どれだけ記憶を遡っても、思い出せるものは目覚めてから二年間の出来事だけだ。それ故に、目の前に広がる遊園地の光景は今の嵐守にとっては全く新しい情報だった。怖気付く。道行く人々はみんな楽しげで自分の存在が場違いである事を否めない。
「嵐守! 良かったら一緒に行かないか?」
 エイリア学園のアジトがある可能性が高いポイントとして示された場所はナニワランドと言うこの遊園地だった。浮き足立つ雷門イレブンに瞳子はアジト捜索を大前提として自由時間を与えてくれたのだけれど、どうしよう、とまず嵐守は困惑した。士郎は気付いたらいつものように女の子に捕まっていたから、頼る事は出来ない。とりあえずあてもなく園内を巡ろう、とフラフラと歩を進めたところで心咲に声を掛けられた。
「ええと……ご迷惑で、ないのなら……」
「迷惑なんて事、ある訳ないだろ? ほらほら、円堂たちも一緒なんだ。行こうぜ」
 何か言葉を返すよりも先に――そもそも何も言葉を持たなかったとも言えるけれど――するりと手を取られ、少し離れた場所で待っている円堂や木野たちの元へ引かれて行く。
 迷惑でないなんて、それが真実ではないと嵐守は知っている。そう思い込んでいた。そっと目を伏せたまま、合流した円堂たちの後ろを嵐守はただ追い掛ける。
 瞳に映る世界は酷く不明瞭だった。



 みんなが様々なアトラクションに興味を示す様子をどこか遠くの出来事のように眺めていた。誘われても首を振って断る。みんなの邪魔をしたくなかったからなのだけれど、雰囲気を壊す事も邪魔をする事に繋がるのではないだろうかと何度も断っている内に思い至る。足取りは酷く重たい。
「……はあ」
 隠し切れずに思わず溜め息が零れた。慌てて口元を手で覆うけれど、隣りを歩く心咲には聞こえていたようで、彼女の視線がぱっとこちらを向く。嵐守は眉尻を下げた。ごめんなさい、と口にするより先に心咲が苦笑いする。
「流石に歩き疲れたよなー。なあ、みんな、一旦休憩にしないか?」
「おう、そうだな。あ、ちょうど売店があるぜ! アイス食おうぜ、アイス!」
「ふふ、円堂くんったらはしゃいじゃって……でも、遠足みたいでちょっと楽しいわね」
「いいじゃん、あたしもアイス食べたい! 円堂、早く早く!」
「まったく、遊びに来ている訳ではないのよ。気が緩み過ぎているのではなくて?」
「まあ、良いんじゃないか? たまにはこう言うのも。嵐守も一緒にアイス食べようぜー!」
「……え、心咲ちゃ……、ま、待ってください……!」
 崩れて行く。歩調が、呼吸が、今まで思い込んで来た真実が、すべて音を立てて。
 何の計算も思惑もなく彼女が嵐守の世界を広げようとする理由を見付ける事が出来ない。だって、こんなにも無価値な存在を日向に連れ出す事に、一体何の意味があると言うのだろう。だからと言って何か計算や思惑があっての行為である訳もなくて、嵐守は心の中で形になりつつある違和感を振り払うようにふるふると頭を振った。
 優しく引かれる手に現実味は伴わず、ぼんやりとした輪郭を見つめる。手首で揺れるミサンガは、それでも繋がりを示していた。