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のび太が黙々と問題を解いていくのを見ていたしずかが、のび太に声をかける。
「のび太さん、ここ」
「え、間違ってる?」
 しずかが指さしたのは、のび太が今解いている問題の数個前のものだ。しずかは持ってきていたルーズリーフにその式を写し、解いていく。答えは『2』。のび太のプリントにも同じ数字が書かれている。
「いいえ、間違ってないわ……。ただ、その解き方は先生にならったものじゃないから」
「ああ、これは、出木杉くんが野比くんはこっちの方がわかりやすいだろう、ってわざわざ教えてくれたんだ。やっぱり答案用紙とかには先生が教えてくれた通りに書かなくちゃダメかな……?」
「……」
 しずかが首を横に振ると、のび太は安堵したように息を吐いた。「よかったぁ」とこぼすのび太を見ていたら、おかしくなってきたしずかは、クスクスと笑いをこぼす。
「しずかちゃん?」
「のび太さん、出木杉さんの教えをちゃんと守ってるのね。綺麗に写されたノートもそうだけれど、その解法も、全部出木杉さんに言われた通りにしているんだもの」
 しずかの言葉にのび太は露骨に慌てて理由を言う。
「そ、それは……!出木杉くんがボクのために教えてくれたから!」
 のび太の理由を聞いて、しずかはますますおかしそうにクスクスと笑う。
「出木杉さん、よほど必死だったのね」
「えっ」
「のび太さんの気を引くのによ」
 しずかの言葉の意味がわからないらしいのび太は、首を傾げる。しずかは相変わらず笑ったままだ。
「のび太さんのために簡単な解法を学んで、のび太さんのために板書を綺麗に写す方法を考えて。きっとあの人の行動理念はすべて『のび太さんのため』なんでしょうね」
 「そんな人に愛されるなんて、のび太さんが羨ましいわ」と、しずかは笑った。
出木杉の行動理念が、すべて自分のためだったなんて。初めてそれを知ったのび太は、徐々に顔が赤くなっていくのを感じる。
「あんなに素敵な人に愛されて告白までされたのに、のび太さんは何が不満なのかしら。相手が男だから?周りの目が気になるから?」
「そ、れは……」
 口ごもるのび太の手を取って、しずかは真剣な表情で、のび太の目を見つめて言う。
「相手が異性だろうと同性だろうと、好きになってしまえばみんな同じなんじゃないかしら」
「……」
「それに、周りの目なんて気にすることないわ。それを気にして、自分の気持ちに嘘をつく方がいけないことよ」
「……しずか、ちゃん……」
「……少なくとも、わたしと武さん、それにスネ夫さんは、貴方達ふたりを応援するわ」
 にっこりと、いつもと同じ他人を安心させるような笑みを浮かべたしずかに、のび太はいてもたってもいられなくなって、席から立ち上がる。そう言えば今日は一度も出木杉くんと会ってない、と思ったのび太がしずかを見ると、しずかはまるで何を聞かれるのか予測していたかのように「今日は生徒会のお仕事があるって言ってたわ」と微笑む。のび太はしずかに対するお礼もそこそこに、生徒会室へ向けて走り出した。





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まだ愛を知らずにいたあの頃の君へ
title:空想アリア