて角を曲がった私は、弾かれるようにローブの端を強く払う。まるでくすくす笑いが小さな妖精に化けてローブの端にしがみついているかのような気がしたのだ。こんなことをトムに言えば、彼はきっと馬鹿げていると真顔で言い放って、買ってもらったばかりの新しい箒を持って裏口から私を丘に連れ出してくれるだろう。けれど今、私は一人で変身術の教科書を握り締めている。お気に入りのカーディガンのポケットの中でチョコレートヌガーを溶かしてしまった日よりも酷い気分だ。嵐だ。大荒れだ。
「おや、おや、何をしている?もう授業が始まる時間だと思うが、違うたかの?」
ローブの端を払い終えて漸く息をつこうとした、その時だった。俯いていた私の視界に陰がさし、白と灰色と、それから鳶色の混ざった髭を赤いリボンで結んだ彼がひょっこりと手を差し出してきたのは。
ダンブルドア先生、と私が言うより早く彼は私の肩をぽんぽんと軽く叩き、そのまま私の肩を抱いて教室へと歩き出す。あと少しも歩けばたどり着くそこに案内するには扱いが丁寧すぎて、私はゆっくりと瞬きをしながら彼の髭をまとめる赤いリボンを見つめた。早く教室に、と促すだけなら肩を叩けば済むのに、どうして肩を抱かれ教室に向かっているのだろう。そして、今日はどうして赤いリボンなのだろう。
「……何か言いたいことでもあるのかの?」
「……昨日はシルバーの星の飾りがついてました」
「む、ああ、ほっほっ、これのことか。てっきりこの手について問われると思ったが、ほっほっ」
ダンブルドア先生が幾つなのか、私にはさっぱり分からない。肌はつやりと光るのに、何故だか皺がたっぷりある目尻に、まるでマグルの絵本に出てくる老人のような笑い方をするのだから。ダンブルドア先生は指先で赤いリボンを撫で、次いで私の肩をまたぽんぽんと叩く。そして彼はそのまま自らのローブの中に手を突っ込み、何か面白いものでも見つけたかのように笑みを浮かべ、私に向かってローブにつっこんでいた手を差し出してくる。
「今日もしっかり学んで立派な魔女になりなさい」
拳をつくっていたその手の下に手を広げると、ぽろりと黄色い包み紙が降ってきた。それに見覚えがあった私は、その包み紙をほんの少し開いて鼻に近付ける。
「さて、それでは授業といこうかの。カザリや、今日は窓際の前から三番目の席に座りなさい」
「え、え、」
「占い学の先生に今日のわしの幸運の席だと言われたんじゃが、わしは生徒にはなれん」
代わりに、カザリが座りなさい。
ダンブルドア先生の瞳が私をのぞき込んで、彼の高い鼻が私の少し低い鼻に触れそうになる。ぐんと近付いた赤いリボンを見つめて頷けば、彼はうんうんと頷き、いつの間にか目の前にあった教室のドアを開いた。
真っ直ぐ教卓に向かっていくダンブルドア先生に遅れて、私は駆け足で窓際の前から三番目の席に向かう。
真っ直ぐと背筋を伸ばして椅子に座るグリフィンドール生の隣はとても静かで、その日の変身術の授業中、私は一度もくすくす笑いの妖精に捕まらなかった。ローブの中のレモンキャンディーが守ってくれたのだと手紙に書けば、トムは笑ってくれるだろうか。
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